日本通運 未来を運べVOL.2「自動車部品」

生産ラインの延長線上として、
グローバルに最適な物流ソリューションを提案

生産ラインの延長線上として、グローバルに最適な物流ソリューションを提案

生産ラインの延長線上として、グローバルに最適な物流ソリューションを提案

 自動車業界は100年に1度といわれる大きな変革期を迎えている。完成車メーカーから部品メーカーまで、「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」対応は喫緊の課題だ。日本通運の取り組みを産業分野ごとに紹介するシリーズ企画「日本通運 ― 未来を運べ」、Vol.2では自動車部品物流を取り上げる。サプライチェーン(供給網)のグローバル化、メーカーごとに異なる生産体制、国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」やBCP(事業継続計画)への対応など、日本通運が支える自動車ロジスティクスの現状と課題、将来展望などを紹介する。

「門前倉庫」を起点に、
JIT、ミルクランで
供給網を支える

 日本通運が自動車物流に参入したのは1990年代後半だ。同社のモビリティ営業担当常務執行役員の永井裕氏は「他社に比べ後発」と言う。しかし、本格参入した1990年代後半から着実に成長を続け、2020年3月期は、国内662億円、海外593億円の売上高を計上している。現在、日本や欧米の自動車メーカー16社、OEM(相手先ブランドでの生産)サプライヤー1,000社以上にサービスを提供。2019年4月から始まった「日通グループ経営計画2023」では、5つの重点産業・業種の1つとなっており、グループ全体で総力を挙げて取り組んでいる分野だ。

 自動車は、一般的に1台あたり2万~3万個もの部品で構成されている。また他の産業に先駆け生産のグローバル化が進んだのが自動車産業だ。日本通運は、それぞれの自動車メーカーの経営戦略とともに、自動車産業が集積するアジア各地、北米・メキシコ、欧州などでロジスティクスサービスを進化させてきた。複数の部品メーカーを1台のトラックが効率的に集配して回る「ミルクラン」、大型車両と鉄道とで長距離を輸送する幹線輸送、工場の近隣に構える門前倉庫から1日何度も配送するJIT(ジャストインタイム)輸送を組み合わせ、生産ラインの延長線上として最適な物流ソリューションでサプライチェーンを支えている。

受発注の代行から納期管理、通関、船積みまで包括的に

モビリティ営業担当の永井裕常務執行役員モビリティ営業担当の
永井裕常務執行役員

受発注の代行から納期管理、
通関、船積みまで包括的に

 同社のグローバル展開の端緒となったのは中国だ。2003年、日産自動車の中国展開に合わせ、日本通運も中国に進出した。初めはミルクランだけだったが、2006年からは、中国で製造した部品を海外の各工場に向けて輸出する業務を包括的に受託している。業務内容は、受発注の代行から納期管理、荷姿設計、KPI管理などの間接業務から、倉庫での入荷検収、荷姿変換、コンテナ詰め、通関、船積みの進捗管理まで広範囲に及ぶ。また、部品が海外の工場に届くまでの輸送情報を部品発注単位で進捗を管理、報告する。物流だけでなく商流なども担うLLP(リード・ロジスティクス・プロバイダー)として業務を遂行するケースも最近増えている。

 永井氏は「一口に日系自動車メーカーと言っても、生産方式や輸送モード、品質やコスト要件などはメーカーごとに異なります。弊社の強みは、各社の作法を理解していることと、グローバルネットワークです」と話す。さまざまな顧客にサービスを提供しているからこその“気づき”がある。「他社での成功事例を提案に織り込むことでお客さまに響くケースはよくあります」と続ける。日本通運は、それぞれのメーカーの微妙な“さじ加減”を理解しながら、サービス内容を水平展開することで顧客を広げていった。日系メーカーだけでなく、ボルボ、フォルクスワーゲン、上海汽車など非日系企業の顧客も数多く抱える。中国事業を担う日通汽車物流(中国)の喩永鴻部長は、「具体的なKPIを用いて業務精度を評価し、効率アップ、コスト削減、改善対策を検討しながら顧客満足度を高めるよう心掛けています」と胸を張る。

武漢の都市封鎖、
西日本豪雨でも代替ルートで
部品を運ぶ

 中国での輸送エリアは、華北・華中・西南・華南の中国全土を網羅する。ミルクランや幹線輸送、JIT輸送を組み合わせたスキームは日本国内で培った。自動車産業は以前、東海・関東地方に集積していたが九州や東北地方などに広がり、長距離で部品を輸送しなければならなくなった。そこで日本通運は、専用列車を走らせるなど鉄道とトラック輸送との組み合わせを構築。現在、日本国内で鉄道を利用した生産工場向けJIT物流のほとんどを同社が担っている。

