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[スペシャルインタビュー]投資家が金を求める理由 森田アソシエイツ代表 森田隆大氏

金価格は、米中貿易摩擦の激化などにより2019年後半から上昇トレンドにあったが、コロナウイルスの感染拡大に伴い、投資環境の不確実性がさらに増幅したのを受け、2020年7月に過去最高値を更新した。これを牽引(けんいん)したのは、投資需要の急増である。代表的な投資商品である金ETF(上場投資信託)に流入した資金は、2020年において、数量ベースで877トン、金額にして5兆円弱の過去最高を記録した(図表1参照)。では、投資家は金に何を期待するのか。

図表1
金ETF(上場投資信託)残高の推移

グラフ

出所:Bloomberg, Company Filings, ICE Benchmark Administration, World Gold Council World Gold Council GOLDHUBより作成

金は他の主要資産との相関が低く、値動きも異なるため、ポートフォリオに加えると、平時においては投資分散効果、非常時においてはテールリスク低減効果が得られる。また、実物資産であるため、信用リスクがなく、インフレにも強い。さらに、発行体のない通貨としての側面を持ち、ドルと逆相関の関係にある。つまり、金は分散リスク、テールリスク、インフレリスク、信用リスク、流動性リスク、通貨リスクなど、主な投資リスクのすべてに対応できる(図表2参照)。

図表2
投資リスクと金

表

出所:森田アソシエイツ

コロナウイルスの勢いが衰えない現在の環境において、投資家が特に金に期待する理由は、そのセーフヘブン機能である。つまり、テールリスク・イベントの発生によって市場が混乱したとき、堅調なパフォーマンスを見せ、資金の安全な逃避先として機能することである。実際、コロナウイルス発生後の2020年において、金価格は25%以上も上昇し、苦境に立たされた多くの資産との違いは鮮明である。ブラックマンデー、米国同時多発テロ、リーマン・ショック、ユーロソブリン危機時など、過去においても金のセーフヘブン効果は確認されている。

では、金はなぜこうしたヘッジ機能を提供できるのか。それを解く鍵は、金の需要構造にある。地上にある金は20万トン弱あり、その内訳を見ると、宝飾品、投資用途、中央銀行による保有、産業用がそれぞれ47%、22%、17%、14%を占めており、需要は分散されている。最大の需要家グループはインド、中国および中央銀行である。

インドでは、多くの人が信じるヒンズー教において、金は富と繁栄の象徴であり、婚礼、宗教行事、誕生日、収穫などの祝い事に欠かせない存在となっている。また、購入した宝飾品は、将来の非常時に対する備えとしての意味も強く持つ。中国についても、金は祝い事の贈答用として親しい人に送ることが多く、また、流通した紙幣の価値が政権交代によって暴落した過去の教訓から、収入の一部を金の購入に充て、貯蓄として資産形成の一環とする伝統が現在でも残っている。一方、中央銀行が金を保有する主な目的は外貨準備における通貨分散である。このように、需要家の多くは、必ずしも(特に短期)収益目的で金を保有しているわけではなく、おのおの異なる理由とタイミングで金を購入するため、金価格は株などの主要金融商品と異なる値動きを見せ、リスクヘッジ機能を提供できる。

今後、経済成長、財政、産業構造、少子高齢化、年金問題などに対する懸念が増大する日本において、資産運用は富の保全をさらに意識する必要がある。堅調な長期リターンも期待できる金は、不確実性が続く現在の環境に極めて適した資産である。

写真

森田 隆大

森田アソシエイツ代表

ニューヨーク大学経営大学院卒。ファースト・シカゴ銀行を経て、1990年にムーディーズ・インベスターズ・サービス本社に入社。格付委員会議長、日本・韓国の事業会社格付部門の統括責任者などを歴任。2011年にワールド ゴールド カウンシル日本代表に就任。現在、森田アソシエイツ代表、ワールド ゴールド カウンシル顧問。埼玉学園大学大学院客員教授、特定非営利活動法人NPOフェアレーティング代表理事を兼務。主な著書に『格付けの深層』(日本経済新聞社刊〜日本公認会計協会学術賞受賞)など。

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