戸山文洋
帝京科学大学大学院博士後期課程満期退学。人間工学、生理心理学の見地からアニマルセラピーを研究した。2014年、父が理事長を務める社会福祉法人にレクリエーション支援の専門部署「アクティビティケアチーム」を発足。現在は、法人経営の傍ら、大学での講義、研究会での公演など、教育活動にも注力している。著書に『特別養護老人ホームは「理念」で生き残る』(幻冬舎)がある。
http://www.goyoukai.or.jp/

INTERVIEW

五葉会は、要介護の高齢者の日常生活をサポートする特別養護老人ホームを中心に、デイサービスなどの在宅系サービスを展開している法人です。入居と在宅を合わせると、延べ400人を超える皆様にご利用頂いております。私たちの理念は「施設は大きな家族である」というもの。「介護は楽しい暮らしのための大前提」という発想で、アクティビティケアという概念の楽しいサービスを追求しています。

自分らしく福祉に向き合う

戸山文洋

私の実家は代々その土地を守ってきたいわゆる「古い家」で、家業の継承という言葉を刷り込みのように意識して育ちました。自分の将来が限定されているようで、ときには反発もありながら、同時にそれがプライドにもなっていたように思います。祖父の代までは農業を専業で営んでいたのですが、その後、銭湯、ガソリンスタンドと幅を広げ、現在の介護福祉に至ります。これだけみると節操のない手の広げ方に見えるかもしれませんが、実は一つの軸でつながっています。それは「地域の人の役に立ちたい」という軸です。当時、大半の世帯が農家だったこの地域で、一日の終わりに汗や泥を落とせる銭湯はとても重宝していただきました。時を経て農家世帯は少しずつ減り、車でお勤めに出かける世帯が増えたとき、行き帰りに立ち寄りたいのはガソリンスタンドでした。さらに月日が流れ、少しずつ高齢化してきた地域に必要なのは介護施設だと考えたのが父の代です。
そんなわけで、私が継ぐべき家業は高齢者の介護施設になったのですが、若さゆえの自我が「自分らしく」とくすぶっていました。そんなある日、両親に見せてもらったのが施設で行われていた「アニマルセラピー」でした。犬を連れたボランティアさんがご利用者様とお話をされていて、フワフワな毛に触れたご利用者様の顔はキラキラと輝いていました。その光景は今でも脳裏に焼き付いて離れません。元来バカが付くほどの動物好きである私にとって、自分らしくという自我と、継がなければという使命が完全に一致した瞬間でした。継ぎ方が見えれば進路は自ずと定まり、大学、大学院では人間と動物の関係について生理心理学的な観点で研究を進めていました。
さらに分岐点となったのは、ストックホルムのナーシングホームへの訪問です。学会発表の際に偶然舞い込んできた貴重な機会でした。その施設のラウンジには音楽室、工作室、温室などが用意され、そこには各種の療法の専門員が配置されています。ペットの犬や猫は職員のサポートありきで当たり前のように共生していました。ご利用者様に提示している選択肢の幅や、自由度の高さにめまいがするほどの衝撃を受けたのを覚えています。ぼんやりしていた自分の理想像のピントが合ったような感覚でした。

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ご利用者様の「らしさ」を作り直す場所

私が入社と同時に取り組んだのは「アクティビティケアチーム」の設立でした。ご利用者様にたくさんの選択肢を提供する、いわゆるレクリエーション支援の専門部署です。
ここで壁になったのは、対外的な折衝よりもむしろ内部職員の理解を進めることでした。国内にモデルのない取り組みであり、経営的な負担も大きいことは明白だったので、意義が法人内に浸透し始めたことを実感するまでに5年という歳月がかかりました。思いを伝えるために当初私は一枚のイラストを作成しました。芝生の上に一件の家が建っていて、そこにはペット、楽器、お花、調理器具、スポーツ用品、常備薬などたくさんのアイコンが描き加えられています。それを見せながら「これが『らしさの絵』だとしたら、あなたの絵にはどんなアイコンが載っていますか?」と聞きます。すると職員は思い思いのことを口にしました。そして続けます。「では、あなたが要介護になったとしたらそのアイコンはどうなりますか?」。職員は想像します。「危険を感じた周囲の人、限界を感じた自分の手によって、色々なアイコンが消されていくイメージが湧きませんか?」。介護業界では「その人らしさを支えよう」という指針がよく示されます。でも私達は「その人らしさ」というものをきちんと捉えられているのでしょうか。私はこのイラストを使ってそんな問題提起をしました。心身の要介護状態を理由に消えかけているアイコンを作り直す(再創造:Recreation:レクリエーション)ことこそ「その人らしさを支える」介護なのではないかと伝えたのです。心を込めてご利用者様に寄り添ってきた職員にこの思いはじわじわと浸透し、少しずつ共感の輪を広げることが出来ました。
チームの活動、それからその意義に共感してくれた職員の取り組みから、今ではたくさんの効果を実感しています。それはご利用者様の心理的、生理的、そして社会的な面にまで及びます。介護介入をしていく中でそういった変化を感じることは、やりがいに他なりません。自分たちが頑張る意味をご利用者様方が見せてくださっているのです。
現在は高齢者福祉という領域の中で動いていますが「地域のために」、「家族のように」という観点では、高齢者だけでなく、育ち盛りの子供や、障害を抱える人達のためにも私達が出来ること、やるべきことがあると考えています。そんなアップグレードが今後の挑戦です。

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