医薬品流通における
オープンなデジタルプラットフォームを築く
新型コロナウイルスが世界を一変させた今、社会インフラとしての物流の重要性を改めて実感している人も多いだろう。日本通運も、アジア最大手、世界でも有数のグローバル物流企業として重責を担っている。シリーズ企画「日本通運 ― 未来を運べ」では、同社の取り組みを産業分野ごとに紹介する。VOL.1は医薬品。新型コロナウイルス感染症の治療薬やワクチンはもちろん、有効な医薬品が創出されても、適正な状態で必要とする人に届かなければ役に立たない。日本通運が進める医薬品のデジタルプラットフォームの現状と将来像、同社の狙いなどを紹介する。
川上から川下まで
一気通貫のデータに基づき
最適化
こうした医薬品物流の大変革期を捉え、日本通運は「日通グループ経営計画2023」で医薬品を重点産業の一つと位置付け、特別プロジェクトチーム「Pharma(ファーマ)2020」を設置した。2021年3月スタートに向け、医薬品物流の全体最適を実現するサプライネットワーク構築をめざす。ハード面では、拠点となる医薬品センターを全国4カ所に既に着工したほか、専用トラックやモノとインターネットをつなぐIoTデバイスなどを整備。ソフト面では、履歴管理システムの開発や運用手順の整備などを進めている。最大1,000億円の投資を見込む。
なぜ、日本通運が医薬品物流に本格参入するのか。デジタルプラットフォーム戦略室室長の戸田晴康執行役員は、日通だからできることとして次の3点を挙げる。第1に、医薬品の商流上で利害関係がなく俯瞰(ふかん)的立場で提案しやすい。第2に、グローバルでさまざまな輸送手段とネットワークを持っているため、川上から川下まで一気通貫のデータに基づきソリューションを提供できる。第3は、社会インフラを担っている企業としてのブランド力だ。戸田氏は「GDPに準拠するデジタルプラットフォームをつくるには巨額な投資が必要です。製薬会社が個別に体制を整えるより、弊社のような立場にある企業がオープンで最適なプラットフォームを構築する方が合理的ではないでしょうか。業界全体の基盤強化にも貢献できると考えています」と話す。
ブロックチェーンを活用し、
データ改ざんリスクを軽減
ブロックチェーンの活用に向け、日本通運は今年初めアクセンチュアと業務提携した。ブロックチェーンは情報の書き換えが難しいので、医薬品の偽造や窃盗、履歴データの改ざんリスクを軽減できる。事故の際の原因を検証することで、品質管理プロセスの継続的な改善も可能だ。一方、海外物流で必要な送り状などの書類手続きもスマートになり、作業効率が高まる。
ただし戸田氏は、それ以上の可能性を視野に入れている。「ブロックチェーンで蓄積されたデータを分析することで、例えば医薬品の輸送や供給実績から、地域的な属性などを考慮した需要予測ができるかもしれません。過去からの見込みではなくデータに基づいた適量をお客さまにアドバイスするなど、物流ロスを最小限にとどめることもできるのではないでしょうか」