D&I特別対談 D&Iで挑むイノベーション創出
女性の力で社会的課題を解決

 2018年度からスタートした中期経営計画で、価値創造を支える仕組みとして、「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」戦略を掲げたMS&ADインシュアランスグループホールディングス。「レジリエント(強靭)でサステナブルな社会」の実現を目指す同社は、イノベーションの源泉となる多様な人財の活躍を推進するため、D&Iに取り組んでいる。その理念の浸透に向け同社は何を重視し、推進してきたのか。また社内で感じられた意識変化の手ごたえ、さらに企業がダイバーシティーを推進する上で大切なこととは──。柄澤康喜会長と同社の社外取締役を務める昭和女子大学の坂東眞理子理事長・総長が語り合った。

柄澤氏と坂東氏の写真。「人生は想定外の連続。経験を積み失敗から学べ(坂東氏)」「女性が一歩を踏み出せる風土を。多様なリーダーの育成推進(柄澤氏)」

MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社 取締役会長 柄澤康喜氏(左)

1975年住友海上火災保険(現・三井住友海上火災保険)に入社。執行役員経営企画部長、常務、専務を経て、2010年に代表取締役社長に就任。14年6月よりMS&ADインシュアランスグループホールディングス取締役社長 グループCEOを経て、20年6月に取締役会長に。経団連においてはダイバーシティ推進委員会の委員長を務める。

昭和女子大学 理事長・総長 坂東眞理子氏(右)

1969年東京大学卒、総理府(現内閣府)入省。内閣総理大臣官房参事官、内閣府の初代男女共同参画局長などを経て、07年に昭和女子大学長に就任。14年理事長に就任し、16年から総長を兼務。『女性の品格』ほか著書多数。富山県出身。

 ──世界経済フォーラムが公表している「ジェンダーギャップ指数」で日本は121位と世界で後れを取っています。

 柄澤 人財の多様化に向けて政府や企業の取り組みが進んでいますが、スピード感が十分でないと感じます。女性の就業率は米国を超えていますが、非正規雇用の割合が高く、給与水準の向上が問題です。日本経済が成長を続けるには女性活躍を中心としたダイバーシティーによるイノベーションの創出が欠かせません。

 坂東 その通りだと思います。様々な分野で働く女性の数は増えており、労働力率は米国よりも高い状態ですが、問題はその質です。影響力のあるポジションに女性がさらに進出する必要があります。ダイバーシティーを通じたイノベーションは「そういう考え方があるのか」と相手に敬意があって初めて触発されるもの。異なる価値観を尊重する社会を築くことが大切ですね。

 柄澤 当社でも2人の女性社外取締役の知見を頼っています。これまでの経験が異なる方がボードメンバー(意思決定層)にいることで意思決定の厚みを増すことが期待できます。社外取締役に案件を説明するために社内に緊張感が生まれることも大切です。

 ──2018年度からの中期経営計画でD&Iを掲げました。

 柄澤 当社が目指すのは、SDGs(持続可能な開発目標)を道標としてCSV(共通価値の創造)の考え方に基づいて社会的課題を解決し、「レジリエントでサステナブルな社会」を実現すること。そしてその社会的課題と向き合うにはやはりダイバーシティーの感性とイノベーションが欠かせません。CSVの取り組みは企業の持続的成長性につながります。

 坂東 ダイバーシティーは経済活動に密接に結び付いていると感じます。保険は人々の多様なニーズに応えていくものですが、そのために企業が様々な社会の課題に対応する感性やアンテナを持っていることはとても大切だと思います。

 柄澤 当社はグループ社員4万人の約半数が女性です。ボードメンバーも同比率になるのが自然だと思っています。坂東さんには社外取締役として経営に関与してもらっているほか、社内セミナーの講師など多くのサポートをしていただいています。

 坂東 セミナーに参加されている女性は非常に積極的ですね。彼女らの活躍が他の女性を触発し、互いの存在が刺激になっていると感じます。

 柄澤 CSVの考え方や、ビジネスとSDGsの関係性への理解はグループ内に相当浸透してきました。当社グループは国内外の多様な会社が集まってできており、多様性を生かしながら一体化していくことが必要です。その指針となるのがCSV経営の考え方で、ステークホルダー(利害関係者)にも理解を得られます。

 ──D&Iを進める上でのポイントは。

 坂東 自己選択の尊重が大切です。色々な働き方の選択肢があることで、女性は能力を発揮しやすくなります。これは女性に限ったことでなく男性にとっても必要ですし、今回の新型コロナウイルスの影響で広がったリモートワークが今後どういった効果をもたらすかに注目しています。

 柄澤 フレキシビリティー(柔軟性)を持った労働環境の整備は重要です。育児休業中の女性社員が復帰した際の仕事に対する評価など、人事制度の整備も必要です。それに加えてオープンなコミュニケーション。経営情報などは開示することによるマイナスよりも、開示することによるプラスが圧倒的に多いと思います。

 またD&Iをさらに進めていくためには、企業として女性が一歩踏み出せる風土や多様なリーダー像を作ることが必要だと考えます。女性にも自分の価値観をしっかり持っていただくこと、そして本質を見抜く力を身に付けてほしい。さらには柔軟な生き方、つまり自分のワークライフをデザインする力を養っていただきたい。そういった女性が現れるとダイバーシティーがより生きてきます。

 坂東 そのためには失敗から学ぶことです。「フェイルファースト」という言葉があります。若いうちに色々な経験をして、そこから立ち上がること。人生は想定外の連続です。Never waste a good crisis──。失敗から学ぶ、経験を積んでいくことが必要だと思います。

 コロナ禍を受けて働き方は確実に変わりました。SDGsには「誰一人取り残さない」という理念がありますが、考え方も安全や命の尊重に改めて焦点が当たっています。置かれた環境によって様々な差が現れる中で、保険は新しい社会的課題の解決の手段になると期待しています。

※MS&ADインシュアランスグループでは、一人ひとりを大切にするという想いをこめて、「人材」ではなく「人財」と表記しています。

MS&ADが進めるD&Iの取り組みは公式WEBサイトで公開中
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