塩崎万規子
1959年生まれ、奈良県出身。追手門学院大学文学部インド文化学科卒業。2003年祥水園副園長就任。14年に理事長就任。16年、祥水園西village設立。翌年、FM五條を開局し、代表に就任。奈良県福祉施設経営者協議会理事。
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INTERVIEW

介護職の方なら誰しも「人の尊厳を最後まで守りたい」という思いがあるはずです。しかし多くの現場でその通りになっていないのは、業務という枠組みの中で動いているために「そこまでする必要ない」とか「余計なことをしたら怒られる」などと考えてしまうからではないでしょうか。私たちにとっては業務でも、利用者さんにとっては私たちも生活の一部、環境の一部なのです。そんな視点に立つことが必要だと思います。

三人の娘を育てる平凡な主婦に訪れた転機

塩崎万規子

男兄弟に囲まれて育ったので、おてんばな子供でした。僧侶であった祖父は高齢者介護施設「祥水園」の設立者。父も母も忙しかったので、いつも庫裡で兄弟と過ごしていたのを覚えています。なので、平凡な家庭のお母さんに憧れました。大学を卒業すると1年でお嫁に行きました。離婚や阪神淡路大震災などいろんなことがありましたが、再婚して3人の娘を育てる平凡な主婦生活を送っていました。
転機が訪れたのは46歳の時。祥水園の副園長にならないかと父から打診されたのです。夫は「これからは女性の時代。その感性を生かして働いてみたら」と言って、私の背中を押してくれました。子育ても落ち着いたところだったので軽い気持ちで始めてみたのですが、どっぷりはまってしまいました。戦禍をくぐり抜け必死で生き抜いてきた利用者さんたちの人生を思うと、愛しくてたまらない気持ちになりました。夫も「天職だね」と言ってくれました。
現場に関わるうちに、利用者さんの生活リズムが職員の都合で決められていることに疑問を感じました。朝4時に起こされ、決まった時間に排泄、入浴、食事。確かにそのほうが効率はいいのですが、利用者さんだって好きな時間に食事を楽しみ、時には夜更かしや朝寝坊もする、そんな思い思いの自由な過ごし方をしたいはずです。
理事長に就任すると、まずは建物を改築し、タイル貼りの冷たい壁から、木のぬくもりを感じられる無垢材に一新し、すべての部屋に太陽光が入るように設計してもらいました。機械浴やとろみ食も見直しました。利用者さんの立場を理解するためにスタッフ全員で体験してみたのですが、機械浴の怖さ、とろみ食の不味さにみんなショックを受け「利用者さんにこんな思いをさせていたなんて」と涙しました。とにかく利用者さん目線で考え、変えていったのです。

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「死は敗北」ではない

以前、私が夜勤をしていた時のこと。ある利用者さんが私の元へやってきて「話を聞いてほしい。あなたにしか言えない」と訴えてきたんです。私は他の利用者さんにかかりきりになっていました。「ごめんね、今夜は手が離せそうになくて。明日の朝一番に必ず部屋に行くから待っていてね」と伝えたのですが、その方とはそれが最後の会話になってしまいました。その晩に亡くなったのです。5分でもいい、あの時なぜ話を聞いてあげなかったのかと今でも自分を責めます。それ以来、自分がどんな状況でも、利用者さんの話には必ず耳を傾けますし、スタッフにもそうしてほしいと話しています。時には、職員と利用者さんが晩酌しながら語り合うこともあります。高齢者の方は、一人で死んでいくことを心細く感じています。その気持ちに最期まで寄り添うのが私たちの役割だと思っています。
また、10年ほど前に夫を病院で看取った経験から、闘病中や亡くなった後のケアで「もっとこうしてほしかった」と私が感じたことを実践したいと考え、ターミナル(終末期)ケアに注力しています。例えばターミナル期であっても決して悪くなる一方というわけではなく、少し調子のいい日もあるわけです。そんな時は、散歩や食事を楽しんだり入浴したりして、最後までご本人らしく好きなように過ごすためのお手伝いをします。それによって気力を取り戻し、ターミナル期を脱した事例もいくつもあります。
夫の主治医は「死は敗北」と仰いました。生きようと必死に頑張った夫を見てきた私には辛い言葉でした。遺体は、地下からひっそりと送り出されました。うちでは、利用者さんが亡くなると、職員とご家族みんなでお湯灌(ゆかん)(ご遺体を清めること)し、園葬を行い、最後は全員で拍手をして玄関からお見送りします。「良い人生でした。よく頑張りましたね。また会いましょう」と、これまでの人生とあの世への旅立ちを肯定するんです。お見送りを経験した職員は皆、感動で涙を流し「介護職でよかった」と言ってくれます。利用者さんのご家族も喜んでくださいますし、利用者さん亡き後も私たちに会いに来てくださることが何よりもうれしいですね。

介護職は、3K(辛い、きつい、臭い)と言われるほど、不人気な職業の一つです。確かに排泄支援や認知症高齢者への対応は心身ともに辛い時もありますが、それ以上の喜びや感動があることを私たちは知っています。介護職は日本の宝です。そんな宝たちと一緒に仕事ができることに、心から感謝しています。

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