NIKKEI 100年の資産形成

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資産形成の伴走者を見つけよう! 金融期間との上手な付き合い方

[スペシャルインタビュー]自分で選び、運用しながら学ぶ 投資には「自覚」と「覚悟」が必要

UPDATE:2020.06.26(Fri.)

作家

池井戸 潤

 人生100年時代を迎え、より豊かな老後のための資産形成に関心が高まる中で突然世界を襲った新型コロナウイルスのまん延。先行きが不透明な現在、堅実で持続可能な運用や投資商品を見極めるために、私たちは金融機関とどう付き合い、何をすべきか? 自身も都市銀行勤務の経験を持ち、代表作「半沢直樹」シリーズをはじめ数々の金融シーンを小説に描いてきた作家・池井戸潤さんに聞いた。

先が読めない金融情勢
難しい舵取り迫られる時代に

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、世の中の動向も金融情勢もますます先が読めなくなってきました。非常事態ともいえる現状がしばらくは「常態」になる可能性があります。業種によっては緊急事態宣言の発令で激減してしまった顧客が今も戻らず、これから倒産や経営破綻が増えるのではないかと危惧しています。

 私はこれまで銀行員や金融機関が登場する小説を数多く書いてきましたが、現在の状況は小説「半沢直樹」シリーズで描いたバブル崩壊後とも大きく異なっています。疫病という、誰もが予想すらしなかった事態が起こったわけで、個人の頑張りだけではどうしようもない。金融機関はこの先、難しい舵(かじ)取りを迫られるだろうと思います。

 金融商品の運用益も新型コロナウイルスの感染が世界に広がった春にガクンと下がり、現在は株価が戻っても、その時の損失を取り戻せていない状況です。今、もうけている人っているんでしょうか? 少なくとも、僕の周りでは聞きませんね(笑い)。

 思えば僕が銀行員だった時代は、お金を預ける先といえば普通預金か定期預金くらいしかありませんでした。しかしその後、金融機関は投資信託を扱うようになり、バリエーションが増え、今は実に様々な金融商品を取り扱っています。セールスも熱心になりましたし、NISA(少額投資非課税制度)がスタートしたこともあって敷居が下がり、今まで投資に関心を持たなかった人たちも金融商品に目を向けるようになったのでしょう。

まずは自分のリスク許容度を知る
少額から賢く、コツコツと

 選択肢が増えた分チャンスも増えたといえる一方、リスク商品でもあるので損失を被る可能性があります。これから投資を始めようと考えている人たちがそのことをどのくらい理解しているか、ちょっと疑問です。僕だって、金融商品の契約をする際に営業マンの説明を最初から最後まで聞いているわけではありませんし(笑い)。

 運用についての僕の考えは、シンプルに言えば「投資で大もうけしようと思わないほうがいい」です。特に、事業資金など必要不可欠なお金は、投資に回してはいけません。

 例えば資産のうちの3分の2は定期預金など手堅く押さえておいて、あとの3分の1程度をリスク資産で運用する、というふうに自分でルールや目標を決めて運用すべき。「この分はマイナスになっても仕方がない」と割り切る覚悟が必要だと思います。

 銀行員時代に数多くの事例を見てきましたが、投資への考え方は本当に人それぞれです。ハイリスク・ハイリターンを好む人もいれば、「とにかく減るリスクだけは何としても避けたい」という人もいます。運用や資産形成を考える前に、まずは自分がどういう投資性向のある人間なのかを客観的に考えなくてはなりません。

 今運用に回せるお金がどのくらいあるのか。どの程度の金融知識があり、理解できているのか。初心者であれば金利がさほど高くなくても、まずは定期預金より多少有利なくらいの、比較的低リスクの商品を少額から始めるのが賢い選択ではないでしょうか。

話をする池井戸氏の写真。コメント「信頼できる金融機関を見つけ、自身も任せきりにせず勉強を」

「預けて終わり」ではない
勉強しながら長く付き合う

 ネットで株取引ができるようになったときもそうでしたが、自分で買って運用すると少額でもすごく手応えを感じます。「今日は1000円損した」「今回はうまくいった」と、一喜一憂はしますが、実際に自分で動かしてみると学ぶことは多い。大切なのは、「このくらいまでなら減ってもいい」という目安を自分で設定し、くれぐれも身の丈にあった運用をすることです。

 セールスする側の金融機関はさすがに金融商品についての知識を豊富に持っていて、説明する能力もコミュニケーション力も高い人が多い。今はコロナ禍で対面営業は難しいかもしれませんが、相談をすれば親身に対応してくれるでしょう。ただし、彼らは運用結果に責任を持つことはできません。そこはやはり投資する人が自分で判断し、決断しなくてはならないのです。

 もし僕が金融機関の担当者から数種類の商品の提案を受けたとします。その中で「これはいいかな」と思う商品があったら、僕はまず顧問税理士に意見を聞きます。そうすると僕の中ではピンとこなかった問題点が意外と浮かび上がることがあるんです。

 つまりセカンドオピニオンを求める。税理士だけでなく、別の金融機関の人間など親身になって相談に乗ってくれる助言者を日ごろから確保しておくというのは、いいやり方ではないかと思います。

 特にリスク資産については預けたら終わりではなく、長く付き合っていくものです。「この人なら」と信頼できる金融機関の担当者を見つけ、かといって任せきりにはせずに、自分も新聞を読むなどして日々勉強する。そうした自覚を持ってこその資産形成ではないでしょうか。

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池井戸 潤
作家
1963年岐阜県生まれ。「果つる底なき」で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。「鉄の骨」で吉川英治文学新人賞、「下町ロケット」で直木賞。「半沢直樹」シリーズ(「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」「ロスジェネの逆襲」「銀翼のイカロス」)のほか、近作に「陸王」「七つの会議」「ノーサイド・ゲーム」など。「半沢直樹」シリーズの新作「アルルカンと道化師」を今夏発表予定。

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