昭和30年代に建設が始まり、日本人に新たなライフスタイルを提案し、新しい時代の幕開けを告げる存在として憧れとなった、団地。そんな団地が建つ地域では今、高齢化という日本の社会課題の先を歩んでいる現実もある。独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)では、国が掲げる「地域包括ケアシステムの構築」に寄与するため、団地の「地域医療福祉拠点化」を推進している。今回、地域医療福祉拠点化の先行事例である「ひばりが丘パークヒルズ」(西東京市・東久留米市)をキャスター榎戸教子氏が訪ねた。

インタビュー

まちにわ ひばりが丘 代表理事 岩穴口康次氏、UR都市機構 東日本賃貸住宅本部 多摩エリア経営部 ウェルフェア推進課 課長 玉木貴明氏、キャスター 榎戸教子氏 まちにわ ひばりが丘 代表理事 岩穴口康次氏、UR都市機構 東日本賃貸住宅本部 多摩エリア経営部 ウェルフェア推進課 課長 玉木貴明氏、キャスター 榎戸教子氏

ひばりが丘パークヒルズでは団地再生事業・地域医療福祉拠点化の取り組みの一環として、全国初の官民連携のエリアマネジメント組織である一般社団法人まちにわひばりが丘が設立されている。その活動拠点である「ひばりテラス118」のオープン5周年イベント「にわジャム2020」の初日となった10月24日(土)、キーパーソンにお話を聞いた。

地域一体で安心して住み続けられるまちづくりの課題は
これまでの団地のコミュニティーを大切にすること。

榎戸まず団地の地域医療福祉拠点化について、背景や意図を教えていただけますか。

玉木UR賃貸住宅にお住まいの方の高齢化の傾向は、全国平均と比較して非常に進んでいる状況です。2013年度に、今後の超高齢社会に向けて外部有識者を交えて、UR都市機構の果たすべき役割や、UR賃貸住宅の在り方を議論してきました。そこで示された提言に基づいて、国が進める地域包括ケアシステムの一端を担う取り組みが「地域医療福祉拠点化」です。地域医療福祉拠点化とは、お子さまが生まれたり、介護状態になったりしてもその場所を離れることなく、「住み慣れたまちでいつまでも暮らし続けられる」ことを目指すものです。地方公共団体や地域関係者と連携・協力し、住宅・施設の整備や医療・看護・介護サービス、子育て支援などが受けられる環境づくりをすることで、団地を含む地域一体で「多様な世代が生き生きと住み続けられる住まい・まち」が実現すると考えています。

榎戸全国平均よりも、UR賃貸住宅にお住まいの方の高齢化率が高いので、そのような提言があったということですね。課題もいろいろあったと思いますが、地域医療福祉拠点化を進めるにあたってどんなご苦労があったのでしょうか。

玉木ひばりが丘パークヒルズの地域医療福祉拠点化は、団地再生事業によるまちづくりとともに取り組んできました。新たなまちづくりに当たっては分譲住宅も一緒に計画しており、それぞれの街区のつながりや、旧ひばりが丘団地にあったコミュニティーが希薄になるという心配もありました。そこでそのような課題に対応するため、分譲街区の民間事業者と一緒に、まちづくりを進めてきました。その過程でエリアマネジメント組織である「まちにわひばりが丘」が設立されました。まちづくりには地域の方々の力が必要になってきます。まちにわひばりが丘の運営も、最終的には地域の皆さんが中心となっていけるような計画を立てながら進めてきました。

玉木 貴明 氏
団地を含む地域一体で「ミクストコミュニティ」の実現を目指す。

榎戸インタビューの前にイベントを取材させていただきましたが、ひばりが丘パークヒルズでは地域の方々同士の関わりがたくさんあって、すごく素敵ですね。地域全体で大きな家族というような雰囲気が感じられました。地域医療福祉拠点化では、安心して住み続けられる環境づくりを掲げておられます。やはり地域交流の促進という面で、こういったイベントの存在というのは大きいのでしょうか。

