辻康雄
1957年生まれ、東京都出身。日本大学歯学部卒業、同大学院歯科臨床系歯周病学修了。国内外で歯列矯正、インプラントの研修を受ける。89年、義父から大島歯科医院を承継し、院長となる。日本歯周病学会歯周病専門医。日本顎咬合学会咬み合せ認定医、顎咬合学会専門医。日本訪問歯科学会訪問診療専門医。
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INTERVIEW

1957(昭和32)年に義父が東京都江東区大島の地に開院して、今年で62年になります。地域医療に密着し、地域の皆様から愛されて今日までやってきました。私は歯周病を専門としておりますので、歯の状態にもよりますが、患者さんの希望であれば、他の医院では抜いてしまうようなケースでもなんとか残していけるような治療を心がけています。一人でも多くの患者さんが人生の最後まで自分の歯で食べられるように全力を尽くしたいと思っています。

歯科医という「天職」との出会い

辻康雄

小学3年生の時の年末に歯が痛くなって、大みそかもお正月も激痛で何も食べられない、歯磨きもできない、寝ているしかない状態になってしまったことがありました。痛み止めの薬で抑えながら休み明けに歯科医院で治療を受けたところ、今まで腫れて痛かったのがうそのようにスーッと消えて。その時のことは今でもよく覚えています。「あれほどの痛みを取ることができるなんて!」と感動し、その先生に後光が差しているように見えて、それから自分もこの仕事に就きたいと思うようになりました。その後、大学を卒業して歯科医になったのですが、歯科は患者さんとふれあう機会が多く、治療を終えた後の患者さんの笑顔を見ると幸せだなと感じます。歯科を選んでよかった。これが自分の天職だと思っています。

そう思うようになったのは、ある患者さんとの出会いからです。その方は50代の男性で、歯の痛みや歯肉の腫れがひどかったのですが、仕事が忙しくてなかなか歯医者にかかれなかった。痛み止めを飲んでなんとかやり過ごしていたのですが、とうとう我慢の限界を超えて、近所の歯科医にかかったところ、「全部の歯を抜く。それ以外に方法はない」と言われたそうです。確かに長年放っておいたことで症状が進んだわけですが、全部抜くというのにはさすがに患者さんもびっくりされたそうです。そこでなんとかならないかと、当院に通っている方の紹介で私のところにいらっしゃいました。レントゲンを撮ってみたら確かに楽観できる状態ではありませんでしたが、歯周病の専門医としての目から見ると、まだまだ残せるところはあると思いました。

そこで歯を残すための外科手術をして、7本は抜きましたが、残りの21本を保存することができました。患者さんは全部なくなることを心配していたので、歯肉の腫れがおさまり、歯のぐらつきがなくなってくると、患者さんの方から信頼してくれるようになり、歯に対する意識も高まりました。歯周病は一度治っても再発しやすいので、ちょっと手を抜くと元に戻ってしまうのです。しっかり予防をして、この歯がなくならないように、死ぬまで今の状態でいけるようにがんばりましょうといったら、「定期的に来ますのでよろしくお願いします」と言ってくれて。その方は今でも継続して通われています。私も子どもの頃に歯の疾患でつらい経験をしていますので、できるだけ患者さんの希望をかなえて、楽になるようにしてあげたい。患者さんの痛みを全力で取ってあげることが自分の仕事だと思っています。

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人生100年時代に歯科医が果たす役割

最後まで自分の歯で食べられるように治療をすることは一番大事なことですが、不幸にも脳血管障害などの後遺症で、うまく食べ物を飲み込めなくなったという患者さんもいます。特に訪問診療をしている患者さんに多いですね。何か食べようとしてもむせてしまい、誤嚥性肺炎を起こしてしまう可能性もある。どうしたらその患者さんが自分の口でものを食べられるようになるかというのは、患者さん本人や介護にあたるご家族にとっても、医療にとっても大きな問題です。単純に栄養を取るということだったら胃ろうでも構いませんが、人間、口からものを食べないと、生きる気力が失われていきます。味わいや食感を自分の口で感じることによって脳に情報がいき、その方のQOL(生活の質)の向上につながり、周りとの関係も変わってきます。

自分が食べたいものを食べて、納得して生きていると、周りに対しても感謝の言葉が出てきます。同じように亡くなられても、精神的に良い状態でなくなられるのか、それとも自分は本当につらいと、何にもできなかったといいながら亡くなられるかで、その人の生きた意味が全然違ってくる。介護する家族の方にとってもこれは大きな違いだと思います。しかし、歯科医がその一助になれるということはまだまだ世間一般には認識されていません。それはわれわれ歯科医側にも問題がある。自分たちにできるだけのことを患者さんにしてあげたいという思いを、患者さんにもそのご家族にも伝えていきたいと思っています。

自分の中での矜持(きょうじ)といいますか、筋を通したいと思いますね。医院理念に「抜かない、削らない、痛くない治療」「患者さんを自分の家族と思って接する」ということを掲げていますが、常にそこに立ち返って自分の診療を見直すようにしています。人生100年時代といわれる現代社会で、私は歯周病の専門医として、歯周病をこの世からなくしたいと考えています。少なくとも私のクリニックに来られる方が、歯周病で歯を抜くことがないようにしたい。自分にできることを全部ぶつけてやらないと後悔するということがわかっているので、常に全力で、自分にでき得る限り最高の医療を提供する。それが医療人としての責任を果たすということではないかと思っています。

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