企画:日本経済新聞社 デジタル事業Nブランドスタジオ

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ニューノーマルを
生きる

~ これからの時代を担う君たちへ ~

2020年、突如世界を襲った新型コロナウイルスは、社会の在り様を一変させた。ただし、誰しも経験したことのない未曽有の事態から生まれる新しい世界、「ニューノーマル(新常態)」は大きなチャンスでもある。これまでの当たり前が当たり前でなくなるとき、国は、企業は、わたしたち一人ひとりは、どう生きていくべきか――。この春スタートを切った新社会人をはじめ、新しい時代の担い手たちへ贈るメッセージ。

佐藤 オオキさん

佐藤 オオキさん

デザイナー
(nendo代表)

むき出しの自由、
実は不自由

 デザイナーの仕事の中で、私が最も苦手とするのは「自由にデザインをしてください」という依頼です。20年間のキャリアを通じ、依頼を受けた仕事には常に制約がありました。制約という一見ネガティブな要素を逆手にとることで、アイデアをスムーズに出す習性が身についたのです。

 2年ほど前にマグロ漁船「第一昭福丸」のデザインを引き受けました。与えられた課題は、長期間にわたり閉じた空間で洋上生活を送るハードな職場で、重労働によるストレスを軽減させ離職率を抑えたいというものです。制約の多い中「これからの時代の安全性と快適性」とは何かを徹底的に考えました。物理的なストレスには、WiFiを完備したり天井を高くしたり。一方で精神的ストレスへの対応には、新しい発想が必要になります。「地上では当たり前だが、水上では違うことは何か」。こう考えて気づいたのが「海に出ると直線がなくなる」ということです。波はカーブしている。船は安全性を考慮し角がすべて丸く、窓も円形です。そこで内装には直線を意識したストライプなどを取り入れ、慣れた地上の感覚を醸すようにしました。

 ローソンのプライベートブランド(PB)を刷新する仕事では、700点以上の商品コンセプトを再点検してパッケージを変えます。食品から衛生用品、文具まで多種多様、しかも全国約1万4000店舗で販売するわけですから、それだけ制約は大きくなります。ポイントは「どうしたら消費者の共感を得られるか」。コンビニが直面する経営環境の変化が大きく関係するので、経営陣と丁寧な議論を重ねました。

組織ではなく、個人として考える習慣を

 デザインの仕事は、目の前が真っ暗な状態から「小さな光」を丁寧に探し当てていくような不安の中から始まります。ただし、闇があるからこそ光が見つけやすい。そういう捉え方をするだけで、前向きな気持ちに変化していくのが自分でもわかります。今は日常生活にも仕事にも厳しい制約が課せられています。でも、むき出しの自由には、実は非常に不自由な側面もあるのです。制約があるからこそ私たちは自由を獲得できるのかもしれません。

 新型コロナウイルスによって社会のルールが大きく変わろうとしています。これは私たちにとって新しい制約です。コロナ以前の社会に慣れた人たちは元の状態に戻ろうとするでしょう。でも、変わらなければ生き抜くことは困難です。これまでのように集団や組織で考えても解決できない問題が増えていきます。個人で考える習慣を身につけることが大切ではないでしょうか。テレワークとは組織から離れた場で仕事をすること。自分を律することが求められます。若い世代の皆さんには、自分の感情や能力をコントロールする力がますます重要になるでしょう。

トグル

高橋 智隆さん

高橋 智隆さん

ロボットクリエーター

既得権ポストが空く時代

 私はいわゆる就職氷河期世代です。この世代は、就活当時だけでなくその後も厳しい経済情勢の影響を受けてきました。おそらく今の若者も、足元で起きている新型コロナウイルスの流行に伴う変化の影を、今後長く引きずることになるでしょう。

 新型コロナウイルス感染症の流行は人々の行動と、さらにはその背景にある価値観を変えつつあります。仕事においても、印刷してなつ印する書類や形式的な会議、非合理的なビジネスマナーなど、長らく変えたくとも変えられなかったものが今、半ば強制的に変化しています。アフターコロナでは、非生産的な慣習が効率の良い方法へと置き換わっているでしょう。若い世代の技術リテラシーや合理的価値観を、これまで抵抗勢力となっていた世代が受け入れ始めているのです。今こそ若者がもの申し、社会を変えていくチャンスではないでしょうか。

