Vol.15:スペシャリストの智 CREカンファレンス2017-2018 2018年成長する企業の資質とは 企業体力強化に備える不動産戦略のポイント日経産業新聞フォーラム

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 1月12日、東京・大手町の日経ホールにて「日経産業新聞フォーラム スペシャリストの智 CREカンファレンス2017-2018」が開催された。基調講演を竹中平蔵氏、特別講演をCRE(企業不動産)の専門家である村木信爾氏が行い、これからの成長企業の条件とそれを達成するためのCRE戦略の視点について貴重なヒントを提示した。

登壇する田島穣氏の写真

「場」への需要が不動産マーケットを後押し

【開催挨拶】登壇者:三菱地所リアルエステートサービス 代表取締役社長 田島 穣氏

 「いざなぎ」を超える堅調な景気動向がいわれるなか、不動産の景況も活性化している。顧客のニーズと消費行動がテクノロジーの進化とともに変容し、それに対応するかのように企業の事業フォーマットも進化しており、組織の改編や事業拠点の組み換え、新分野への投資と合理性を促す統合化などからくる「場」への需要が不動産マーケットを後押ししている。今回のカンファレンスでの講演を通して、企業の価値を高める要因は何か、新たな成長の糸口を発見するためにはどこをたどればよいのか。足掛かりとなるヒントをぜひ持ち帰っていただきたい。

【基調講演】2018年の経済:成長企業の条件 登壇者:慶應義塾大学 名誉教授/東洋大学 教授 竹中 平蔵氏

安定に甘んじることなく
次を見据えてチャレンジを

 かつて2000年代半ばから08年のリーマン・ショックに至るまでの間、株式や債券などの資産価格の変動幅が低下し、市場全体が安定した時期を指して「グレートモデレーション(大いなる安定)」と呼ばれたことがあるが、18年の経済も趨勢としてはそう呼んでもよい。米国のトランプ政権の動向や北朝鮮の核・ミサイル問題などアジアの情勢不安などリスク要因はあるが、日本・世界の経済がこの先、急速に腰折れすることはないだろう。昨年12月に内閣府が発表した「政府経済見通し」では18年の成長力を1.8%と強気に予測している。日本の有力企業の経営者の75%が「景気回復基調は、19年秋の消費税増税まで続く」と判断している。しかし、大いなる安定のなかでも経営者は次の時代を見据えた手立てを常に考えておかなければならない。

 政府の成長戦略の中に今後の企業経営の重要なヒントがいくつかある。ビッグデータの活用、企業が限られた期間や範囲で自由に新しいサービスを試すことを認める制度であるレギュラトリー・サンドボックスの導入、リカレント教育がその一例だ。リカレント教育とは、新しい技術を学ぶためには夜間大学院の充実など社会人の学び直しを進めるもので、政府が費用の一部を負担、新しい技術に対応できる人材育成を進める。

登壇する竹中平蔵氏の写真

 新しい技術や経済のトレンドを予測することで、企業は次の時代の成長の基盤を作ることができる。まず国内で人工知能(AI)やビッグデータなど最先端技術を活用して新しいビジネスを起こすことが期待される。

 それだけでなく、これまで目を向けてこなかったような途上国や新興国における「リープ・フロッグ(蛙飛び)」という現象に注目し、それを自社のビジネス機会に取り込むことも重要だ。ICT(情報通信技術)インフラが浸透していなかったインドはいまや個人認証インフラで世界をリードするまでになった。アフリカ諸国の経済成長力にも注目したい。私たちにとっては決して最先端とはいえない技術でも、ここでは重要なツールになり、大きな価値をもつことがある。これを「フルーガル・イノベーション(安上がりの技術革新)」というが、そこで力を発揮できる日本の企業はたくさんある。

 日本国内で最先端技術を生かしてビジネスを革新するか、潜在的成長力の高い国や地域に出ていって、そこでビジネスを起こすか。最も悪い選択は、いずれの選択も避けて、グレートモデレーションの“ふわふわとした”環境に甘んじたまま、何のイノベーションにも取り組まないことだ。居心地のよい環境は永遠に続くものではない。そこに甘んじることなく、私たちは常に次の時代を見据え、チャレンジを続ける必要がある。

竹中 平蔵 (たけなか・へいぞう)

慶應義塾大学 名誉教授/東洋大学 教授

1951年生まれ。博士(経済学)。一橋大学卒業。ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て2001年、小泉内閣の経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、総務大臣などを歴任。現在、公益社団法人日本経済研究センター研究顧問、アカデミーヒルズ理事長、(株)パソナグループ取締役会長、オリックス(株)社外取締役、SBIホールディングス(株)社外取締役などを兼職。

竹中平蔵氏の写真

(本コンテンツは2月9日付け日経産業新聞から転載したものです)

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スペシャリストの智 vol.15
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