野田泰永
筑波大学医学専門学群卒業後、筑波大学大学付属病院、東京厚生年金病院など関東エリアの病院に勤務後、筑波大学医学研究科を卒業。1998年サクラクリニックを設立。著書『怖い血管死を防ぐ食事&トレーニングメソッド(幻冬舎)』、『血管死を防ぐ(マガジンハウス)』。
http://www.sakura-cl.com/

INTERVIEW

サクラクリニックは愛知県名古屋市において、高血圧病や、糖尿病などといった生活習慣病を中心に、最新医療を積極的に取り入れながら医療を行うクリニックです。自分の「健康余命」を見つめることの大切さを伝え、地域の人たちが明るく笑顔で健康に過ごせる時間がより長く続くよう、力になっていきたいと考えています。そのため、治療だけではなく、食事や運動といった生活改善へのアドバイスにも力を入れております。

心の通った地域医療で、幅広い健康サポートを

野田泰永

父が医師だったこともあり、幼い頃から医師という仕事は身近に感じておりました。しかし、高校生になり、自分が将来どんな仕事に就きたくて、そのためには大学で何を学べばいいのかということを改めて具体的に考えるようになりました。当時は、思春期特有の反発心もあり、医師ではない仕事に目を向けることもありました。海外への憧れもあったので、パイロットを目指そうと思ったことも。しかし、それでも最終的に医師という仕事を選んだのは「自分の努力次第で、必ずそれがスキルとして身となり、困っている人を助けることができる」ということに大きな意義を感じたからです。いつかは「この病気は先生じゃないと治せない」と言われるような存在になるまで研さんを積んでいきたいと考えるようになっていました。
地域医療に携わる医師というのは、血圧や血糖などの数値を見て、それに合わせた薬を処方して終わってしまうケースが多いと感じています。私は、薬を処方するだけの存在にはなりたくないという思いから、できるだけ患者様のそばに常に寄り添っていられるような医師でありたいと意識しています。健康寿命、平均寿命、平均余命という言葉はよく聞かれると思いますが「健康余命」という考え方はあまり認識されていません。いつも患者様に伝えているのは、残された生きる時間の中でも「心も体も健康でいられる時間」が最大限に長く続くように今を大切にしましょう、ということです。
院内では、診療だけではなく管理栄養士による食事へのアドバイスや、運動施設での筋力トレーニング指導など、健康をサポートする体制を充実させています。そして何よりも大切にしているのは、患者様との心の距離です。地域医療に携わる一人として、何か不安に感じることがあれば小さなことでも相談してもらいやすいように、日頃から会話の幅を広げ、患者様の暮らしや人となりに触れることができるような風土を作っております。医学部の学生が研修で来ることがあるのですが、皆さん驚かれるのが会話の話題の広さです。こうした取り組みが実り、80歳や90歳の方が毎日のようにクリニックに通いながら、手作りの雑貨などをお土産に届けてくださったりする姿を見ると、私の思いが伝わっているような気がしてうれしく感じます。

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知識の幅を広げ、命と健康に向き合う

私の医師としての考え方の大きな転機となったのは、40歳を過ぎたころに司法試験を受けようと8年間勉強をした時だと思います。きっかけは、ある出来事が起きて、医療界と法曹界との常識のギャップを深く感じたことでした。将来の日本の医療を考えると、医師が法律についてもっと知識を持っていなければいけないのではないかと私は考えるようになりました。私自身が勉強をすることで、医療界と法曹界をつなぐ翻訳者のような役割になりたいと考え、司法試験を目指したのです。もちろんクリニックを経営しながらの勉強ですので、それは大変なものでした。歩いているときも、運転しているときも、講義を録音したものを聞きながら、休日も寝る前も早朝も、勉強の日々でした。残念ながら、試験に合格することはできませんでしたが、この勉強により得られた考え方は非常に価値のあるものでした。
講義の中で語られた事例で最も印象的だったのは、輸血を禁ずる宗派の人への医療にまつわる事例でした。その方への治療方法としては、輸血を避けた方法も可能性としてゼロではなかったのですが、医師の判断で最終的には輸血を行なって処置をしたところ、患者の意思を反映しておらず医療者側の過失であると認定された判例です。我々医師というのは、患者様の命を救ってこそ価値があると考えてしまいますので、この事例には大きな衝撃を受けました。しかし法曹界の意識を持って考えれば、本人がどう人生の最期について考え、それまでの期間をどう形作るかは本人の選択であるべきということに行き着きます。命について、どうあるべきか正解を導き出すのは非常に難しいことですが、私の医師としての思いは「患者様が心から笑顔でいられるよう尽力したい」ということに尽きます。そのためにも、患者様一人一人と向き合い、10年後や20年後を見据えた健康サポートをしていきたいと思っています。
院内で患者様に伝えるだけでは限界がありますので、今後は、本を出版するなど情報発信の手法や場所も増やしていきたいと考えています。未来のために、今という時間があります。過去は変えることができなくても、未来はまだ変えることができるのです。患者様の意思を尊重しながら、その人の「健康余命」を全うしてもらえるよう、しつこいと言われるほどに真摯に、医師として向き合い続けていきたいと思っています。

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