NEC 代表取締役 執行役員社長 兼 CEO 新野 隆 氏NEC 代表取締役 執行役員社長 兼 CEO 新野 隆 氏
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加速するデジタルトランスフォーメーション~NECが目指すサステナブルな社会~

社会全体の「デジタル化」、いわゆるデジタルトランスフォーメーションが着々と進んでいる。IoTで様々なモノやビジネスがつながり、AI(人工知能)がビッグデータを分析して産業や生活に新しい価値をもたらし、利便性を高める──。その動きの推進力となっているのがICT企業だ。NECの代表取締役執行役員社長兼CEOの新野隆氏が、デジタルトランスフォーメーションの現状と、NECがそこで果たしうる役割について語った。

データ活用がデジタルトランスフォーメーションの鍵

── 現在進行しているデジタルトランスフォーメーションをどう見ていますか。

NEC 代表取締役 執行役員社長 兼 CEO 新野 隆 氏

NEC
代表取締役 執行役員社長 兼 CEO
新野 隆(にいの たかし)

新野隆(以下、新野) デジタル化の波は暮らしや社会を便利なものにすると同時に、企業にとっては新たなビジネスチャンスをもたらし、産業構造を変えるほどの大きなインパクトを持つと考えています。このような変化を「デジタルトランスフォーメーション」という名称でトレンドとして語られることが多いですが、NECはそれを単なるトレンドとしてではなく、産業構造を変えるほどのインパクトを与えるものと捉え、「デジタル産業革命」と呼んでいます。さらに、AIやIoTによって世の中が変わり、新たな価値が生まれていくと、どういった社会が拓(ひら)けていくのか、どういった社会が必要なのか。そのキーワードのひとつが「サステナビリティ(持続可能性)」だと考えています。

 例えば、世界では人口の増加によって、食糧難が深刻な問題となりつつあります。しかし一方では、多くの食料が無駄に廃棄されているという現実があります。このようなアンバランスさをどう解決していけばいいか。そこで力を発揮するのがICTをはじめとするテクノロジーです。食料を生産し、加工し、出荷し、運搬し、販売する。その一連のサプライチェーンをIoTなどの仕組みによってつなぐことができれば、供給と需要のマッチングが可能になり、食料のロスを防ぐことができるようになります。また、流通の効率も格段に向上するでしょう。そのような仕組みづくりが社会のサステナビリティにつながる。そう私は考えています。

 もちろん、食料だけではありません。工場などの生産現場から消費者までのサプライチェーンをつなげる仕組みなどができれば、社会に新しい価値をもたらすことができます。それがデジタルトランスフォーメーションの大きな可能性であると思います。

図1 NECが取り組む7つの社会価値創造テーマ

図1 NECが取り組む7つの社会価値創造テーマ

図1 NECが取り組む7つの社会価値創造テーマ

図1 NECが取り組む7つの社会価値創造テーマ

 NECは2014年に「7つの社会価値創造テーマ」を策定し、社会ソリューション事業を通じて「地球との共生」「安全・安心な都市」「産業とICTの新結合」「多様な働き方」といった社会価値をお客さまと共に創造することを目指してきています。世界的な動きを見ても、国連が2015年に地球規模の社会課題の解決に向けて17のSDGs(2030年に向けた持続的開発目標 Sustainable Development Goals)を定めていますが、こういった社会課題の解決、サステナビリティの実現にはデジタルトランスフォーメーションが不可欠であり、そこにICTが貢献できることは非常に沢山あると考えています。

── 社会全体が変革していく中で、旗振り役としてのNECの具体的な取り組みについてお聞かせください。

新野 デジタルトランスフォーメーションの鍵を握るのがデータです。信頼のおける良質なデータをできるだけ多く集め、分析し、それを新しい価値に転換していくことが大切です。しかし、それを個々の企業が進めるだけでは限界があります。散在し、かつ日々生み出される膨大なデータを集約していくには、社会の制度を整える必要があり、「データは社会的な資産である」という意識を広く醸成していくことが重要です。そういった社会の流れを創り出しリードすることを目指して、私たちはこの4月に「データ流通戦略室」を新設しました。社外の有識者などとも積極的な連携を図りながら、法制度、倫理、消費者意識など、総合的な観点から次世代のデータ活用を考察し、社会に向けて提言していきたいと考えています。

 もう一つ、ICTを駆使して生産やサプライチェーンの革新を目指す「ものづくり共創プログラム」も重要な取り組みです。このプログラムには4つのコンセプトがあります。NECグループの専門スタッフがサプライチェーン改革を支援する「匠」、業務プロセス革新とITを連携させて一体改革を推進する「繋」、NECのものづくりに関する資産を生かして改革を実践する「活」、お客さまと共に考え、共に価値を生み出す「共」です。現在、メーカーをはじめとする1000社以上のお客さまと共にこのプログラムを進め、新しい生産の仕組みやソリューションを生み出しています。

