NEC 執行役員 グローバルビジネスユニット担当 山品 正勝 氏 × NEC データサイエンス研究所 主席研究員 今岡 仁 氏NEC 執行役員 グローバルビジネスユニット担当 山品 正勝 氏 × NEC データサイエンス研究所 主席研究員 今岡 仁 氏
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「動画顔認証」の技術が
社会やビジネスにもたらす価値とは

この3月、米国国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology、以下NIST)の評価で、NECの「動画顔認証」技術が99.2%という最高認証精度で世界一となり、4回連続の第1位獲得となった。これまでも3回連続で静止画による顔認証技術で世界一の評価を得てきたNECだが、今回、動画でも世界一評価を得たことで、この技術の普及をより一層加速させていくことになる。動画顔認証という技術と、それが私たちの社会にもたらす価値について、グローバル事業におけるセーフティ領域を担当するNEC 執行役員 グローバルビジネスユニット担当の山品正勝氏と、顔認証技術の研究開発を長年リードしているNECデータサイエンス研究所の主席研究員 今岡仁氏に話を聞いた。

“動画”顔認証が社会にもたらす新たな価値

── NISTの評価で、動画での顔認証システムも世界一になりました。“動画”による顔認証とはどのような技術が使われているのですか。

山品 正勝 氏

NEC 執行役員
グローバル
ビジネスユニット担当
山品 正勝(やましな まさかず)

山品正勝(以下、山品) 顔認証は、事前に登録してある顔写真とカメラで撮影した顔写真を自動的に照合して、本人確認を行うテクノロジーです。静止画で認証を行う方法と動画で認証を行う方法があり、今回は動画の認証精度で世界一の評価をいただきました。

── 静止画と動画の違いをお聞かせください。

今岡仁(以下、今岡) 静止画の場合、認証される人はカメラの前に立って、本人の意思で認証を行うケースがほとんどです。これを「積極認証」と呼ぶとすれば、動画の場合は、歩行中などに本人が意識せずに認証される「非積極認証」のケースが想定されます。この非積極認証の方が照合処理は格段に難しくなります。具体的に求められる技術は次の5つで、「高速かつリアルタイムの認証」「複数人同時認証」「低解像度認証」「様々な顔の角度の認証」、そして「様々な照明条件のもとでの認証」です。NECの顔認証システムは、その5つの認証技術のすべてを備えています。

図1 動画顔認証により提供する新たな価値

図1 動画顔認証により提供する新たな価値

── 動画顔認証によってどのようなことが可能になるのですか。

図1 動画顔認証により提供する新たな価値

図1 動画顔認証により提供する新たな価値

山品 歩行している人々の顔を捉えて本人確認をすることができます。これは、空港やスタジアムなどのゲートにおける入退場管理に活用できる技術です。

 また、複数の人々の中から対象人物を即座に見つけることができます。例えば、ホテルに入って来た人たちの中からVIPを特定したり、逆に要注意人物を発見したりするといった用途です。

 さらに、複数個所に設置したカメラで撮影した動画から、同一の人物を見つけ出すことも可能です。これはとりわけ犯罪捜査や事件を未然に防止することなどに役立つ機能といえます。

群集の中からVIPを特定する

群集の中からVIPを特定する

群集の中からVIPを特定する

群集の中からVIPを特定する

── すでに顔認証システムの実用例はあるのでしょうか。

山品 静止画と動画を合わせて、およそ40カ国での導入例があります。用途は多岐にわたっていますが、特に多いのは空港における出入国管理、重要施設でのセキュリティ、スポーツイベントやコンサートでのチケットレス入場などです。南米では、スタジアムに設置して過去に問題行動を起こしたフーリガンを特定したり、迷子を検知したりするといった使用例もあります。

認証技術の実用性能が証明された

── NECが顔認証技術の開発に取り組み始めたのはいつ頃からですか。

今岡 仁 氏

NEC
データサイエンス研究所 主席研究員
今岡 仁(いまおか ひとし)

今岡 認証技術の開発スタートは1963年にまでさかのぼります。はじめに取り組んだのは文字認識技術でした。その後、指紋認証技術の開発に着手し、89年には顔認証技術の研究開発を始めました。当時は「指紋認証はできても、顔認証は無理」という意見が一般的でしたが、地道に開発を進め、2002年には静止画での顔認証システムの製品化に成功しました。

── 認証技術を評価したNISTとはどのような団体なのですか。

山品 米国商務省の下で技術革新、産業競争力を強化するために設立された機関で、AESやSHAなどの暗号技術の選定や標準化を行うなど、ITやナノサイエンスなどに関する厳密で公正な客観的評価を行う団体です。NECは過去にも指紋認証やテキスト分析のコンテストで1位の評価を得てきました。

── 顔認証技術で1位の評価を得るのはこれで4回連続とのことですが。

今岡 顔認証技術のベンチマークテストに最初に参加したのは2009年で、その後、2010年、2013年とその後のすべてのテストでトップ評価を得てきました。テストが毎年行われていないのは、評価に1年以上の時間を要するからです。今回の動画顔認証の評価には、約2年かかっています。

