いま求められているCRE戦略の視点の1つは、老朽化した基幹事業所対策だ。高度経済成長の日本を支えた事業所の中には築50〜60年が経過しているものが多いが、基幹事業所であるために稼働を止めることができず、大規模な修繕ができないジレンマを抱えている。しかしCRE戦略としては、複数の事業拠点をその企業の事業戦略に基づき、最適化された状態に近づけていくことが欠かせない。分散から統合へという施策は、安全な職場環境の維持やBCP(事業継続計画)対策上も避けては通れない課題だ。
2番目は、ROE(株主資本利益率)向上策としてのCRE戦略だ。企業経営においてROEを重視する流れは、企業が自らの事業ポートフォリオを見直す契機となり、さらには企業不動産を見直す大きな契機ともなっている。不動産を活用しROEを向上させるためには、売却により得た資金を設備投資やM&A(合併・買収)に回すなどいくつかの手法がある。いずれも経営に大きな判断が求められる。戦略立案、課題抽出、対策実行において経営層のコミットは必須だ。
3番目は、働き方改革としてのCRE戦略。クリエーティブオフィスへの移行は、働き方改革を進めるうえでも若手人材の採用の点でも重要な課題になる。
これまで述べてきた3つの視点に共通していえることは、単体の事業所だけにフォーカスしても課題解決にはつながらないということだ。関連する全事業所を俯瞰(ふかん)して、課題を抽出し、解決策を立案しなければならない。
CRE戦略はおおむね、①CRE戦略を進めた先に実現したいこと=ゴールの明確化②CRE情報を一元的に管理し、可視化すること③ゴールに至るまでの課題を抽出する評価軸を設定すること④課題物件の抽出と対策の立案⑤対策の優先順位、スケジュールの設定⑥全社横断的な合意形成――というプロセスで進められる。私たちにはこの6つのプロセスを一貫して実現するサービスがある。
例えばCRE情報の一元管理では、当社が開発した不動産ツールである「CRE@M」が威力を発揮する。ソリューションをワンストップで提供するサービス群では、三菱地所グループの総合力が生かせる。CRE戦略では、企業がいまどのような不動産をどこに保持しているかを認識するだけではなく、それぞれの不動産にどのような課題があるかを可視化し、その課題解決のためのスケジュールを見える化しておくことが重要だ。これがCRE戦略の第一歩になる。
三菱地所リアルエステートサービス/企業不動産一部長
1968年生まれ。一橋大学卒業。92年リクルート入社。2001年起業、不動産コンサルティング会社を経て、07年三菱地所リアルエステートサービス入社。CRE戦略立案および実行支援業務に携わる。顧客視点のコンサルティングを旨とし、CREにおける課題抽出から実行に至る工程を着実に推進。
(本コンテンツは2月9日付け日経産業新聞から転載したものです)