 仕事以外でも変化は訪れます。これまでは「盛況」「活気」として肯定されてきたような、過度な混雑や密集を避けるようになるでしょう。話題の飲食店の行列に並ぶ、お盆休みに人気の観光地を訪れるといった画一的な集団行動ではなく、今より個々が自由に分散して行動するようになるかもしれません。そもそも皆が平日の同じ時間に働き、週末や祝日に一斉に休んだり外出したりという行動も見直すべきでしょう。今までピークに合わせていたインフラ整備やビジネスのキャパシティーも、需要を分散させ平準化すればより効率的になるはずです。

新しい時代ならではのチャンスをつかめ

 私の専門であるロボットの分野については、人同士の接触を減らすためのロボット導入が加速すると思います。例えば病院内の予約システムや電子カルテなどに連動した受付ロボットや配膳ロボットが、試験導入され始めています。

 新型コロナウイルスへの対応を巡っても、刻々と変わる状況に、しばらく前まで失敗と言われていた地域の政策が優等生とたたえられるなど、世間の評価がころころ変わっています。どの方法が正解なのか今はわかりませんが、それだけ価値観が変化し続けているのです。

 就職氷河期世代は苦労もしましたが、一方で自ら起業するなど新しい動きも出てきた世代です。ピンチはチャンスでもあります。安泰な時代には既得権のポストは埋まっていますが、ピンチによる変動のタイミングでは、それがシャッフルされるからです。皆さんには、新型コロナウイルス問題が良くも悪くも自分たちの世代に長く影響を及ぼすことを念頭に人生設計を考えてほしい。そしてニューノーマルの時代ならではのチャンスを見つけ、つかみ取ってください。

トグル

羽生 善治さん

羽生 善治さん

将棋棋士

リアルタイムに
歴史を学ぶ機会

 時々刻々、リアルタイムに「歴史」を学ぶ気持ちで、毎日を過ごしています。現在、世界で起きている出来事が、後で振り返って大きなインパクトがあるのは間違いありません。日常の生活は大変ですが、それだけにとどまらないように深く考えたり学んだりする機会だと捉えています。

 新型コロナウイルスの対策に特別な対応はしていませんが、マスクを着用し手洗いを欠かさず、人混みを避けるようにしています。将棋のプロ棋士の対局は長時間「密接」になりやすいのですが、窓を開け放った部屋に1つの対局を限定していることで、将棋界から幸いにも現在は感染者は出ていません。

 決められた対局日に向けて調整していくことは、新型コロナの感染拡大前と変わらず、モチベーションも維持できます。プロ同士の対面の研究会は中断していますが、ウェブ上からデータを取得し、対局中継にアクセスしての自宅研究は、十分継続できています。将棋界は比較的対応しやすい分野でしょう。

 これからの社会は、間違いなく大きな変化を余儀なくされます。世界の経済が同時にストップするような状況は、ここ半世紀で初めてなので、付随して何が起きるかに注目しています。人工知能(AI)の普及が加速するでしょう。将棋に関して言えば「定跡」など知識を補正して体系化する機能と、人間には思いつかない着想を示す機能があります。人間・AIともに判断がつかない未知の分野も多いです。AIはあらゆる世代にフラットです。漠然としている未知の分野を、AIを駆使して掘り起こすのは大きな意義があると考えています。

世代を超えた知恵の結集、必要不可欠

 私が中学生でプロ棋士となってから、30年以上たちます。しかしこれまでに得た知識や経験が、自分の子供たちの世代にあまり役に立たないと思ってきています。新しい発想は年齢に関係なく、どの瞬間でも生まれます。しかし年齢が上の世代は、それまでの成功体験と知識が邪魔する場合が少なくありません。若者ならば、しがらみがなく、現状の中から「良いとこ取り」できるアドバンテージがあると考えています。

 これからの社会に(破壊的な)イノベーションをもたらすのは、若い世代の創造性です。この時代は、グローバル展開している組織ほど能力ある若者を探し見つけ出すことに力を入れているでしょう。一方で、アイデアを具現化する段階では、先輩世代の知恵や経験が必要になってきます。ですから、世代を超えた知恵の結集が必要不可欠と思われます。

 興味や関心を持ったジャンルには、自分のテリトリーを超えて、どんどん知識を吸収していってほしいです。それは将来、必ずプラスになります。基本的な事柄はウェブ上で学べます。変化の早い時代なので、ためらわずにアクションを起こしてほしいです。過去にとらわれずに、自分の世界を自分で切り開いていってください。

トグル