SPIRE

ディプティック、香りをめぐる60年の冒険。

2021.5.28

パリ発のフレグランスメゾン、ディプティック。心癒されるほどに芳醇で、エキゾチックな香調のフレグランスやキャンドルでおなじみだが、そのディプティックが創立60周年を迎えた。空想を掻き立てる香りの世界を探究、私たちに喜びを提供してくれるディプティックのヒストリーをお届けしよう。

それはサンジェルマン大通り34番地から始まった

  • 写真1

  • 写真2

  • 写真3

ときは1961年。アートや装飾に携わる3人の若者たちがディプティックを設立した。1960年代のパリといえば、ユースカルチャーがハイファッションの分野にも影響を与え、プレタポルテが台頭し始めた時代。サンローランやクレージュといった大きな才能が頭角を現し始め、映画界ではジャン=リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォーらによるヌーヴェルヴァーグが注目を集めていた時代だ。インテリア・デザイナーのクリスチャンヌ・ゴトロ、劇場監督&舞台装飾家であるイヴ・クエロン、画家のデスモンド・ノックス=リット(写真1)は、美に対する探究心とクリエイティブな情熱を分かち合う友人同士。彼らはサンジェルマン大通り34番地にブティック(写真2)を開き、内装用のファブリックやインテリア雑貨、英国製のフレグランスなどの販売を開始。そして63年にはオリジナルのフレグランスキャンドルを、さらに68年には最初のフレグランス「ロー(L’Eau)」(写真3)を発表。輝かしい船出を迎えた。従来の香りの概念を覆し、クローブやシナモンなどのスパイスと花、ウッドを調和させた「ロー」はジェンダーレスな香りの先駆けであり、まさに時代の空気や異国情緒を感じさせるものとして大いに評判を博して、ディプティックのその後のフレグランスの指針となったのだ。

ディプティックの理念とシグネチャー

写真4、写真5

ブランド名であるディプティックとは、2枚折りの絵屏風のこと。ドアの両側にシンメトリーなショーウインドウがあるブティックの外観が、絵屏風のように映ったことから命名されたという。そのディプティックのインスピレーション源は、香りの記憶、自然や出会い、旅、子供時代の思い出や場所、魔法のようなひとときなど。そして高品質な材料を時間をかけて厳選・抽出するエッセンスこそが、ディプティックの要となっている。独自のグラフィックデザインもディプティックを象徴するものだ。アイコンでもあるオーバル型のラベル(写真4)は、18世紀のメダイヨンからとったデザインであり、独特のフォントはデスモンドのレタリング(写真5)によるもの。まるで文字がダンスするようにレイアウトされたこのオーバルのラベルも、ディプティックの代名詞となった。その後もディプティックは数々の香りを生み出し、また上質な植物から作り出されたスキンケアとボディケアのライン、アール デュ ソワンも発表。そして今日へとつながっている。

場所と伝統の記憶を秘める香り「オルフェオン」

  • 写真6

  • 写真7

  • 写真8

サンジェルマン大通りとポントワーズ通りの交差点には、オルフェオンという名のバー(写真6)があった。ブティックのオープンから数年後、スペースを拡張するために隣接するそのバーを購入するが、オマージュとして新たに作られたのが今年登場したオー ド パルファン「オルフェオン」(写真7)だ。装飾的なインテリア、スタイリッシュな装いの客たち、カクテルやタバコの煙……。そんな思い出の集合体を表現したフローラルウッディの香りだ。調香を手掛けたのは、オリヴィエ・ぺシュー(写真8)。ディプティックとは多くの香りづくりで協働しているが、さまざまなアーティストやクリエイターとのコラボを通じて香りのもつ遊び心や喜びを倍加させるのも、ディプティックのお家芸といえるだろう。

オー ド パルファン オルフェオン 75ml ¥23,100/ディプティックジャパン(03-6450-5735)

ブランドサイト

60周年を記念する新しい夢と冒険

写真9

創立60周年を記念したイベント予定も満載な今年。6月には『サマー・エッセンシャルズ』と題して、旅をテーマに据えたコレクション(写真9)を発表。そう、旅もまたディプティックにとっては重要なテーマの一つ。特にデスモンドとイヴにとって、地中海の風景は魂の風景であり、自分たちに向き合える地であった。そんな地中海へと誘うようなフレグランスやキャンドル、ヘアフレグランスなどがラインナップする。ロンドンを拠点として活躍するデザイナー、ルーク・エドワード・ホールとのコラボによる陽気で繊細なデザインも話題を集めることだろう。それ以降も、魅力的なプロダクツをローンチ予定で、スペシャルなコラボにも期待したい今年。ディプティックのシグネチャーでもある高品質のエッセンス、シンプルでグラフィカルなパッケージとデザイン、そしてわくわくする思いを掻き立てる香りのアイテムたち。それは3人のクリエイターたちが抱き続ける情熱と熱意、感性が育んだ結晶といって間違いない。

Editor: Midori Kurihara