提供:日本キャリア開発協会・日本マンパワー

価値観が異なっても理解し合える「多様性時代」の キャリアコンサルタントとは

トークセッション
大原 良夫氏
田中 稔哉氏
藤本 あゆみ氏

「人とキャリア」をキーワードに、人材開発に関するさまざまな事業を展開する日本マンパワーと「キャリアカウンセリング機能を社会システムとして具体化する」ことを目指して活動を続ける日本キャリア開発協会が、2月12日に「キャリアコンサルタントの役割」をテーマとしたトークセッションを開催した。日本キャリア開発協会理事長の大原良夫氏と、日本マンパワーでキャリアコンサルタント養成事業の担当取締役を務める田中稔哉氏が、モデレーターを務めたat Will Work代表の藤本あゆみ氏を通して、今後必要とされるキャリアコンサルタント像について、意見を交わした。

トークセッション
これからの社会と
キャリアコンサルタント・CDA
~専門性と使命~
  • 大原 良夫氏 日本キャリア開発協会 理事長
  • 田中 稔哉氏 日本マンパワー取締役
モデレーター
藤本 あゆみ氏 at Will Work代表理事

キャリアコンサルタントが果たすべき役割とは

大原 良夫氏

大原 良夫氏

日本キャリア開発協会理事長および研究員。大学院修士課程(心理学専攻)修了。日本マンパワーにて「キャリアカウンセラー養成講座」の開発等に従事、同社取締役。2013年から日本キャリア開発協会事務局長を経て17年から現職。専門分野はキャリア開発、キャリアカウンセリングおよび性格心理学。

藤本2016年から、キャリアコンサルタントが国家資格になりました。本日は、キャリアコンサルタントが果たすべき役割、キャリアカウンセラーとキャリアコンサルタントの違い、さらに働き方自体が多様化する時代においてキャリコンサルタントはどのように社会と向き合うべきか、といったお話をお伺いできればと思います。
 お二人は現在、どのような課題意識を抱えていらっしゃいますか。

田中まず、キャリアコンサルタントの活躍の場を広げなくてはいけないということです。キャリアコンサルタントの資格を持つ人の数が年々増えているのに対し、資格を生かして活動している領域が限られているのが現状です。
 また、さまざまな価値観、バックボーンを持つ人が共に生きる社会が当たり前になりつつあります。多様性を真に生かす社会を実現するために、キャリアコンサルタントに何ができるのか。それを改めて考えることも大事だと感じています。少し極端な例かもしれませんが、「多様性など必要ない、自分たちがよければよい」という人にどのように対応するのか? それを「そういう考え方も『あり』ですよね」といってそれだけでいいのでしょうか。私は違うと思います。それをそのままにするのではなく、もちろん「説得」するのでもなく、「対話」を通して、その人がなぜそうした価値観を持つに至ったか、理解する努力が必要だと思うのです。そういうアプローチをする背景にあるのは、「人は自分だけがよいと思う気持ちもあるが、皆でつながりを持ち、皆で幸せになれる方がいいと思う心を持っているはずだ」という人間観です。

大原日本キャリア開発協会(JCDA)の理事長という立場から常々考えているのは、社会の中、キャリアコンサルタント・キャリアカウンセラーはどのような専門性を発揮するのかということです。専門性とは、言い替えるなら強みであり、私たちのアイデンティティーでもあるのです。私たちは、何を強みとして社会貢献ができるのか。それを真剣に考えるべきだと思います。
 JCDAのスローガンは、「キャリアカウンセリング機能を社会システムとして具体化する」。すべての人にキャリアを相談する機会を提供することで、成熟した社会への発展を支援し、成熟した社会を維持することが目的です。そして最終的に目指すのは、キャリアカウンセリングを通じ、つながりのある社会をつくること。時代の変化に応じ、今後はキャリアコンサルタント・キャリアカウンセラーのあり方を変えることにも挑戦していくべきではないでしょうか。

