1. TOP
  2. これまでの掲載書籍一覧
  3. 2016年11月号
  4. サピエンス全史(上)

2016年11月の『押さえておきたい良書

サピエンス全史(上)

7万年をかけて「統一」に向かう人類=ホモ・サピエンス

『サピエンス全史(上)』
 -文明の構造と人類の幸福
ユヴァル・ノア・ハラリ 著
柴田 裕之 訳
河出書房新社
2016/09 272p 1,900円(税別)

amazonBooks rakutenBooks

 地球上には現在73億人以上の人間が暮らしている。その全人類の祖先は、約7万年前に東アフリカからユーラシア大陸全土に広がったホモ・サピエンスであるという学説がある。私たち人類は、7万年をかけてどのように文明を築いてきたのだろうか? その文明は人類を幸福にしているのだろうか? そして人類はどこに向かおうとしているのか。
 本書はそんな疑問に、マクロ的視点から壮大なスケールで人類の歴史を俯瞰(ふかん)し、文明の成り立ちや法則を明らかにすることで挑む。国家や貨幣といった「虚構」が人間同士の協力を促し、文明を形成していくプロセスとその意味を、わかりやすい鮮やかな語り口で論じる本書は、48カ国で刊行され世界的ベストセラーとなっている。
 著者は、イスラエルのエルサレムにあるヘブライ大学で教える歴史学者。本書日本語版は上下2巻からなり、合わせて「認知革命」「農業革命」「人類の統一」「科学革命」の4部で構成されている。本記事では、上巻第3部「人類の統一」の内容を中心に紹介する。

文化は矛盾を解消するダイナミズムで変化する

 著者は、「文化」というものは絶えず変化しているものだと指摘する。環境の変化、文化同士の交流などの要因により変遷を繰り返す。しかし、たとえ安定した環境にあり、完全に孤立した文化であっても変化は免れないという。なぜなら、人間による秩序は内部における「矛盾」に満ちあふれているからだ。矛盾になんとか折り合おうとするダイナミズムが変化をもたらす。
 たとえば、フランス革命以降、多くの国で「平等」と「個人の自由」を普遍的な価値とみなすようになった。ところがそもそも、この二つの価値は矛盾する。あらゆる人に好きなように振る舞う自由を保証したならば、平等は成り立たなくなるだろう。近代以降の政治史は、こうした矛盾をいかに解消するかを探る試みともいえる。

多様な人々や生活様式が互いに影響しあう現代世界

“物事の展開を何十年、何百年という単位で考察する、いわゆる鳥瞰的な視点から歴史を眺めれば、歴史が統一性へと向かっているのか、それとも多様性へと向かっているのかを判断するのは難しい。だが、長期的な過程を理解するには、鳥瞰的な視点は、あまりに視野が狭すぎる。鳥の視点の代わりに、宇宙を飛ぶスパイ衛星の視点を採用したほうがいい。この視点からなら、数百年ではなく数千年が見渡せる。そのような視点に立てば、歴史は統一に向かって執拗に進み続けていることが歴然とする。”(p.206より)

 人類の文化が絶えず変化し続けるとしたら、その変化には一定の方向性があるのだろうか? 複雑化、多様化する現代の世界をみると、もとはシンプルな文化が次第に分裂していったかのように思える。しかし、著者の分析はその逆だ。文化は「統一」に向かっているというのだ。
 著者によれば、紀元前1万年頃には、地球上には何千もの社会が存在していたという。それが紀元前2000年には数百、多くても数千まで減る。そして15世紀の大航海時代前夜には、人類の9割近くがアフロ・ユーラシア大陸という単一の世界に暮らすことになる。
 今日では、人類のほとんどが、同一の地政学的制度(国家の存在など)や、同一の経済制度(貨幣経済など)を共有している。単一の生物の中にさまざまな細胞や器官があるように、世界が多様性を内包しているのは確かだ。だが、多様な人々や生活様式は互いに影響しあっており、全体として統一に向かっているのだ。(担当:情報工場 吉川清史)

amazonBooks rakutenBooks

2016年11月のブックレビュー

情報工場 読書人ウェブ 三省堂書店