成田国際空港 代表取締役副社長 長田 太氏 × 国土交通省 観光庁長官 田端 浩氏 × NEC 取締役 執行役員副社長 石黒 憲彦氏成田国際空港 代表取締役副社長 長田 太氏 × 国土交通省 観光庁長官 田端 浩氏 × NEC 取締役 執行役員副社長 石黒 憲彦氏
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成田発 顔情報だけで海外旅行?
世界に先駆け最大規模の
FAST TRAVEL実現

空港内の動線を一気通貫で高度化することにより手続きを迅速化するFAST TRAVELの実現に向けて、成田国際空港(以下、成田空港)では2020年春、NECの世界一の顔認証技術を活用したOne IDがスタートする。成田空港では、最初に自動チェックイン機で顔の撮影を行い、パスポートと搭乗券の情報を登録すると、手荷物預け入れから、保安検査、搭乗ゲートを顔の情報だけで通過できる仕組みを導入予定。これだけの大きな規模で、歩きながらの本人確認を実現するのは、世界の空港でも初めての試みとなる。

観光先進国を目指す日本において、FAST TRAVELはどのように寄与するのか、国土交通省 観光庁長官 田端 浩氏、成田国際空港(株) 代表取締役副社長 長田 太氏、NEC 石黒 憲彦 取締役執行役員副社長が、観光ビジョン、FAST TRAVEL、One ID、空港からまちなかといったキーワードで語り合った。

※米国国立標準技術研究所(NIST)主催のベンチマークテストにおいて、NECの顔認証は認証性能、検索性能、検索速度において4回連続で世界第一位評価を獲得。99%を超える照合精度があること、照合にかかる時間がわずか0.3秒程度であることなどが評価された。

FAST TRAVELで加速する
日本の観光戦略

政府のこれまでの観光に関する取り組みを教えてください。

田端 浩 氏

国土交通省
観光庁長官
田端 浩(たばた ひろし)

愛知県出身
1981年4月 運輸省(現・国土交通省)入省。
国交省総合政策局観光部旅行振興課長、以降自動車交通局旅客課長、航空局飛行場部管理課長、大臣官房人事課長、観光庁観光地域振興部長、鉄道局次長、自動車局長、大臣官房長、国土交通審議官などを歴任。
2018年7月より現職。

田端浩氏(以下、田端) 政府は、観光を成長戦略の柱、地方創生の切り札として位置づけており、ビザの戦略的緩和や消費税免税店制度の拡充をはじめとする諸施策を、政府一丸となって取り組んでいるところです。この結果、昨年の訪日外国人旅行者数は、3,119万人、訪日外国人旅行消費額は4兆5,189億円といずれも過去最高となりました。

 今から3年前の2016年3月に、内閣総理大臣を議長とする「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」において、2020年に訪日外国人旅行者数を4,000万人、訪日外国人旅行消費額を8兆円とし、さらには2030年にそれぞれを6,000万人、15兆円とすることなどの目標と、その実現のための施策を、「明日の日本を支える観光ビジョン」としてとりまとめており、現在はこの「観光ビジョン」に基づき、取り組みを進めているところです。

目標の達成に向けた戦略をお尋ねします。

田端 具体的には、「観光ビジョン」において掲げられた「観光資源の魅力を極め、地方創生の礎に」「観光産業を革新し、国際競争力を高め、我が国の基幹産業に」「すべての旅行者が、ストレスなく快適に観光を満喫できる環境に」という3つの視点を柱とした観光施策を、新たに創設された国際観光旅客税による税収なども活用しながら、政府一丸、官民一体となって展開することで、「観光ビジョン」に掲げた目標を達成し、「観光先進国」を実現してまいりたいと考えております。

観光ビジョンの視点の1つである、ストレスなく快適に観光を満喫できる環境の整備を進めることは重要だと思いますが、具体的にはどのような取り組みを行うのでしょうか。

田端 「観光ビジョン」に掲げる目標の達成に向けては、我が国への入国から滞在中、そして出国に至るまでストレスフリーで快適に旅行できる環境の整備を推進することで、訪日外国人旅行者の満足度を向上させていくことが重要であると考えております。それによりリピーターの増加や、口コミなどを通じた更なる誘客に繋がっていくことを期待しております。