藤本国家資格の名称は「キャリアコンサルタント」ですが、おそらく多くの方にとってなじみがあるのは「キャリアカウンセラー」です。この二つの違いはどこにあるのでしょうか。

田中言葉こそ違いますが、キャリアコンサルタントもキャリアカウンセラーも、意味する存在は同じです。というよりも、国家資格の保持者「キャリアコンサルタント」の実際の姿は、キャリアカウンセラーなのです。
 単に呼び方が違うだけなのですが、長くキャリアカウンセリングに携わってきた身としては、「キャリアカウンセラー」という名称に愛着があります。

田中 稔哉氏

田中 稔哉氏

メーカーで人事業務全般に携わった後、コンサルティング会社で新規事業開発、関連会社経営に従事。日本マンパワー入社後はキャリアカウンセラー養成講座の開発、大学・高校向けキャリア教育プログラムの開発、行政機関への雇用対策事業の提案・企画・運営、ジョブカフェのチーフキャリアカウンセラー等を歴任、現在はキャリアコンサルタント養成事業の担当取締役。

大原コンサルタントという言葉は「問題を解決する人」というイメージが強いのではないでしょうか。一方、カウンセラーは、人の内面に焦点を当てて「成長を支援する人」というイメージが私にはあります。その点から考えても、やはり私たちが行っていることは、コンサルタントというよりもカウンセラーだと考えています。私も、カウンセラーという呼び方について、ポリシー、シンパシーを持っています。

藤本キャリアコンサルタントの役割は、従来のキャリアカウンセラーと変わらないんですよね。では、キャリアコンサルタントに期待される役割とはどんなものでしょうか。

田中クライエントの主体的な意思決定を支援することだと思います。その人が、心から納得できるような、「社会の中での役割」を選択する支援といいますか。「仕事」ではなく、「社会の中での役割」という言葉をあえて使っています。主婦・主夫の方など、会社に勤めていなくても、社会の中で重要な役割を果たしている人はたくさんいますからね。

大原キャリアコンサルタントの役割が、単に職業選択の支援にとどまらないというのは、その通りだと思います。私は、生き方を支援するのがキャリアカウンセラーだと思っています。キャリアコンサルタントという名称でもそうだと思います。その人の人生全体を考えながら、人生を構成する大事な要素の一つとして、職業をとらえる。だから、職業の選択や適応の支援というのは、生き方の支援になるのです。また、ある人にとっては、職業に従事することに価値を感じていない人もいます。だからと言って、キャリアカウンセラーの支援は不要かと言えば。そうではありません。人生全体を扱うキャリアカウンセラーは職業以外の領域であっても、クライエントの人生を充実させるお手伝えはできるのです。

藤本これからの時代、キャリアコンサルタントが身に付けるべき能力は、どのようなことでしょうか。

風景

大原心理療法の一つに「ナラティブセラピー」という領域があります。彼らの専門性を表すユニークな言葉があります。それは、「治療的会話」という言葉です。心理療法家は、「治療的会話」を通じて、クライエントと接していくとわけです。「治療的会話」の中味は、基本的に内省を促す質問が主となります。これを参考にして言えば、私は、キャリアカウンセラーは「治療」を目的としていないことから「内省的会話もしくは内省的対話」のプロではないかと思っています。

田中内省的対話というプロセスを通じ、その人が「こうでありたい自分の姿」に、より気づけるような手助けをできてこそ、キャリアコンサルタントだと思います。その人自身が気づいていない「理想の自分」に近づけるようなかかわりができるようになるには、知識はもちろん経験も求められます。

多様な社会を実現するために

藤本 あゆみ氏

藤本 あゆみ氏

2002年キャリアデザインセンター入社。入社3年目に当時唯一の女性マネージャーに最年少で就任。07年4月グーグルに転職。代理店渉外職を経て営業マネージャー、人材業界担当統括部長を歴任。「Woman Will Project」のパートナー担当を経て、同社退社後16年5月、at Will Workを設立。その後、お金のデザインを経てPlug and Play Japanにてマーケティング/PRを担当。

