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先を読む、将棋と人生設計

先を読む、将棋と人生設計

UPDATE:2021.01.01(Fri.)

 何手も先を読む将棋のように、将来を見据えながらライフプランを設計していくことが大切な現在。そこで今回は将棋と関係のある3人に、将来を見据えて行ってきた投資や今後のライフプランなどについて聞いた。

新しい指し手への挑戦、恐れない 棋士 杉本昌隆八段

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杉本昌隆八段
棋士
 愛知県名古屋市出身。将棋の戦術書の著作は15冊以上。著者初の文芸書「弟子・藤井聡太の学び方」では第30回将棋ペンクラブ大賞、文芸部門で大賞受賞。杉本昌隆将棋研究室を主宰し後進の育成にも力を注ぐ。門下に藤井聡太二冠、室田伊緒女流二段らがいる。

 21歳でプロ棋士となり、30年以上も第一線で活躍し続ける杉本昌隆さん。史上4位の年長記録となる、50歳での昇級という快挙も果たした。加齢によるひらめきや思考力の衰えを感じさせず、今もなお成長を続けられる秘訣は何か。

 「特別なことを何かやってきたわけではありませんが、強いて挙げるとすれば新しい指し手が思い浮かんだときは、まず試すようにしています。慣れた方法だけに頼ると、どうしても指し手が縮こまり、現在の自分よりも一歩上を目指すことが難しくなってしまうためです」

 新しい指し手がひらめきやすい状況をつくるために、自分とは価値観の異なる若い世代と話すことを意識している。

 「年を重ねるほど、とにかく自分の型を守ることに執着してしまうもの。一方で若い棋士は経験が少ない分、混じり気のない目で盤上を見ており、新たな差し手がひらめいたときにどんどん試すことができるんです。その考え方は50代の自分にこそ必要ではないかと。彼らと接する時間を増やし、同じ目線で盤上を見るようになると、今までと違う指し手に気づく瞬間がたくさんあるんです」

 自分の型に固執することなく、若い世代の考えを柔軟に吸収する姿勢は、幼少期からの性格によるものだと言う。「子どもの頃は割と人の意見に左右されやすく、主体性に欠ける部分があり、当時はそれが欠点だと思っていました。しかし年を重ねても、世代を問わず人の意見が聞けるというのはむしろ今の自分の武器になっています」。年齢に関係なく他人の意見を柔軟に受け入れる姿勢は、弟子の育成にも役立っているという。

 「自分の価値観を押し付けるようなことはまずしません。将棋は勝ちに向かうまでのプロセスが人それぞれで、これが絶対正しいという方法がないためです。その人が正しいと思うことをできるだけ尊重するようにしています。また年齢関係なく、意見を言いやすい環境をつくるためにも、『師匠に威厳はいらない』というのが私の考えです。一対一ではなく、複数の弟子と自分という関係で話す場をつくり、聞くときも真っ向から否定することはありませんね」

 50代を迎えたあたりから、70歳までは現役を続けたいと具体的な目標ができたと話す杉本八段。52歳となった現在、若い棋士や弟子との交流は、将棋人生を長く続けていくための「投資」だと話す。

 「仮に引退時期が60歳とはっきり決めていたら、おそらくここまで若い人から何かを吸収することもない気がしています。でももう少し長く、70歳まで現役でいたいからこそ、あらゆるものを吸収したいという気持ちがある。若い人に対しても一方的に教えるわけではなく、お互いが学べる関係を築いていきたい。それが結果的に、将来の自分への投資になると考えています」

知らない分野へ挑戦し 幅を広げる タレント 伊藤かりん氏

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伊藤かりん
タレント
横浜市出身。アイドルグループ・乃木坂46の元メンバー。2019年5月にグループを卒業。以降はソロで活動。15年4月~19年3月までNHK「将棋フォーカス」の司会を務める。同年4月に将棋親善大使に就任。将棋アマチュア初段。YouTubeチャンネル「かりんチャンネル」での活動も盛ん。

 アイドルグループに所属していた頃から将棋番組の総合司会を4年間務めていた伊藤かりんさんは、ソロとなった現在もラジオやイベントなどで将棋の普及活動を続けている。伊藤さんにとって将棋は「芸能活動の幅を広げてくれた存在」と話す。

 「まだ右も左も分からないアイドル時代に、将棋に関するテレビ番組のお仕事がグループに届いたんです。かろうじてルールが分かるレベルだったのですが、とにかくチャンスをつかもうと思って『私がやります!』と手を挙げたんです。それが将棋親善大使に任命されたり、著名な棋士の方と対談させていただいたりと、その後の芸能活動の幅が広がるきっかけになりました。現在は少しでも恩返しになればと、より多くの人に将棋に興味を持ってもらえるような活動を行っています」

 例えば、棋士の人柄を伝えるのも伊藤さんが考える役割の一つ。「この棋士の先生、面白いなと思って、そこを入り口に興味を持ってもらえれば」。自身の存在をアピールするアイドル時代とは立ち位置が異なるが、戸惑いはないと言う。

