Bank 静岡銀行が挑んだワークスタイルの大改革と意義Bank 静岡銀行が挑んだワークスタイルの大改革と意義

机の上を占領する書類の山、何人もの承認印が押された稟議書。銀行業務は顧客情報などの重要書類を多く扱う。そのため、必然的に紙の書類流通にあわせたワークスタイルができあがる。そうしたオフィスのイメージを一新する意欲的な取り組みを進める銀行が現れた。創立70周年を迎えた静岡銀行である。なぜ同行はワークスタイルの大改革に乗り出したのか。プロジェクトを率いる静岡銀行の寺田健司氏に聞いた。

静岡銀行 経営管理部 管財グループ ビジネスプロフェッショナル 新本部棟建築プロジェクトチーム リーダー 寺田 健司 氏 静岡銀行 経営管理部 管財グループ ビジネスプロフェッショナル 新本部棟建築プロジェクトチーム リーダー 寺田 健司 氏
静岡銀行の様子静岡銀行の様子

紙をなくすことから
着手したワークスタイル改革

 地域では“しずぎん”の愛称で親しまれている静岡銀行は、「地銀の雄」の一角として全国的にも知られる存在だ。東日本大震災に見舞われた後の2011年9月、経営トップの決断で老朽化した本部棟の建て替えプロジェクトが立ち上がった。東海地震の発生リスクも指摘される地域にあって、事業継続体制(BCM)の強化を図るためだ。

 しずぎん本部タワー建築計画の立案と同時に取り組んだのが、それまでの銀行然としたワークスタイルの大改革だった。「新しい建物になるので働き方自体を見直して、オフィスワークの生産性を高めたいと考えたのです」と寺田氏は当時を振り返る。

 最初に取り組んだのが、固定席をなくすフリーアドレス制の導入だ。プロジェクト単位でスタッフが動きやすくなる。普段コミュニケーションがそれほど多くないスタッフとのコラボレーションも生まれる。新しい刺激は、新しいアイデアが生まれることにもつながる。生産性の面だけでなく、創造力という面でも効果が期待できる。

「ただ、実際に調べてみると、他の銀行ではフリーアドレス制があまり導入されていないことが分かってきました」と寺田氏。銀行の業務では多くの紙文書が飛び交う。顧客情報など機密情報も多い。席を移動しながら仕事を続けるのが難しいことは容易に想像できる。しかし、実はここにワークスタイル改革につながる大きなヒントが隠されていた。

紙を削減するために
システム面の整備を進める

「紙が多ければ印刷コストもかかり、保管場所も必要になります。紙の削減は以前から課題として挙げられていました。ワークスタイルを変えるということは、この課題解決につながるはずだと考えたのです」と寺田氏は語る。銀行業務から紙をなくす。銀行業務の宿命とも見られていた課題解決に向けて、寺田氏たちプロジェクトチームは動き出した。

 紙をなくすといっても、全てデジタル化できるわけではない。紙での保管が義務付けられているものもある。具体的な対応として3つに分けた。紙のまま保管するもの、紙の書類をスキャニングしてデジタル化するもの、初めからデジタル情報として扱うものだ。ポイントは紙のままの状態をできるだけ減らすことだった。

「袖キャビネットをなくして、一人ひとりに小さな個人ロッカーを割り当てました。紙での保管をしにくくするためです」(寺田氏)。それを実効あるものにするためには、デジタル情報を扱うためのワークフローを整備する必要があった。そこで、稟議書は電子回覧する仕組みを構築し、会議は紙を配布せずタブレット端末やパソコンを持ち寄り開催する形に切り替えた。複合機は個人毎の紙の使用量を把握するためIDカードによる認証によってプリントアウトする仕組みにした。こうしたプロジェクトチームの英知を結集してできた仕掛けが功を奏して紙の使用量は激減した。また、文章管理のルールを定めシステム化したことで既存文書は目標だった75%を上回る77%減を実行したのだ。

紙を削減するための取り組みの様子紙を削減するための取り組みの様子 紙を削減するための取り組みの様子紙を削減するための取り組みの様子

画期的な取り組みを支える
シスコソリューション

静岡銀行 経営管理部 管財グループ ビジネスプロフェッショナル 新本部棟建築プロジェクトチーム リーダー 寺田 健司 氏 静岡銀行 経営管理部 管財グループ ビジネスプロフェッショナル 新本部棟建築プロジェクトチーム リーダー 寺田 健司 氏

 紙を減らす取り組みとともに進めたのが、無線LANアクセスポイントの設置とIP電話(Cisco Unified IP Phone)の導入だ。パソコンさえあればどこでも仕事ができる環境を整えた。フロアの中央部にはミーティングスペースを配し、窓際には仕事に没頭できる一人用集中ブースも用意した。

「無線LANやIP電話の提案をしてくれたシスコシステムズのオフィスを見せてもらったことでフリーアドレスのワークスタイルイメージが固まりました。IP電話も実際に操作してみると簡単に使えたので安心して導入できました」(寺田氏)。職員は勤務当日の執務場所を決めた後、近くのIP電話にIDとパスワードを入力して自分の電話として利用する。電話をかけるときは、パソコン上のWeb電話帳を使って相手を探し、ワンタッチで発信できる。

 携帯型の電話機のケースと異なるのは、電話機がデスクに固定されていて、他のスタッフが代わりに取ることができる点だ。担当者が不在でも相手を待たせることなく対応するためだ。支店の業務などをサポートする本部組織ならではの気配りが効いている。

事業継続体制の強化にも貢献する
テレビ会議システム

テレビ会議システムの取り組みの様子 テレビ会議システムの取り組みの様子

 会議のやり方も大きく変えた。会議室には紙の書類ではなくタブレット端末やパソコンを携えて参加する。会議室には大型のホワイトボードが設置され、議論された内容はその場でデジタル化して共有もできる。遠隔地からはテレビ会議システムで参加できるのも大きな特徴だ。

 今回、このテレビ会議システム(Cisco TelePresence)は全177拠点に導入され、短時間ですべての拠点と接続できる。その背景にあるのは事業継続体制の強化だ。東日本大震災の際に東邦銀行(福島県)がテレビ会議システムを活用して業務を継続したという話が参考になった。

「ワークスタイルの改革には苦労もありました。そんなことができるわけがない、という人もいましたし、実際に文書の仕分けには3年もかかりました。それでも進められたのはトップの強力なリーダーシップがあったからです」と寺田氏は語る。

 現在では、ライン長を除いたメンバーはフリーアドレスでのワークスタイルが定着し、前述のように紙の使用量も激減した。「紙の発生と保管は主管部が日々管理しています。後戻りするわけにはいかないですからね」と寺田氏は継続していくことの重要性を強調した。

静岡銀行のワークスタイル改革を動画で解説静岡銀行のワークスタイル改革を動画で解説
静岡銀行のワークスタイル改革の動画イメージ

“当初は別々に検討していたのですが、シスコから個別検討ではなく全体最適化と将来性を踏まえた検討が必要ではないかと提案をいただいたことが大きかったと思います。”