コモディティー投資の魅力

商品市場で世界が分かる 第2回 コメから生まれた先物市場

1730(享保15)年、大阪・堂島でデリバティブ(金融派生商品)取引所の先駆けとなる市場が誕生しました。江戸幕府による公設のコメ市場です。この市場は現物のコメを有価証券化した「正米(しょうまい)」市場と、代表的な銘柄を帳簿上で先物取引する「帳合米(ちょうあいまい)」市場で構成されていました。現在のデリバティブ取引所が持つ会員制度や清算機能なども整えられ、当時としては画期的な取引所でした。

すべての市場のルーツ

通貨が浸透する前の経済取引はモノとモノを交換する物々交換で、通貨も金や銀といった貴金属から発達していきました。日本の江戸時代で言えば、コメは武士の年棒や経済規模を示す単位でもありました。今あるすべての市場経済のルーツは商品(コモディティー)なのです。世界最大のデリバティブ市場といわれる米国のシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループも、19世紀末にバターと卵の取引所として誕生しています。米国でもっとも歴史のあるシカゴ商品取引所(CBOT)が生まれたのが1848年。そのCBOTは2007年にCMEと合併しました。

翌年にCMEは原油先物などを上場していたニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)も傘下に収めました。NYMEXはニューヨーク商品取引所(COMEX)を買収していたので、貴金属などの先物商品もグループに取り込んだ格好です。デリバティブ市場ではCMEのライバルとして電子取引に特化した米インターコンチネンタル取引所(ICE)グループがあり、2001年に英国にあった国際石油取引所(IPE)を買収しました。IPEの主力商品であった北海ブレント原油の先物は現在、「ICEブレント先物」として売買されています。

世界の有力デリバティブ市場

図

欧米などの海外市場では、もともとデリバティブ商品に金融、商品の垣根はありません。CMEやICEも通貨や金利、株価などの先物に加え、原油や天然ガス、金属、農産物などの先物やオプションを幅広く売買しています。さらに有力取引所は合従連衡によって魅力的な上場商品を増やそうとしています。銅など非鉄金属の国際指標になるロンドン金属取引所(LME)は2012年に株式を主力にする香港取引所に買収されています。シンガポール取引所(SGX)は2016年に海上運賃などの英バルチック海運取引所を買収しました。ヘッジファンドなどの投資家もまた、金融と商品を区別することなく収益機会を探しています。こうした投資家や企業にとって、さまざまな上場商品を1カ所で売買できた方が便利なことは言うまでもりません。

世界の商品先物売買高

世界の商品先物売買高は急増していることを示すグラフ

世界先物取引業協会(FIA)統計から

日本も一歩前進

一方、日本では株式や金融先物は金融庁、商品市場は石油や金属は経済産業省、農産物は農林水産省が管轄する「縦割り行政」が影響し、海外のように金融、商品分野のデリバティブを一体で扱う総合取引所はなかなか生まれませんでした。2000年代に入って世界のデリバティブ市場が急成長する中で、日本の商品先物売買高は低迷を続けました。2007年に政府の経済財政諮問会議が総合取引所の構想を打ち出し、2010年には成長戦略に盛り込まれました。それから10年近くを経て、昨年には日本取引所グループ(JPX)が東京商品取引所(TOCOM)を買収。TOCOMが売買していた金などの金属や農産物市場が7月27日に大阪取引所へ移管されることでようやく「株価指数や金、天然ゴムなどのデリバティブを一体で扱う市場」が誕生します。もちろん、CMEやICEとの差は大きく、売買するデリバティブの品ぞろえも増やす必要があります。それでも国内で総合取引所が実現する意味は小さくありません。

デリバティブ市場は投資家に幅広い運用機会を提供するだけでなく、景気の変化を読み取って透明性の高い相場を形成する場所です。さらに、企業は将来の販売、購入価格をあらかじめ確定することで経営の安定に役立てることができます。こうした市場が国内に存在することは、日本企業の国際競争力にもつながります。

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講師紹介

志田 富雄

日本経済新聞社 編集局編集委員

1985~87年の欧州編集総局勤務時に初めて原油などの国際商品市場を取材。ブレント原油が1バレル10ドル台を割り込む相場低迷や「すず危機」をなど目の当たりにして商品市場の奥深さを知る。英文記者を経て1991年から商品部へ。記者時代は石油のほか、コメなどの食品、鉄鋼を担当。2003年から編集委員に。2009年から19年まで論説委員を兼務。