玉木顔見知りの人を増やす機会として、イベントの存在は大きいと思っています。さらにこのひばりが丘パークヒルズでは、団地自治会だけではなく、まちにわひばりが丘や地域の皆さんが協力してつくり上げているところが、より効果的なのです。地域の協力によって、長年開催されていなかった餅つき大会も復活し、イベントの輪とともに地域の方のつながりもますます広がっていくと思います。

ひばりが丘団地

東京都西東京市と東久留米市にまたがる33.9ヘクタールという広大なひばりが丘団地は、1959年に入居開始。1999年3月から団地再生事業が始まり、2012年に竣工、ひばりが丘パークヒルズに生まれ変わった。

大人がまちづくりに参加することで
次代を担う子どもたちが安心できる環境をつくる。

榎戸どうしてこんなに素晴らしいまちの雰囲気ができてきたのか、その秘密をお聞きしていきたいと思います。まちにわひばりが丘のエリアマネジメントについて教えていただけますか。

岩穴口「まちにわ」という名前には、和える・混ざるという意味、また輪・リングなどつながるという意味、まちを自分の庭のようにといくつかの意味を含ませています。活動の大きな枠組みとしては、人づくり、場づくり、お金づくりということになります。活動拠点として、UR都市機構から旧ひばりが丘団地の118号棟を貸していただいて改装した『ひばりテラス118』というエリアマネジメントセンターを運営しています。このまちは、単に寝泊まりし住むだけではなくて、「普段は楽しく、困ったときに助け合える」まちになってほしいと思って、いろんな活動をしています。

榎戸 教子 氏
まちをつくって終わりではなくて、運用・継続していくことが大切なんですね。

榎戸まちにわひばりが丘の発足から現在に至るまでで、思い出深いエピソードなどはありますか。

岩穴口まちにわひばりが丘は、旧ひばりが丘団地エリアのエリアマネジメントということで立ち上がりましたが、団地の自治会は、実はまちにわひばりが丘の会員ではありません。団地の自治会は60年間の歴史がありますから、いきなり新しい団体に入ってくださいというのは大変失礼な話。でも、いいまちにしたいという思いは一緒です。そこで、連携をどう取っていくかということになりますが、例えばこの団地には自治会主催の夏祭りがあります。そこにまちにわひばりが丘が参加させていただくに当たって、1年目はまず自転車整理だけをお手伝いをさせていただきました。そこから少しずつ関係を深めていき、5年経った今では屋台の一つを分譲住宅の方々の出展にして主催団地自治会、共催まちにわひばりが丘というかたちになりました。どう交流を深めていくのか、最後はやはり人と人の部分になりますので、徐々に徐々に進めていったのです。

榎戸「地元の方たちのこれまでの歴史をきちんと理解した上で新しいものをつくっていけば、いずれは組織も関係なくなる」とは今だから言えますが、やっぱり時間をかけることの大切さというのはお話を伺っていて感じました。

岩穴口時間をかけるという意味では、分譲住宅の住民の方は若い世代が多いんです。そこで、毎年10月にハロウィンのスタンプラリーを行っているんですが、スタンプを押してもらう場所に高齢者支援施設であるとか、団地の自治会の事務所であるとか、分譲住宅の若い世代が団地のさまざまな世代の方のところへスタンプを押してもらいに行くことで多世代交流ができるという工夫もしました。分譲住宅の若い世代の方は地縁のない方が多いのですが、その子どもたちは次のひばりが丘をつくっていってもらうことになります。そのためにも私たち大人が自らいろいろ参加して、子どもたちも安心して暮らしていけるまちにできればと考えています。

岩穴口 康次 氏
まちづくりの水先案内人。そして、何かしたい住民の背中を押す活動をしています。

持続可能なまちづくりのカギは、暮らしを楽しむことと
ミクストコミュニティ(多世代交流)の活性化。

榎戸今日から開催の「にわジャム2020」は、新型コロナウイルス感染症の影響で例年と開催概要が変わったそうですね。

岩穴口例年は土曜の前夜祭と日曜に、50店ぐらいの出店やマルシェ、音楽ライブを行う、どちらかというと非日常的な雰囲気のイベントでした。今年は1日の出展数を絞るかわりに、9週間と期間を長くして日常のなかで楽しんでいただき、小さなつながりを重ねて紡いでいくというようなイベントに切り替えたかたちになっています。

