熊谷英政
岐阜県中津川市出身。高校卒業後、家業を手伝いながら、進学を目指す。その後、金沢工業大学電気工学科に入学し、長期休暇には家業を手伝いながら勉学に励む。大学卒業後、2年ほど金型製作会社へ就職。その後、2001年に株式会社熊谷製作所へ入社。金型設計、製作管理などの実務を経て、2018年、代表取締役に就任。
https://kumas.co.jp/

INTERVIEW

クマガイは、自動車関係部品のプレス金型の設計及び製造を行なっている会社です。1970年の創業以来、40年以上かけて培った技術と生産体制でお客様から評価を得ています。創業者である父が長年かけて築き上げてきた会社を引き継いだ私が、今一番大切に考えていることは「社員が協力し合い、良いものを作る」という理念です。誰でも、得意と苦手の両方を抱えています。一人ひとりが得意を伸ばすことに努め、それを持ち寄れば、会社として苦手なものはなくなるはず。その結果、良いものを作り続けることができると信じています。

会社の「働く環境」を見つめ直す

熊谷英政

幼い頃から、父の会社をいずれ継ぐということは意識していました。子供が立ち入るには危ないということもあり、会社の中にも入ったことがなかったのですが、高校を卒業し、アルバイト雇用で父の会社で働くようになった時、普段とは違う父の厳しい姿を見て「働くことの厳しさ」を感じたものでした。大学を卒業した後は、父の勧めで、協力いただいている同業のメーカー企業で修行をさせていただきました。そこでは、金型の設計業務のサポートや補助などをしながら、基礎を学ばせていただいたのですが、のちの私に大きな影響を与えたのが、その会社の従業員が働く環境の素晴らしさでした。

時間内に仕事を終え、休日をきちんととることや、社員旅行・社員同士の交流もゆとりを持って実行できている点など、やるべきことはやるべき時に効率よく行い、クオリティーもきちんと保つということが組織として成り立っているところに感銘を受けました。同業であっても、働き方がこれだけ違う組織もある。そういう働き方もできる、ということに気づきを得たのです。

2年ほど経ったところで、父から声をかけられクマガイに戻り入社いたしました。その頃は、会社にマンパワーが足りていなかったこともあり、経験の浅い私でもやらなければならないことがたくさんありました。それまでやったことのなかった、CADを使った金型の設計をやり始め、失敗を繰り返しては、仕事を覚えようと必死になっていました。今思えば、失敗の経験をしながらも担当させてもらえたことは非常にありがたいことでしたが、設計というのは川上の業務であり、失敗することで多くの方に迷惑をかけてきました。それでも周りに支えられ、仕事の楽しさにやりがいを感じていました。

入社して2年ほど経った頃、現場を手伝っていて、2日間徹夜で仕事をしたことがありました。1日徹夜をすることはそれまでもありましたが、2日間は初めての経験。それを終えた時には「時間内に上手くやりきれないこと」への悔しさに涙が出ました。一緒にやっていた先輩は「よくあることだよ」と声をかけてはくれましたが「自分がこの環境をなんとかしなくてはいけない」と心に決めた瞬間でした。さらに、リーマンショック直後、またひとつ、労働環境の改革につながる学びを得た転機がありました。それが中国への進出です。

  • 熊谷英政
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「得意」を磨き、楽しく働く。

国内の仕事が減ってきたことと、社内の設計者の高齢化による新しい設計者確保の必要性から、中国に設計事務所を出すというチャレンジをしました。そこで私は事務所の責任者を担っており、2年目頃から日本国内の売り上げを倍増させることに成功しました。売り上げの側面だけ見れば大成功なのですが、社内は大変な状況でした。急に伸びた売り上げに対し、国内の社員の人数を増やしたわけではなかったため、キャパオーバーとなり、業務量がパンクしてしまったのです。スタッフはみなギリギリまで頑張ってくれましたが、かなり負担をかけてしまったことを深く反省しました。リーマンショックの経験から「仕事がなくなることへの恐怖心」が強くなり、仕事があるうちに受けておきたいという気持ちから欲張ってしまっていたのです。

仕事があり、売り上げが上がることはうれしいことですが、やり過ぎれば、そこに楽しさはなくなり、苦痛やストレスが生まれてしまいます。ネガティブな気持ちで出来上がったものは、クオリティーもどこか落ちてしまうような気がするのです。みんなで協力して楽しい気持ちで作れば、出来上がったものも良い仕上がりになるはず。この考え方をもとに、再スタートをしました。

2018年に社長就任し、想像以上のプレッシャーを感じるなか「会社を引っ張っていく立場として、ブレない目的意識の軸を見出したい」と半年間考えつづけました。そこで出た答えが「一人ひとりが楽しみながら能力を磨き、その能力が集まることで組織として成長したい。」という軸です。朝礼でも毎週のように「みんなで協力して良い仕事をしましょう」と社員に伝えています。自分が得意とすることを主体的にとことん伸ばし、自分の苦手とすることは、それを得意とする人に協力してもらって、一つのものを作り上げるというのが、最もストレスなく働けるコツ。会社の環境を変えたいと思い始めてから20年かかりましたが、今ではどこよりも笑顔や笑い声が溢れる会社になっていると思っています。時代の変化は激しく、5年先、10年先がどんな時代にあるのかは予測が難しくなっています。どんな時代であっても、組織が良い状態であり、安定的に良い商品を納品することでニーズに応え続けていけることが何よりの目標です。私は、自分を黒子だと思っています。みんなを引っ張っていく、というよりも、みんなが伸び伸びと能力を磨けるような環境作りを、これからも努力し続けていきたいと思っています。

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