李栄彩
1971年生まれ、韓国出身。2005年、慶應義塾大学理工学部卒業後、LGエレクトロニクスに入社。日本市場にモバイル製品を導入した。日本研究所MCチーム長、MCセールス統括部長、常務などを経て18年、代表取締役に就任。
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INTERVIEW

「仕事は学ぶものではなく見て盗むものだ」「相手の表面的な部分だけではなく背景まで理解し受け入れられるように、心の器を大きくしなさい」――来日したばかりの頃、アルバイト先の焼肉店でシェフに繰り返し言われていた言葉です。今まで、この2つのことを常に意識しながら仕事に取り組んできました。おかげで、物事を部分的に見るのではなく、全体を俯瞰(ふかん)して判断する能力が身についたと思います。現在地より一段上の視点で考えることを習慣づけると、自分のチームを取り巻く状況を見やすくなり、仕事をスムーズに運びやすくなります。

日本でのモバイル事業の生存をかけて

李栄彩

子供の頃は勉強よりも遊びに夢中でした。でも好奇心が強い子供で、いろんなことに興味や疑問が尽きませんでした。私に質問攻めにされた時の親の困ったような顔を今でもよく覚えています。韓国では民主化運動が活発化し、激動の時代でもありました。特に1980年の光州事件で故郷が戦場と化した時のことは忘れられません。自由に外を歩くこともままならず、被弾を防ぐために毎晩すべての窓に厚い布団をかけていた父の姿が生々しく思い出されます。
大学を休学して兵役に出向き、除隊後に少し時間があったので、当時日本で留学をしていた兄の勧めで私も日本へ渡りました。慶應義塾大学の理工学部で無線を勉強し、携帯電話にかかわる仕事をしたいと考えました。当時はカメラ付きの携帯電話が出るらしいと話題になっていましたね。移動通信が目まぐるしく発達していた時期だったので、これからどんな世の中になるのだろうとわくわくしていました。
就職先を悩んでいると、日本での事業を立ち上げたばかりのLGエレクトロニクスの携帯事業部からオファーが舞い込んできたのですぐに入社を決めました。理工系出身者の大半が研究開発部門に進む中、私が希望したのは事業企画部。始動したばかりの日本での事業を育てることに興味がありましたし、会社全体の仕組みを学べることに大きな魅力を感じたのです。今思えば、入社当初から自分で事業をやってみたいという夢は持っていたかもしれません。まさか本当に社長になれるとは思いませんでしたが。
入社していざ働き出すと、発表資料の作成からプレゼンテーション、社内外との折衝など、一人でいきなり何役もこなさなければならず、目が回りそうな毎日でした。1年目で10年分ぐらいの経験をさせていただいた気がします。
モバイル統括部長として来日した頃、日本でLGのモバイル事業は生きるか死ぬかの瀬戸際にありました。メンバーたちと「生存」を合言葉に、お客様のニーズを把握する事に注力し、本社と意見の相違がある時にも臆することなく日本の要望を主張しました。その結果、数年ぶりにフラグシップモデルの発売までこぎつけることができたのです。この時の無謀とも言える挑戦に臨んだ姿勢を評価されて、社長になることができたのではないかと思います。

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目指したのは自由な組織

社長に就任すると、まず社内全体で服装を自由化し、役職の呼称を廃止しました。社員たちが固定観念を捨てて自由な発想で活発な議論ができるような会社にするためには、日常の小さなな習慣から変えていくことが大切だと考えたからです。
同じ会社員でも、指示されたことをこなすサラリーマンタイプと、やるべき事を自ら探して実行する事業家タイプがいます。給与の額面が同じだとしても、取り組み方ひとつで感じられるやりがいは全然違うのではないでしょうか。私は社員一人ひとりに事業家の意識を持っていてほしいと思っています。世の中の価値観やニーズが刻々と変化していく中、指示を待っているだけの受け身な組織であれば淘汰されるのは時間の問題です。
家の中のことを網羅しているのが総合家電メーカーの強みだと思います。そして私たちが追求しているのは、空間をデザインし、生活を楽しく豊かにする家電製品です。ただ便利なだけではなく、使う人に感動や新しい価値をもたらす家電製品を作り続けたいですね。コロナ禍の影響で、自宅で過ごす時間が増えている今こそ、私たちの製品を通じて創造的な時間を過ごす喜びをお客様にも感じて頂きたいですね。
LGエレクトロニクス・ジャパンが誕生して40年になります。いつも日本のお客様を思い、日本のお客様の好みに合わせてカスタマイズした製品を手掛けていますが、まだ私たちの片思いだなと感じています。私たちの思いと製品を、もっと日本のお客様に届けたいです。
「才能は特別な能力ではなく、自分を信じられることだ」という言葉にとても共感します。私も若い頃は自分に何ができるのか悩みましたが、そんな時こそ自分を信じるべきです。大切なのは、ゴールを決めるかどうかより、ゴールまで懸命に走ったかどうかではないでしょうか。若者の皆さんも、自分を信じて頑張りましょう。

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