 観光庁で行ったアンケート調査によると、「旅行中に困ったこと」として、「スタッフとのコミュニケーション」や「無料公衆無線LAN環境」「公共交通の利用」の順に回答が多いものの、「入国手続き」も一定数挙げられており、旅行の最初と最後に利用する空港において、スムーズでストレスフリーな出入国手続きを実現することは国の印象を左右しかねない重要な課題であると認識しています。

 そのため、2019年度においては、国際観光旅客税による税収も活用して、空路の利用に係る一気通貫での円滑化などを通じた旅客満足度の向上を目指すFAST TRAVELについて本格的な予算が組まれたところです。

 FAST TRAVELについては、IATA(国際航空運送協会)の空港オペレーションの指標であるレベルオブサービスも踏まえ、世界水準の空港サービスを実現すべく、関係省庁・機関が一丸となり、成田空港などの空港において出発と到着動線での手続き時間の目標を立て、その達成に向けて各空港で取り組みを開始しているものと承知しております。2019年度予算においては、こうした取り組みをしっかり支援してまいります。

One IDで煩雑な手続きがスムーズに
セキュリティー対策などにも有効

成田空港では顔認証を用いた「One ID」という新しい搭乗手続きがスタートします。FAST TRAVEL実現にどのような効力を発揮するのでしょうか?

長田 太 氏

成田国際空港
代表取締役副社長
長田 太(おさだ ふとし)

大阪府出身
1978年4月 運輸省(現・国土交通省)入省。
2011年9月 国土交通省航空局長
2012年9月 内閣官房総合海洋政策本部事務局長
2014年7月 国土交通省退職
同年10月 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)顧問
2015年6月 成田国際空港(株)専務取締役
2017年6月 同社代表取締役副社長 現在に至る。

長田太氏(以下、長田) ストレスフリーな旅行を実現するFAST TRAVELは、空港から出発するまでの手続きの時間を短縮しようという目標を立てています。国内線は荷物が少ないので、それほど煩雑さを感じなくても済むかもしれませんが、国際線の場合は荷物を預ける旅行者がほとんどです。現状では、チェックインの時から長い列に並び、搭乗ゲートを通過するまで度々パスポートと搭乗券を示さなければならず、せっかく日本を訪れてくれた旅行者にストレスを与えてしまっています。

行列が解消されるのでしょうか?

長田 成田空港で行うOne IDでは、チェックインの手続きの時に、パスポートと搭乗情報を顔の情報と紐づけます。顔情報登録後、手荷物預け入れ、保安検査では搭乗券やパスポートを提示することなく、顔情報だけで通過できるようになります。出国審査手続きを別途済ませた後は、搭乗ゲートで、再びカメラが顔情報を認識し、そのまま通過できる仕組みです。搭乗までの煩わしい手続きが軽減され、待ち時間が短縮されることが期待できます。さらに、最先端の顔認証システムを活用することで、それぞれの手続きにおける本人確認の厳格性を維持し、テロの未然防止などのセキュリティー対策についても一層万全を期すことができるようになるはずです。

 また、FAST TRAVELではカウンターでスタッフが行なっていた手荷物の預け入れを、旅行者自身が行うこともできるようになります。成田空港は2年前から、実験的に「自動手荷物預け機」の運用を開始しています。2020年には数十台以上の自動手荷物預け機を設置し、本格的にセルフチェックインを進めていく予定です。

顔認証技術は、将来的に空港の混雑緩和にも効果があるのでしょうか?

