2016年10月の『押さえておきたい良書』
太平洋クロマグロの漁獲規制、ニホンウナギの絶滅危惧種指定などにまつわるニュースを知り、水産資源の枯渇を危惧する人は多いのではないだろうか。庶民は魚が食べられなくなるのではないか、と不安になる向きもあるかもしれない。居酒屋で出されるホッケが以前より小ぶりになっていることに気づいている人もいることだろう。
日本の天然資源の漁獲量は最盛期の4割以下に減っているそうだ。原因は主に日本漁船による乱獲という指摘も多い。養殖ならばどうか。実は養殖はもともと全体の漁獲量の中でシェアが小さく、魚種も限られている。日本の食卓を支えているのは今や輸入魚となっているが、世界的な日本食ブームの影響や漁獲コストの上昇のせいで価格が高騰している。輸入にあたって欧米諸国に買い負ける事態が起きているという。
本書は、そんな「獲れない」「買えない」状況で衰退しつつある日本の漁業・水産業や世界の漁業の動向、とくに近年漁業が成長産業になっている諸外国の事例をヒントとして取り上げながら、日本漁業の活路を探っている。
MSY(最大持続生産量)の考慮が世界標準に
日本が漁業大国として世界を席巻していたのは1970年代までだった。1973年の「第三次国連海洋法会議」で200カイリ(約370キロメートル)までの排他的経済水域(EEZ)という国際的な枠組みが確立。それまで日本が遠洋で漁をしていた漁場のほとんどが、どこかの国のEEZに含まれてしまった。日本漁業は遠洋漁場から締め出されたのだ。
EEZの限られた漁場で漁をする場合、単純に獲れるだけ獲るのでは、いずれ資源が枯渇する。そこで諸外国では、上記に引用したMSYの考え方で漁業を進めている。
個別漁獲枠方式をとらないのは主要国で日本だけ
MSYの考え方のもと漁獲可能量(TAC)を設定して出口規制を行う場合、二通りの方法がある。一つはTACを個々の漁業者が早い者勝ちで奪い合う「ダービー方式」、もう一つはTACを一定の基準で公平に配分し、あらかじめそれぞれの漁業者の“分け前”を決めておく「個別漁獲枠方式(IQ方式)」だ。前者は細かい利害調整が必要ないものの、漁獲競争により操業コストが増加して利益が減る、時間に追われて事後処理ができないために水産物の質が落ちる、さらに水揚げが集中するため値崩れを起こしやすい、といったデメリットがある。後者ならば、これらの問題は起きにくい。
1980年代にニュージーランド、アイスランド、ノルウェーがIQ方式を導入し、漁業を成長産業に変えていった。今、世界の主流はIQ方式であり、OECD主要国で導入していないのは日本ぐらいなのだという。(担当:情報工場 吉川清史)