図2 NECの顔認証技術開発の取り組み

図2 NECの顔認証技術開発の取り組み

── NISTの評価内容を具体的にお聞かせください。

図2 NECの顔認証技術開発の取り組み

図2 NECの顔認証技術開発の取り組み

今岡 過去3回のテストは、すべて静止画を対象としたものでした。今回の動画顔認証は、難易度の点でこれまでよりもはるかにレベルの高いテストです。

 具体的な評価内容の一つは、空港などでのウォークスルー認証の照合率でした。これは乗客ゲートを通り抜ける人物が、顔写真を事前登録している人のうちの誰かを特定するもので、このテストでのNECの顔認証システムのエラー率は0.8%でした。つまり、99.2%の確率で通り抜ける人物が誰かを特定できるということです。2位のベンダーのエラー率が3.6%ですから、ダントツでの1位と言っていいと思います。

 もう一つは、競技場の監視カメラに映ったすべての人物を特定するテストです。こちらは空港のゲートと違って、「遠い距離にあるカメラで多数の人を低解像度で撮影する」という悪条件下での認証です。このテストでのエラー率は14.6%でした。空港ゲートでのテストと比べるとエラーが多いのですが、それでも照合率は85.4%です。2位のベンダーの61.4%と比べてかなりの高精度であるといえます。NISTは「NECは低解像度でも照合できる唯一のベンダー」とコメントしています。

 環境の異なる二つのテストで1位になったことで、私たちの顔認証システムの実用性能がはっきり証明された。そう自負しています。

── 動画顔認証を実現するにあたって、とくに強化した技術はどのようなものですか。

今岡 一つは、顔がほかの人の体やマスクなどによって部分的に隠れていても、映像をリアルタイムで解析し、欠けている部分のデータを補って照合する技術です。もう一つは、映っている顔がカメラとは別の方向を向いていたり、映像の解像度が低く、認証が難しいケースがあります。このようなケースにもディープラーニング(深層学習)と呼ばれるAI技術を組み合わせて精度を上げています。もっとも認証の仕組みは、基礎的な機械学習など様々な技術の複合によって実現しているもので、「顔認証技術=AI」ではないことを付け加えておきます。

セキュリティだけではない、
おもてなしにも威力を発揮する顔認証システム

── 今後、この技術の活用シーンはどのように広がっていきそうですか。

山品 大きく2点あると考えています。まず1点目は人々の安心・安全を確保するためのセキュリティの強化です。

 犯罪捜査への利用の場合、事件現場周辺のカメラ映像から頻出者の移動経路を解析し容疑者を特定可能なため、事件の早期解決に貢献します。また、特定の場所に留まっている人物の特定や、特定の人物と一緒に映っている人物も検索可能なため、不審者への警備の強化や親の顔画像をもとにした迷子の捜索にも貢献します。

 2点目は、人々の生活の質の向上と、公平感を高める用途への貢献です。各国の法律や慣習を踏まえ、明確なプライバシー保護が可能なシステムとします。

 例えば、店舗で利用する場合、店舗内のカメラ映像をもとに、事前登録なしに顧客の来店回数や来店時間、他の系列店舗への来店などを把握可能になります。これにより時間や場所・移動順路に合わせた、店舗の商品・スタッフ配置やイベント計画などを支援し、サービス品質の向上、収益拡大に貢献します。

── 様々な生体認証ソリューションがある中で、顔認証システムのメリットをお聞かせください。

山品 顔認証システムの大きなメリットは、特別な認証デバイスが必要ないという点です。一般的なデジタルカメラやタブレット端末のカメラなどが利用できるので、比較的低コストでの導入が可能です。また、センサーやリーダーなどのデバイスに接触しなくても認証ができることもメリットの1つです。そのメリットを生かした広範な活用法をお客さまに提案し、用途の裾野を広げていきたいと考えています。

── 顔認証システムは高価でハードルが高いという認識がありますが、NECは低価格帯でのシステム提供も行っていくのでしょうか。

山品 既に技術ラインアップの幅を広げ、低価格帯の提供も始めております。導入時における敷居の高さや運用コストなども考慮した「顔認証システム導入セット」です。顔認証ソフトウェアから各種ハードウェア、設定サービス、保守サポートまでを一括提供しており、安心して導入・運用頂けます。

 また、クラウドでのサービス提供も現在構想中です。今後は、お客さまの活用シーンやビジネスモデルに合わせて、提供できるラインアップを充実させていく予定です。

── 今後の中長期的な見通しについてもお聞かせください。

山品 NECは、プライバシー保護を含め、人々が安心してご利用いただけるような顔認証サービスを幅広い分野で提供し、社会インフラの支えとなる新たな価値提供を行っていきたいと考えております。

 2020年には東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会があります。この世界的イベントのセキュリティに顔認証技術で貢献していくことが、現在の大きな目標です。また、スタジアムへのチケットレス入場や防犯面でもこの技術がさらに力を発揮することになるでしょう。技術レベルをさらに向上させて、顔認証を社会全体のインフラにしていきたい。そう考えています。

※NECは東京2020ゴールドパートナー(パブリックセーフティ先進製品、ネットワーク製品)です。