長田 空港内で歩いている人の顔を認識できると、空港の混雑緩和にも大きな効果を発揮できるようになると期待しています。例えば、旅客の動きを把握することができれば、空港会社、出入国在留管理庁や航空会社などの関係者が、混雑状況の情報も把握できるようになり、結果、混雑の緩和に役立てることができます。また、旅行者が時間通りに搭乗できていない時も、時間に遅れている旅行者がどこにいるのかの情報も把握することが可能となり、フライトのスケジュール管理にも役立つはずです。個人情報保護上の課題がクリアできれば、将来的にこうした対応も可能になると考えています。

4回連続世界一の顔認証技術
まちの「おもてなし」にも貢献

成田空港のOne IDにはNECの顔認証技術が採用されます。技術開発の経緯や今後の展開をお聞かせください。

石黒 憲彦 氏

NEC
取締役 執行役員副社長
石黒 憲彦(いしぐろ のりひこ)

北海道出身
1980年 通商産業省(現・経済産業省)入省。
経済産業省 商務情報政策局長、経済産業審議官などを経て、
2015年10月 経済産業省顧問退任。
2016年10月 NEC執行役員副社長就任。
2018年6月 取締役 執行役員副社長就任。現在に至る。

石黒憲彦氏(以下、石黒) NECは1963年に画像認識技術の開発を始め、今日までの約60年間、技術を磨き続けてきました。最初は、郵便物の手書きの郵便番号をどう読み取り、データ化するか、という文字パターン認識技術を確立し、1989年から、この技術を応用した顔認証技術の研究開発をスタートさせました。当時、すでに世界各国で生体認証の研究が行われていましたが、指紋認証は実現できても顔認証技術の実用化は難しいと考えられていました。NECは、画像から顔領域を検出・抽出する「顔検出技術」と、抽出した顔画像が誰であるかを判別する「顔照合技術」を組み合わせる独自の技術を確立し、高度な顔認証技術を実現しています。

 2000年代に入り、世界的にテロ事件が頻発し、パブリックセーフティが注目されるなか、顔認証技術の精度をさらに高める技術を開発しました。NECの顔認証技術は、入国管理システムの入札条件にもなっている世界的に権威あるベンチマークテストである米NIST(アメリカ国立標準技術研究所)の技術評価プログラムで4回連続世界一となるなど高い評価を受けています。

NECの顔認証技術はどこで使われているのですか?

石黒 当社の顔認証技術を活用したシステムは、既にいくつかの国際空港で採用されています。例えば、アメリカ合衆国国土安全保障省では、入国管理の時に、当社の顔認証技術を使用しており、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港や首都ワシントンD.C.のワシントン・ダレス国際空港でも同じく入国管理時に活用されています。

観光分野への最先端技術の活用の可能性をお聞かせください。

田端 浩 氏

田端 FAST TRAVEL以外の観光分野においても、最先端技術によるイノベーションの成果を積極的に取り入れていくことで、生産性を向上させつつ、また、サービスの質やセキュリティー水準などを下げることなく、訪日外国人旅行者のニーズに適切に対応していくことが可能だと考えています。

 例えば、外国人旅行者の改善ニーズが最も強い多言語コミュニケーションの分野においては、近年は多言語翻訳システムや携帯型翻訳機器などの性能が目覚ましい改善を見せており、これらを積極的に導入することで、言語の壁を効果的に引き下げていくことができます。

 また、「まちあるき」の満足度向上などを目指すため、政府としては、2019年度の予算で、多言語対応、無料Wi-Fi、キャッシュレス決済などについての面的な取り組みを集中的に支援する予定です。今後とも、世界最高水準の旅行環境の実現に向け、イノベーションの成果を積極的に取り入れてまいりたいと考えております。

One IDをまちなかに広げていくために、民間企業は何ができるのでしょうか? 

