山口豊
1949年生まれ、東京都出身。父は寺院・社寺建築をはじめ仏具製造を手がける翠雲堂の創業者。学生時代に世界各国を旅行し、海外の文化に触れ、日本文化の奥深さや歴史・伝統を伝える仏像・仏具など仏教美術の魅力に改めて感銘を受ける。日本の伝統文化や職人の技を後世に正しく伝えるため、本物の荘厳仏具づくり、社寺建築にこだわることで他には真似のできないスタイルを築く。
http://www.suiundo.co.jp/

INTERVIEW

仕事をするうえで大切なのは、物事を見る確かな目を養うことだと思います。私たちの場合、職人の仕事を見て良し悪しを理解できないことにはこの仕事は務まりません。私が若い頃は今のようにネットで検索すれば何でも得られる時代ではありませんでしたが、職人の仕事を目の前で見て、数多くの本物に触れることができたのは幸いでした。そして、分からないことがあればその都度質問すること。そうやって初めて自分のものになるんです。

早く仕事を覚えたいなら興味を持とう

山口豊

子供の頃から家業を身近で見て育ちましたが、さほど興味はなかったですね。大学生活が終わる頃、父に家を手伝ってほしいと打診されて初めて意識したぐらいです。実家とは規模も業種もまったく異なる会社を見てみたかったのもあって、卒業後は繊維の会社に就職しました。私の仕事は配送センターで品物の管理や配達をすることでしたが、文字を正確に書くなど、その時にできるベストを尽くすことを心掛けていました。入社した時から常に、会社でナンバーワンになるつもりでいましたね。いわゆる団塊の世代ですが、勉強も就職も一番にならないと希望したところへ入れなかった時代。一番を目指すのは自然なことでした。

実家に戻ったのは2年後。最初は荷分けや荷造りから始まり、配達、現場の取り付け作業などいろんな経験をさせてもらいました。本堂の屋根裏に上がって工事をしたこともあります。高速道路も今のように整備されていなかったので、取引先に1日かけて向かうこともありました。 創業者の息子なので他の社員より仕事ができて当たり前だと周囲には思われます。人と同じことをしていても仕方がないので、いかにスピード感を持って質の高い仕事ができるかを意識していましたね。仕事でも何でも、人より早く覚えるためには物事に興味を持つことが一番の近道ではないでしょうか。理解できないのは、分からないことが分からないから。物事を深く掘り下げて、自分の分からないことを知ろうとすることが大事だと思います。

今まで手掛けた仕事で印象に残っているのは、1億円を超える仏間を作ったことです。お施主さん個人の仏間で広さは12畳程度ですが、世界中から目利きの来客があるので相応のものを2年半で作ってほしいというご依頼でした。木工や仏具、漆塗り、飾り金物などすべての工程で最高のものを作るために、何百人もの腕の良い職人たちと膝を突き合わせ、時にぶつかり合いながらできる限りのことをしました。特に木は乾燥や湿気で形状が変化するので、その特性を熟知していなければなりません。日本古来の素晴らしい建造物や仏具はたくさんありますが、それらを真似ようとしても決して同じようにならないのです。その時の材木の状態にも大きく左右されますし、同じものができないことは不思議であり、そこに醍醐味もありますね。

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本物の日本の文化と技術を伝えたい

社長に就任したのは2012年。常に一番いいものを目指して仕事に取り組んでいます。二番手で妥協したくはないですね。本物は間違いなくお客様に喜びを与えてくれます。偽物はいずれ綻びが出ますが、本物は湿度や温度の変動が大きな日本の四季にも長く耐えるものです。何百年も使い続けられるような社寺建築や仏壇・仏具を作り続けることで、本物の日本の文化と技術を伝承していきたいですね。

この仕事は9割以上が手作業ですから、職人がいい仕事ができるように環境を整えてあげることが私の役割だと思っています。製材からすべての工程を自社で完結できる工場を作り、若い職人や宮大工の育成にも注力しているところです。1級建築士の資格を持つ大工も増え、総合的に建築ができるようになりました。ここまで一貫して手掛けている会社は他にないでしょう。

時代は変わっても結局、仕事を覚える人の貪欲さ、努力次第だと思います。若い人たちには目の前の物事に興味を持って突き進んでほしいですし、先人よりレベルの高い仕事をしようという気構えを持っていてほしいですね。 私はいつも自分の中に生きがいを持って仕事をしています。何事にも自分の目標を持ち、日本の素晴らしい文化を培っていこうと常々思っています。若い皆さんも、将来を自分たちの力で切り開けるように自分の力を信じて物事に取り組んでみてください。ぜひ、一番を目指して頑張ってほしいと思います。

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