島正博
1937年生まれ。和歌山県出身。56年、和歌山工業高校定時制を卒業。18歳の時、ゴム入り安全手袋編機を発明し特許を取得。62年、株式会社島精機製作所を設立。全自動フルファッション衿編機、コンピュータ制御横編機、無縫製横編機「ホールガーメント」などを開発。
http://www.shimaseiki.co.jp

INTERVIEW

今は豊かに暮らせる時代ですが、私が子供の頃は毎日生きていくだけで必死でした。栄養失調で亡くなる人もたくさんいました。 ぼんやりしていると食べ物にありつけないので、とにかく何かしないと生きていけなかったんです。空襲を受けた和歌山市内は焼け野原で何もなかったから、自分たちで一から作らないといけませんでした。 それなら、この世にない新しいものを作り出して多くの人に喜んでもらおう、と思ったのがすべての始まりです。

数々の発明、原点は「蜘蛛の巣」の原理

島正博

終戦を迎えた時、私は8歳。父が戦死し、祖父母や母、妹とともにバラックの家に身を寄せて生きていました。ある時、トタン窓の外にできた蜘蛛の巣を熱心に眺めていました。 巣の中心に蜘蛛がいます。掛かった獲物を移動して掴むと、また巣の中心に戻るのです。 中心にいれば全体を把握でき、獲物が巣のどこにかかってもすぐに捕えることができるのだと気付いて妙に感心したものです。 何か新しいことに挑む時は、まず原点に立って考えることが一番正しいのだと悟りました。

子供の頃から、いろんなものを発明しました。緩みにくいねじや泥棒を捕まえる装置、音の出ない下駄…。 蒸気機関車の車輪の動きからヒントを得てミシンの仕組みを思いついたこともあります。一人で駅まで行って機関車を観察し、駅員さんにあれこれ質問したものです。

手動の二重環かがりミシンを発明したのは16歳の時。手袋を編む内職をしていた母の負担を少しでも軽減できればと思ったのがきっかけです。 当時の手袋は、別々に編んだ手袋本体と手首の部分を一つに繋ぎ合わせる手間が必要でしたが、一度に全部をミシンで縫えたら楽ですよね。 蜘蛛の巣の原理で、原点を見つめた時に「針は本当に一本でいいのか」と気づき、二本の針を使うことで伸縮性に富んだ縫い方ができるようになりました。 24歳の時に起業して、全自動の手袋編機の開発に取り掛かりました。「無理に決まっている。 おまえのような若造に作れるならとっくに誰かが作っているはずだ」と周囲から言われましたが、「それなら絶対に私がやってやる」と思っていましたよ。 創業当初から図面を引くのはもちろんのこと、従業員と一緒に工場に立ち、油にまみれながら部品を加工し、組み立ててきました。

  • 島正博
  • 島正博

手袋を逆さにすると…

全自動手袋編機は成功し、事業も軌道に乗りましたが、手袋の市場規模は微々たるものなので、次の一手を考えなければいけません。 そこで思いついたのが、手袋編機を応用してセーターを編めるようにすること。手袋を逆さにして3本指にするとセーターと同じような形になるでしょう。 セーターなら世界中に市場を拡大できます。そして世界初の全自動フルファッション衿編機の開発に成功しました。

その後、開発したコンピュータ制御の横編機は国内のシェアの8割を占めるようになり、その頃から輸出にも着手しました。 最初、ヨーロッパでは「こちらには何百年もの歴史がある。どうして日本の機械を買う必要があるのか」と相手にされませんでしたが、 トライアル期間を設けて機械を使ってもらい、信用を得ることで少しずつシェアを広げていきました。 95年には、無縫製横編機ホールガーメントを開発して世界中の注目を集めました。従来、ニット製品を作る時は生地を裁断して縫い合わせていたのですが、 この編機は洋服の形に丸ごと立体的に編んでくれるので、工程と人件費、生地のロスなど生産コストを大幅に軽減することができます。

近年は衣類の生産拠点がコストの安い国へどんどん移行していますが、ホールガーメントの普及によって先進国での繊維産業の活性化にも貢献できます。 発明とは人のためになるものを創造することです。それは企業の力となり、それによって業界も発展します。消費者も質の良いニットドレスが安く買えたら嬉しいですよね。 結果的にみんなが幸せになれるということだと思います。

今後は開発ができる後継者を育てるために、少しずつヒントを与えながら教えているところです。 「自分にもできた」という自信を持てば、どんどん次につながっていくものです。 すごい能力を持ったコンピュータや知的ロボットが出てきていますが、それらを作り出したのは人ですから、人が自分の手を使ってそれ以上のものを創造することが大事だと思っています。 仕事を愛し、情熱を燃やし続けて新たな創造につなげてください。時間には限りがあります。若いみなさんが情熱を持って挑戦し、世界に貢献する日本を築いてくれることを期待しています。

ページの先頭へ