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2016年11月の『押さえておきたい良書

レッドチーム思考

あえて徹底的に異論を唱える内部チームの効用とは?

『レッドチーム思考』
 -組織の中に「最後の反対者」を飼う
ミカ・ゼンコ 著
関 美和 訳
文藝春秋
2016/06 384p 1,900円(税別)

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 米軍の組織内には「レッドチーム」という部門がある。その任務は、組織内で生まれた意見や流れにあえて反対・反論することで、それらに偏りがなく客観的に正しいことを検証・担保することだ。2000年代に入ってから標準的なプロセスとして軍や政府機関に導入され、同様の部門を設ける民間企業もあるという。
 本書では、そんなレッドチームについて、豊富な活用例や失敗例を挙げながら解説している。著者のミカ・ゼンコ氏は米国の超党派組織、外交問題評議会(CFR)のシニア・フェロー。専門は国際安全保障と軍事戦略で、ハーバード大ケネディスクールなどでの勤務経験もある。

ライバル会社社員を演じることで気づきを得る

 著者によると、民間企業がレッドチームを取り入れる際には、外部コンサルタントにファシリテーターを依頼することが重要なポイントになる。
 コンサルタントが用いる手法の一つに「ビジネスウォーゲーム」がある。コンサルタントは、企業の経営者や社員に取引先やライバル会社の社員を演じさせ、それらの視点をもとに自社の戦略を実行した結果をシミュレートしてもらう。そうして得られた洞察のもとで自由な議論を行い、戦略の見直しや、新戦略の立案をさせる。
 下記の引用はイスラエルの秘密情報部員だったコンサルタント、ベンジャミン・ギラードによるビジネスウォーゲームの様子だ。

“数えきれないほどこの演習を準備し、ファシリテーターを務めてきたギラードは、自身の役割を残酷なほど率直に、「部屋中の全員、特に経営陣を間抜け呼ばわりすること」だと言う。経営陣が役割をきちんと演じていない時には、参加者にこう念を押す。「私が市場で、あなた方のクビを救ってあげようとしてるんだ。この役に真剣に取り組まないなら、クビになると思った方がいい」。そして、「いつも言えないことを議論できる安全な場所はここしかない」と告げる。”(p.254より)

 ビジネスウォーゲームは企業内の人間だけでも実施できる。しかし多くの経営陣は、自分たちの既存の戦略が正しいと思い込んでいるため、あまり効果が得られない。著者は有意義なウォーゲームを行うためには、外部の視点を受け入れることに組織上層部が同意する必要があると言う。

人の認知能力はセキュリティーの穴になる

 どんな優秀な人でも、自分の組織の欠陥を見つけるのは難しい。自分に都合のよい情報ばかりに目がいってしまい、自分は正しいと思い込みがちだからだ。レッドチームの任務には、そんな思い込みにとらわれた人々に新たな視点を提供することも含まれる。
 1991年に発足した米国連邦航空局のレッドチームの主たる任務は、航空分野のテロ活動をシミュレートし、航空会社の保安手続きを覆面調査することだった。彼らはテロリストを演じて、飛行機内への爆弾やナイフの持ち込みなどを行い、職員が適切に対処できるかテストした。
 だが、彼らの行為は職員にまったく気づかれなかった。1996年にはある空港で60個の偽爆弾を持ち込んだが、一つも発見されなかった。もちろん空港には様々な防犯装置がある。しかしだからこそ、職員たちはセキュリティーが万全だという思い込みにとらわれてしまっていたのだろう。(担当:情報工場 宮﨑雄)

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2016年11月のブックレビュー

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