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2016年10月の『押さえておきたい良書

おにぎりの本多さん

韓国に「おにぎりブーム」をもたらしたセブン-イレブンの戦略とは?

『おにぎりの本多さん』
本多 利範 著
プレジデント社
2016/07 328p 1,500円(税別)

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 今の韓国には、日本と同様たくさんのコンビニエンスストアがある。各店舗に陳列された商品も、日本のコンビニと遜色がない。だが、約20年前は違った。韓国のコンビニは、当時の日本のコンビニとは似て非なるものだった。
 本書では、セブン-イレブン・ジャパンから韓国セブン-イレブン(コリアセブン)に赴任した著者が、韓国社会にコンビニ文化を根づかせていった経緯とともに、そうした体験から学んだ「モノを売る秘訣」が語られる。著者の本多利範さんは現在、ファミリーマート専務執行役員。セブン-イレブン・ジャパン取締役、エーエム・ピーエム・ジャパン社長などを歴任し、流通・小売業界で数々の実績を上げてきた。
 本多さんが着任した1998年当時のコリアセブンでは、おにぎりをはじめとするフードは申し訳程度に数個置かれているだけ、それもお世辞にも旨いとはいえない代物だった。なぜフードに力を入れないかというと、韓国では「冷めたフードはお金のない人が食べるもの」だから。本多さんは韓国人スタッフに、フードは店舗収益率に直結する重要な商品であること、自社でおいしいおにぎりを開発して売り出せば他社と差別化ができることを説明した。
 しかし彼らは、「自社で商品開発をしても、競合他社に真似をされてしまうので意味がない」と言い張った。当時、韓国のコンビニでは、どのチェーンも同じデイリーメーカー(日配食品を製造するメーカー)を使っていたからだ。そこで本多さんは、他社に真似されないようなオリジナルフード商品の開発に乗り出すとともに、専用のデイリーメーカーを設立することにした。
 オリジナルおにぎりの開発にあたっては、日本海苔と韓国海苔のどちらがよいか、会社中で白熱した議論になった。結局は両者の良いところを合わせた折衷案にまとまったが、この議論は、社内に一体感を生むことになった。

CM放映によって生まれた社内の「自信」

“実は、CMに2億ウォンも使った意図には、お客様へコリアセブンの存在を知ってもらい、おにぎりを試していただきたいということ以外に、もうひとつあった。(中略)そのCMは韓国のコンビニエンスストア業界では初めてのテレビCMだった。韓国のテレビCMは自動車会社や家電、カード、保険などの大手企業しか放映時間が取れない、いわば高嶺の花の広告媒体だったのだ。そこに時間帯こそ少々悪いとはいえ、コリアセブンがCMを流したのだ。これはコリアセブンの社員、そしてお店のオーナーたちに大いに自信をもたらした。” (p.87より)

 2001年、本多さんは、おにぎりの知名度を上げるためにテレビCMに打って出た。結果、放映時間の関係もあり、その効果は当初は実感できるほどではなかった。しかし、CMのおかげで知名度は上がり、コリアセブンのおにぎりは「三角おにぎり」として世間に認知されるようになった。
 それに加え大きかったのは、上に引用した社内の意識改革だ。自信を持った各店舗のオーナーたちは積極的におにぎりを発注するようになったのだ。

「おにぎりの本多さん」誕生!

 こうして各店舗におにぎりが大量に並べられるようになり、CMとの相乗効果で「おにぎりブーム」が到来する。連日のマスコミ取材に応じた本多さんは「おにぎりおじさん」「おにぎりの本多さん」として韓国社会に知られるようになったのである。(担当:情報工場 内山貴子)

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2016年10月のブックレビュー

情報工場 読書人ウェブ 三省堂書店