顔認証技術を社会インフラに育てていきたい

── デジタルトランスフォーメーションの推進に向けて発揮されるNECの強みには、どのようなものがありますか。

図2 NECの最先端AI技術群「NEC the WISE」

図2 NECの最先端AI技術群「NEC the WISE」

図3 AIを活用したNECの高信頼かつ統合されたICTプラットフォーム

図3 AIを活用したNECの高信頼かつ統合されたICTプラットフォーム

図4 NECの顔認証技術開発の取り組み

図4 NECの顔認証技術開発の取り組み

新野 NECは最先端のAI技術群「NEC the WISE」により実世界の大量のデータを「見える化」し、さらに、「分析」や「対処」することによってお客さまに新たな価値を提供しています。

図2 NECの最先端AI技術群「NEC the WISE」

図2 NECの最先端AI技術群「NEC the WISE」

 この価値提供プロセスそれぞれにNo.1/Only1技術を保有しており、お客さまの課題やニーズに合わせて組み合わせてご提供し、高信頼かつ統合されたICTプラットフォーム(コンピューティング、ネットワーキング、セキュリティ)と共に価値提供を確かなものにしています。

図3 AIを活用したNECの高信頼かつ統合されたICTプラットフォーム

図3 AIを活用したNECの高信頼かつ統合されたICTプラットフォーム

 強みが発揮されている代表的なソリューションがセンサやカメラとAIの組み合わせによる「顔認証」です。これは、事前に登録してある顔写真とカメラで撮影した顔写真を自動的に照合して本人確認を行うテクノロジーです。NECは、ITやナノサイエンスの客観的評価を行う米国国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology)が実施した静止画による顔認証のベンチマークテストで過去3回連続1位を獲得しています。さらにこの3月には、動画による顔認証でも照合精度99.2%という結果で他社を大きく引き離して1位の評価を獲得しました。

図4 NECの顔認証技術開発の取り組み

図4 NECの顔認証技術開発の取り組み

 今後、大規模なスポーツイベントの入退場管理、不審者の検知、犯罪の未然防止などのパブリックセーフティの分野で、この動画顔認証が力を発揮していくことになるでしょう。そのような実績を積み重ねながら、この技術を社会インフラにしていきたいと考えています。

デジタルトランスフォーメーションを
社会的なムーブメントに

── 現在のデジタルトランスフォーメーションにはどのような課題がありますか。

新野 現在のところ、様々な企業がデジタルトランスフォーメーションの取り組みを個々に進めているのが現状です。これを一つの大きなムーブメントに育てていくことが必要であると考えています。

 私たちは2016年10月にGE(ゼネラル・エレクトリック)の子会社であるGEデジタルとの包括的提携を結びました。システムの構築・運用のノウハウやAI、IoTの先進技術を持つNECと、産業向けのプラットフォーム「Predix(プレディクス)」を展開するGEがコラボレートすることで、トータルなIoTソリューションの開発、提供ができると考えたからです。このような動きがあちこちで活発になり、共創が進んでいくことで、デジタルトランスフォーメーションは社会全体のムーブメントになっていくと思います。

 もちろん、共創にはいろいろな形があり得ます。NECとGEデジタルのコラボレーションのように、既存のプラットフォームに様々な技術を載せていく方向性もありますし、自らプラットフォームを作って、そこに多くの企業や団体を巻き込んでいくという方向性もあるでしょう。また、医療分野や地方自治など、特定分野に役立つソリューションを共創していく方向性もあれば、社会の広範な分野で活用できる汎用的ソリューション作りを目指していくという方向性もあるでしょう。

── ものづくりで強みを持ってきた日本ですが、これからAI・IoTによるデジタルトランスフォーメーションが進む中でどういった分野で世界に貢献できますか。

新野 様々な可能性があると思います。例えば、NECの強みの一つにサイバーセキュリティの技術があります。総じて、日本のICT企業のセキュリティ技術は世界的に見ても高い水準にあります。今後世界でさらに存在感を発揮していくには技術だけでなく、それを使いこなせる人材育成のノウハウやAI活用など、環境づくりを含めグローバルに示していくことが必要だと考えています。

 今後、世界的にIoTが広まりセキュリティへのニーズもますます高まっていきます。こうしたことができれば、世界における日本のICT力の存在感は、今よりもはるかに増すのではないでしょうか。

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