榎戸日常のなかにある少しの特別感も、今この新常態の状況下だからこそ新しいかたちが生まれて、それがもしかしたらまたコミュニティーを育むきっかけにもなるかもしれませんね。

岩穴口ほかにも、団地の若い世代の方が、ひばりが丘団地Tシャツをつくられたんです。分譲住宅の方も40人くらいが購入されて、イベントのときには団地組も分譲住宅組もそのTシャツを着ていました。

榎戸素敵ですね。自分のアクションがまちのためになっているっていうことを、ミクストコミュニティの一つひとつのつながりで感じていらっしゃる。住人の方が、自発的にずっと暮らしたいと思えるまちになっていってるんですね。

岩穴口変な責任感というより、暮らしを楽しんでいるから、継続するんだと思います。まちにわひばりが丘はまちづくりに専念をしている組織ですから。

榎戸最後に、これからのUR都市機構に期待することを教えてください。

岩穴口これからもどんどん、ここのまちを新しい取り組みを試す場として考えていただければと思います。事務局だけではどうしても考えが固まってしまうので、いろんな外の知恵も入れていただければと思います。

日生ケアヴィレッジひばりが丘マップ日生ケアヴィレッジひばりが丘外観

日生ケアヴィレッジひばりが丘

在宅介護・医療の拠点として小規模多機能ホーム、認知症グループホーム、診療所、調剤薬局、居宅介護支援事業所を誘致。また既存住棟を活用したサービス付き高齢者向け住宅も協働で整備。

集合写真

リポート

今年は『ひばりテラス118』オープン5周年記念イベントとして開催となった「にわジャム2020」。インタビューの前にその模様を見て回った榎戸教子キャスターは、いくつかのハンドメイド雑貨を気に入って購入していました。

ひばりテラス118
ひばりテラス118

『ひばりテラス118』には
芝生広場や共同菜園も

『ひばりテラス118』には、コミュニティスペースやカフェ、ギャラリー、フラワーショップのほか、地域の作家のハンドメイド雑貨を委託販売する「HACONIWA」も設置。芝生が茂る「草の広場」では結婚パーティーが行われたことも。

ひばりが丘団地の住民たち

ひばりが丘団地の
住民たちが協力

写真奥の男性は、「18年この地に暮らしてきて地元を知らなかったから」と、「まちにわ師」としてボランティアに参加。この団地に20年暮らす写真手前の女性は「『ひばりテラス118』ができたことで、まちに一体感が出た」と話してくれた。

COMMA, COFFEE

人気テレビドラマに
登場した
COMMA, COFFEE

朝から途切れず取材中ずっと行列ができていた『COMMA, COFFEE』は、絵本に登場しそうなカステラパンケーキ(数量限定)が評判。2019年にテレビの人気グルメドラマに登場したことで一躍有名に。

ハンドメイド雑貨

地域の作家が手づくりした
世界に一つだけの
ハンドメイド雑貨

芝生広場には週替りで地域のハンドメイド作家さんたちが出店。写真は東久留米市在住の作家さん。ガーゼで制作したハンカチやマスクを販売。この日はほかに、蒲田から5年前にひばりが丘に移住された女性のアクセサリー店も。

「ここに住んで若返った」と笑顔を見せてくださったシニアの方や、「親の世代を超えた方とこんなに交流ができるなんて」とうれしそうな若い世代の方がいらっしゃいました。まちづくりにおけるソフト面の大切さをすごく実感しました。そして医療・福祉施設というハード面でも将来を見据えた環境が団地にあるという安心感が、そんな生き生きとした日々の生活の満足度にもつながっているのだと思いました。何より今回、超高齢社会の半歩先の姿を見させていただいて、未来が楽しみになりました。高齢化はむしろコミュニケーションの豊かさにつながる部分もあるのかもしれないですね。

キャスター
榎戸 教子
静岡県出身。さくらんぼテレビジョンを皮切りにアナウンサーとして活躍。『日経モーニングプラス』のキャスターを経て、現在はBSテレ東ニュース『日経プラス10』のメインキャスターを務める。
榎戸 教子

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