藤本先ほどから、「多様性」という言葉が何度か出てきました。女性や高齢者、外国人の活躍の場が増えるなど、実際の社会でも多様性が重要なキーワードとなっています。キャリアコンサルタントは、こうした社会の変化にどのように向き合えばよいでしょうか。

田中少子高齢化や人口減少など、一つひとつの社会の出来事に対する自分の姿勢を明らかにしておく必要があると思います。自他の違いを知るには自分の立ち位置、考えを持っておく必要があると思うからです。「多様性」を認め、理解すると同時に、「主体性」を持つこと。それがこれからのキャリアコンサルタントに求められていることだと思います。

大原多様性を考えるときに、自分とは異なる価値観を持つ人にいかに向き合うかという問題が必ず生じます。ある実験で、中絶に反対か賛成かで二つのグループに分かれ、ディスカッションをしたそうです。その際に守ってもらったルールが二つあって、一つ目が自分と異なる意見を持つ相手の話でも最後まで聞くこと、二つ目は相手がどうしてその考え方に行き着いたか、個人的な経験を聞くことだったそうです。すると多くの参加者が、「あの人の考え方を理解できた。でも、私の価値観は変わりません」というところにたどり着けたというのです。価値観が違っていても、対話する姿勢があれば、相手を理解することができる。このことを心に留めておけば、価値観の違いは必ずしも対立に結び付かないことを理解できると思います。

田中相談を受けていると、クライエント自身が、考え方や言動を変えることで対処できる問題もありますが、本人の変化だけでは対処が困難な場合もあるように思います。例えば社会システム、企業内の制度、家族内の規範などです。そういったものに対しては、クライエント本人が対話などを通して周囲に働きかけることを支援するのは、もちろんですが、場合によってはキャリアコンサルタント自身が相談室から出て、直接相談者の周囲の環境に働きかけることも必要になると思います。

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大原広く社会に目を配り、さまざまなバックボーンを持つ人へのまなざしを持つのは大切なことです。例えば、LGBT(セクシャルマイノリティの総称のひとつ)のクライエントから「職場の人とうまくいってなくて、偏見があると感じるんです…」と相談されたとします。目の前のクライエントに寄り添おうとする気持ちがあるなら、不合理な偏見に対し、まずはその人と一緒に怒ったり、悲しんだりするはずです。しかし、キャリアカウンセラーの心の中に「LGBTへの社会的偏見は、なくならないし、仕方がないことだ」といった諦めの気持ちがあったり、LGBTに対して無関心であったら、その気持ちや無関心さは必ずクライエントに伝わります。クライエントは、ちょっとした言葉づかいや態度から、キャリアコンサルタントの「本音」を敏感に察知しますから。そうすると、相手に信頼してもらうなんて不可能ですよね。
 社会から不合理な扱いを受けている人への共感ももちろん必要ですが、その人が置かれた社会的状況への関心を持ち続けることが本当に大切なことだと思うのです。

田中人と人は、完全に理解し合うことは難しいかもしれません。でも、「目の前にいるこの人と私は、数パーセントでも分かり合える、共有できる部分があるはずだ」と信じられることが、キャリアコンサルタントに不可欠な資質でしょう。それを本気で信じられるからこそ、好奇心を持ってクライエントと向き合い、クライエントがありたい自分に気づくような質問ができるのだと思います。

大原確かに、価値観が違うこと自体には、何ら問題はありません。多様な社会では、ごく当たり前のことです。価値観が違う人に向き合うときに、「この人の価値観をどのように変えるか」ではなく、「この人はどうしたいのだろう。目指すキャリア、生き方はどこにあるんだろう」と考えるところから始める。そしてそこから、「内省的対話」を促す。キャリアコンサルタントに求められるそうした基本的な姿勢は、今後もきっと変わらないでしょう。

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