長田 旅行者は空港に到着してから、まちに出るために鉄道やバスなどを利用します。現状では、空港でのFAST TRAVELを実現しても、鉄道やバスのチケットを入手するために長い行列に並ぶこともあります。One IDをほかの交通機関にも広げれば、行列に並ぶ必要もなくなり、さらに利便性が高まることに期待しています。

 空港内でのOne IDの利便性を実感してもらい、旅中、旅後のさまざまな観光シーンで感動を味わっていただきたいです。気に入ったレストランの新作レシピや、観光地の季節の情報など、さまざまな有益な情報を提供し、「日本での感動をもう一度体験したい」と思っていただけるリピーターを増やすことが大事です。

石黒 憲彦 氏

石黒 今年、和歌山県の南紀白浜空港を運営する南紀白浜エアポートの周辺地域と連携し、「IoTおもてなしサービス」の実証実験を行っています。顔認証技術を活用し、旅行者やビジネス客の満足度やサービスの向上を実現する目的です。宿泊施設のフロント業務や、ホテルの客室の解錠、さらに商業施設でのショッピングや飲食店利用時の決済などが顔認証で行えるようにします。将来的には、日本の各地の空港や周辺の都市に広げたいと考えています。

 顔認証技術が広まることで、多くの方が最も懸念されているのが、「プライバシー保護」の問題ではないでしょうか。必要以上に情報を取らないことや顔の情報を残さないことを徹底し、セキュリティーの確保に万全を期すことがICT企業の責任と考えております。NECは、AIやIoTを発展させるにあたり、プライバシー保護の観点も含めて、秘密計算などのセキュリティー技術の向上にも取り組んでいます。

【動画】顔認証を活用したおもてなしによる地域活性化~南紀白浜 便利で快適な旅行体験~

税関~出入国管理~検疫所までを含めた
プラットフォームづくりを
グローバル展開の枠組み作りも視野に

FAST TRAVEL実現へ向けて国に対する要望をお聞かせください。

長田 太 氏

長田 民間企業だけでできることと、国の協力がないとできないことがあります。税関(Customs)、出入国管理(Immigration)、検疫所(Quarantine)を担うCIQのエリアのOne IDでのスムーズな通過を将来的に実現するためには、税関や出入国在留管理庁の間での協力が欠かせません。また、国境をまたいだOne IDを実現するには、相手国の協力が不可欠で、国際的な取り組みや各国間の交渉などについても、政府の協力が必要です。

 これらの実現のためには、空港を利用している旅行者のさまざまなデータをどう連携をするかが重要になります。

石黒 国をまたいだOne IDの実現には、NECも参加している「世界経済フォーラム」のFAST TRAVEL部会において、クロスボーダーの議論も行われており、国際標準化の観点からも色々と提案していきたいです。

 自宅からスマートフォンなどで航空券を手配する方法は浸透していますが、その際に、入管当局などに、自分の情報を照会し、危険性の低い旅行者である認証を得ておくことができれば、「自宅から始まるFAST TRAVEL」が可能になります。政府の協力をいただければ、技術的には早期の実現も可能です。

長田 現に、日米間でプレクリアランスの検討が進んでいます。これは、例えば、成田空港で米国行きの飛行機(直行便に限る)に搭乗する前に、米国入国時に行うCIQ手続きを日本にいるアメリカの職員が事前に済ませることができる制度で、米国に着いた時は行列に並ばずに国内用の入国ゲートに進むことができます。職員が来日する費用を旅行者が負担すると、一人あたり4~5,000円になりますが、これらの手続きを電子化することが出来れば、費用負担も抑えられます。

東京2020に向けてさらに加速する
FAST TRAVELの社会実装

最後に、政府の民間事業者への期待を教えてください

田端 各社におかれては、FAST TRAVELの実現に向け、引き続き取り組みを推進していただくとともに、世界最高水準の快適な旅行環境の実現や、魅力的な観光地域づくりのため、高い技術力を活かした移動のシームレス化や地域経済の活性化に繋がる新しいアイデアを、どんどんご提案いただければと思います。政府としても、これらの技術の社会実装に向け、制度面など含めできる限り後押しをしてまいりたいと考えております。

 今年はラグビーワールドカップ、来年は東京オリンピック・パラリンピック競技大会と、全世界から多くの訪日旅客が見込まれるイベントを目前に控えており、より一層の受入体制の充実などが急務です。まだまだ課題もありますが、政府と民間で協力をして、共に高みを目指し、「観光先進国」を少しでも早く実現出来ればと思います。これからもよろしくお願いいたします。

左より石黒 憲彦 氏、田端 浩 氏、長田 太 氏

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