 トラック中心から鉄道や船舶を利用した輸送に切り替えるモーダルシフトは、SDGs達成への貢献でも注目を集める。日本のように電化率の高い鉄道システムの場合、鉄道輸送による二酸化炭素(CO2)排出量はトラック輸送の8分の1ほど。「CO2削減という観点から、弊社を選んでくれるお客さまもいらっしゃいます」(永井氏)。輸送モードの多様化はBCPの観点でも重要だ。2018年の西日本豪雨時にJR山陽本線の三原・広島間が分断された。自動車部品輸送の大動脈が長期的に乱れたが、復旧までの約3カ月間、メーカー、部品メーカーと連携し、一度も生産ラインを止めることなく供給を続けた。また、中国・武漢で新型コロナウイルスのパンデミックが発生した際には一部地域でトラック輸送が制限。航空機をチャーターし、船舶、鉄道を活用した代替ルートを構築することで、各社の工場再開に貢献した。その後、全世界に広がったパンデミックに対しても同様の対応で、サプライチェーンを支え続けた。

日本国内を走る専用列車。地球環境保全を意識しながら部品を運ぶ ▲日本国内を走る専用列車。
地球環境保全を意識しながら部品を運ぶ

▲中国事業を担う日通汽車物流の(左から)張彩娟さん、喩永鴻部長、祝晓英さん、姜鹏さん▲中国事業を担う日通汽車物流の
(左から)張彩娟さん、喩永鴻部長、祝晓英さん、姜鹏さん

中欧クロスボーダー鉄道輸送で、リードタイム短縮

 日本通運のグローバル展開は着実に進んでいる。インドでは、スズキの子会社マルチスズキなどにミルクランと長距離輸送サービスを提供。同国はアフリカへの供給拠点になると見られており、「将来有望なインド・アフリカ間の貿易拡大に、自動車部品物流で貢献したい」と永井氏は期待を寄せる。北米では、ホンダ、トヨタ、マツダなどの生産体制の変化に合わせた門前倉庫を構え、米・メキシコ間の物流も担う。

 自動車の電動化・自動化を背景に部品物流が大きく変化しつつあるのが欧州だ。こうした潮流を捉え日本通運は、「中国欧州間クロスボーダー鉄道輸送サービス」を構築。欧州の都市と上海や大連など中国各地を結ぶ越境鉄道サービスで、自動車部品を大規模に輸送する。「今後、欧州のメガ・サプライヤーと日本の部品・素材メーカーによるEV(電気自動車)関連部品の大陸間輸送ニーズは高まる。航空輸送より安価で船舶輸送より迅速な新たな輸送モードとして確立していきたい」と永井氏は意気込む。一方で電動化への対応では、EVに欠かせないリチウムイオン電池など電子部品の輸送はより繊細で、より一層輸送時の可視化が求められる。

日本式を中国風、
インド風にアレンジする人材も
強み

 可視化は、新型コロナウイルスの影響によるグローバルでのリスクヘッジにも欠かせない。特に海外部品の場合は納入までのリードタイムが長いため、日本にいながら輸送状況を把握できる仕組みが必要だ。日本通運は、医薬品の物流などで、エンド・ツー・エンドで可視化するプラットフォームを開発している。自動車産業の領域でもこうした技術を活用し、複雑化・多様化するサプライチェーンを“見える化”するITプラットフォームを提供していく考えだ。またコロナ前は、メーカーはなるべく在庫を持たないJIT方式を採用していたが、これからは在庫の持ち方が変わっていくと予想される。永井氏は、部品サプライヤーの近接化が顕著になり、海外(第三国)より地産地消という考え方が主流になっていくことで現地調達比率が増大するとみている。「そうした顧客ニーズにいち早く対応していくことが肝要」と永井氏は気を引き締める。

 日本通運はアジア最大級の自動車産業物流ネットワークを生かし、新興国にもネットワークを拡大していく考えだ。永井氏は「メーカー各社が事業を拡大したいと思う世界のどこででも、私たちは各社の仕様に合ったサービスを提供できる」と自信を持つ。それを支えるのは人だ。「日本式の仕組みを水平展開する際に、中国風味に、インド風味にアレンジする人材が欠かせません」と話す。実際、中国での成長は日通汽車物流でそうした自動車物流を熟知した人材が育ったからだと打ち明ける。「これまで通り、メーカーごとの生産方式、各国の事情を勘案し、LLPとしての経験値を生かし、サプライチェーンマネジメントの全体最適化をサポートする。それが私たちの使命だと思っています」と永井氏は力強く語った。