 「アイドル時代もライブの進行役としてメンバーの話を聞き出す機会が多くあって、誰かの魅力を引き出すことも楽しいなと思っていました。棋士の方へのインタビューでは対局中の真剣な表情とはまた違う、ウキウキと楽しそうに話す姿を見せてもらえた瞬間が一番やりがいを感じます。例えば、番組で一緒だった中村太地七段も当初は距離感があったのですが、私がいろいろ前のめりに質問しているうちに目を輝かせながら将棋の話をしてくださるようになりました。対局だけでは見えてこない棋士の方の一面を通じて、その方の魅力や将棋の面白さを知ってもらえたらうれしいです」

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将棋の楽しさを広めるため精力的に活動する
※写真提供:日本将棋連盟

 伊藤さんは現在27歳。師匠である戸辺誠七段をはじめ、普段は30代前半の棋士と関わる機会が多い。棋士たちとの交流を通して、伊藤さんは「数年後の自分は、皆さんほど落ち着いてないだろうな」と感じるそうだ。

 「アイドル時代のメンバーと今でもよく会うのですが、20歳前後の子も多いので私も同じ20歳の気持ちで考えてしまうんです。今が一番楽しくて、この時間がずっと続けばいいのにというふうに。でも、棋士の方々との交流も含めてもっとたくさんの人とつながりながら、いろいろな考えを吸収していかなきゃなとも思うんです」

 今後は今以上に多くの人と関わっていきたいという伊藤さん。今はインタビュアーとしての幅を広げるべく、英語の特訓中だ。

 「以前アニメスタジオの取材で米国に行ったとき、自分の思いを伝えきれなかったのが悔しくて。次に行くときは絶対に自分の言葉で話すぞという気持ちで勉強しています。また将棋などの魅力を多くの人に伝えるためには自分にも発信力が必要だと感じて、2020年はユーチューブも始めました。将来のためにいろいろなことに挑戦していく予定ですが、知らない分野に臆せず挑めるのも、やっぱり将棋という自分の居場所があるから。まだまだ恩返しの途中なので、今後も将棋の魅力を多くの人に伝えていきたいです」

予測できない未来に向け複数の軸を持つ タレント・アーティスト つるの剛士氏

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つるの剛士
タレント・アーティスト
北九州市出身。「ウルトラマンダイナ」のアスカ隊員役を熱演した後、2008年に“羞恥心”を結成しリーダーとして活躍。将棋、釣り、楽器、サーフィン、野菜作りなど趣味も幅広く、好きになったらとことんやらなければ気が済まない、多彩な才能の持ち主。2男3女の父親。

 25歳から本格的に将棋を始め、関連書籍も発行しているつるの剛士さん。将棋の魅力を聞くと「負けの美学」という言葉が返ってきた。

 「負けを素直に認める姿勢がすごく潔い。『自分で負けました』と頭を下げて、観客の方に負け際までしっかり見せるわけです。潔さの大切さは子育てにも生きていて、子どもにも自分が悪いときは素直に非を認めて『ごめんなさい』と言うように伝えています」

 つるのさんは将棋だけでなく、バイクや釣り、サーフィンなど多趣味であることも知られる。なぜ、そんなに多くの「好き」を見つけられるのか。

 「趣味を通じたコミュニティーが、『好き』を見つける原動力かもしれません。僕は知り合いをとりあえず集めて『○○大会』みたいに企画をすることが好き。すると、例えば『釣り』というキーワードだけで芸人さんから俳優、歌手までさまざまなジャンルの人が垣根を越えて、一つの船に集まるわけです。肩書きに関係なく、フラットなコミュニティーができる瞬間がうれしいんですよね」

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さまざまなコミュニティーをもつ多趣味なつるの氏

 そう笑顔で話すつるのさんは、これまでの芸能生活も明るい未来を想像しながら前向きに歩んできたかのように思う。しかし、意外にも将来には常に不安を感じていると言う。

 「未来は何が起きるか予想できないから、僕だって不安です。例えば3人組ユニット『羞恥心』としてブレークしたときも、意図しないところでブームが巻き起こり、いずれは終わるだろうなと割と冷静な自分がいました。これだけの激流にのみ込まれずに、自分の船をしっかり進めるためにも、アンカー(いかり)になるような軸をいくつか持っておかないといけない。そのためにも、ブームを利用して『子どもが生まれます』『音楽をやってます』『将棋が大好きです』と周りの人にアピールしていきました。ある意味、将来に向けた投資ですよね。いくつも軸ができれば、一過性のブームに流されずに済むと思ったんです」

 そんなつるのさんだが、2020年に芸能生活26周年を迎えた。人生100年時代といわれる中、今後は芸能活動以外の新たな挑戦にも意欲を燃やしている。

 「これまでを振り返ると、子育て番組への出演や育休の取得など子どもに関連する活動が多かったんです。ですから今度は無限の可能性を秘めた子どもたちに、いままで自分が経験してきた楽しみや感動を伝えたい。そうすることで未来の可能性も広がる。まだまだ漠然としていますが、サーフィンや音楽など趣味の仲間やあらゆるジャンルのプロを先生として招き、実践的な保育ができる園をつくってみたいと思います」

 専門知識を学ぶ為に幼稚園教諭と保育士資格取得を目指しているつるのさん。目標の実現に向け、着実に歩みを進めている。

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