NEC X CEO 兼 NEC執行役員 ビジネスイノベーションユニット担当 藤川 修 氏 × NEC X 取締役 兼 NEC 執行役員 中央研究所担当 西原 基夫 氏 × NEC X CXO Dr. PG マドハヴァン 氏NEC X CEO 兼 NEC執行役員 ビジネスイノベーションユニット担当 藤川 修 氏 × NEC X 取締役 兼 NEC 執行役員 中央研究所担当 西原 基夫 氏 × NEC X CXO Dr. PG マドハヴァン 氏
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「日本型大企業」からの脱却を目指す。
シリコンバレーでの果敢な挑戦

新しいテクノロジーや新しいビジネスが次々と生まれてくる米シリコンバレー。そのダイナミズムのドライバーとなっているのが、“アクセラレーター”と呼ばれるプロフェッショナルたちだ。スタートアップの可能性を見極め、有望なものを育て上げて世に出す動きを加速(アクセラレート)するのが、彼らの仕事である。この4月、NECはシリコンバレーに新会社「NEC X, inc.(以下、NEC X)」を設立した。アクセラレーターがけん引するエコシステムに、自社の人と技術を投げ込んで、スピーディーな事業化を狙う。これまでの日本型大企業とは全く異なる試みについて、3人のキーパーソンに話を聞いた。

「NEC X」とは何か?

── 新会社「NEC X」設立の背景についてお聞かせください。

藤川 修 氏

NEC X CEO 兼 NEC執行役員
ビジネスイノベーションユニット担当

藤川 修(ふじかわ おさむ)

藤川修氏(以下、藤川) デジタルトランスフォーメーションへの対応が、あらゆる企業にとって喫緊の課題になってきました。対応が遅れれば、大企業であっても、異業種から参入する新興プレーヤーやベンチャー企業に存在を脅かされる。それが今のビジネス環境です。相当な危機感を持って、新しい取り組みにどんどん挑戦していく必要があります。スピードと実行力がこれまで以上に重要になってきています。

西原基夫氏(以下、西原) 1年半前、NEC全体の研究開発を統括している私のところに、「自分が開発した技術を事業化したいが、NECのいつものやり方だと時間がかかりすぎて、いずれ競合に後れをとってしまう」と相談にきた研究者がおりました。確かに、実証実験を繰り返して確証を得てから事業化、という従来のワークフローで進めると、2~3年はかかるわけです。それでは遅すぎる、と。研究者自ら、必要な開発や顧客対応の陣容を作り進めるべき、という結論になりました。そのために、社内の関連部門と議論を開始しよう、と。

藤川 それで、事業化のスピードと実行力を高めるために、「人」と「技術」を社外へ出すという新しいスキームを採ってみたのです。西原のところに相談にきた研究者、NECデータサイエンス研究所の藤巻遼平をシリコンバレーに送り込んで、彼の開発したAIのコア技術(予測分析自動化技術)ともども、最前線のエコシステムで迅速に育てられないか、ということで、藤巻を創業者にしたスタートアップ(dotData, Inc.)を今年の4月に現地に立ち上げました。

西原 基夫 氏

NEC X 取締役 兼 NEC執行役員
中央研究所担当
西原 基夫(にしはら もとお)

西原 AIやセキュリティなどのテクノロジーの進化のスピードは非常に速いので、すぐに他社に追いつかれてしまいます。一定期間の間に事業化できなければ、テクノロジーを持っていること自体が無意味になってしまうのです。短期間で迅速な事業化を目指すには、外部の知見や資金が必要になります。そのためには、「人」と「技術」を外に出して、可能性や魅力を示していくことで外部と積極的につながっていかねばなりません。

藤川 今回、NECがシリコンバレーに設立したNEC Xという新会社設立の狙いは、そこにあります。シリコンバレーのカリフォルニア州サンタクララに社を構え、アクセラレーターたちが形づくるインキュベーションのエコシステムに参画し、NECの技術を核にした新事業開発をスピーディーに仕掛けていく役割を担います。日本企業にありがちな、単に情報収集とかスタートアップに投資するだけの会社ではありません。私がNECのインキュベーション担当役員と兼任で、CEOに就任します。日本とシリコンバレーをつなぎながら、シリコンバレーでのネットワークを広げていくことが私の役割です。そして、キーになるポジションであるCXO(チーフアクセラレーションオフィサー)として、ピー・ジー・マドハヴァンを招聘(しょうへい)します。

Dr. PG Madhavan

NEC X CXO
Dr. PG Madhavan(ピージーマドハヴァン)氏

ピー・ジー・マドハヴァン氏(以下、マドハヴァン) NEC Xの大きな特長は、アクセラレーターとの共創を目指している点にあります。「アクセラレーター」とは、もともとコンピューターの処理速度を向上させるための装置を指す言葉ですが、近年、ビジネスの世界では、新しい事業や会社の立ち上げを加速させるプログラムを提供する人や組織を意味するようになっています。私の役割は外部のアクセラレーターをコーディネートして、社内外に新たな事業を創出することです。私は、これまでの30年間の米国での活動で、3種類のキャリアを重ねてきました。電気工学とコンピューターサイエンス分野の教鞭(きょうべん)をとる大学教授、Microsoft、GEアビエーションなどの大企業で、ソフトウエアやプラットフォーム開発のリーダー、そして複数のスタートアップのCEOです。私はNEC Xにおいて、その3つのキャリアを生かした仕事ができると感じています。

西原 私は研究部門の担当役員とともに、NEC Xの取締役にもなります。NECの保有するテクノロジーを見極め、どれを外に出していくかを決定する役割を担うでしょう。まず、テクノロジーにおいてNECは、生体認証、データ分析、セキュリティ、ネットワークなど、世界トップレベルのテクノロジーをもっていて、それらはシリコンバレーでも高く評価されています。また個別テクノロジーだけでなく、グローバル10拠点の研究所からは多様な社会ソリューションの提案が生まれてきます。

 また、やる気のある研究者たちは、常に画期的なビジネスに関わることのできる機会と場を求めています。NEC Xという新しい創造の場を作ることにより、NEC社内の研究者にその機会を提供します。さらに、NECだったら良い仕事ができると思って優秀な人材が外からやって来る、と考えています。NECに来て、新しい創造の場を満たす仕事をしてもらう、その後はまた他の会社に移るというデシジョンでも構いません。

 NECには、NECから別の企業や大学に移られたOB・OGを含む広範で良好な研究者のネットワークがあります。これらもNEC Xを取り巻くエコシステムとして活用できると思います。

図)グローバルに拡大するNECの研究開発体制

図)グローバルに拡大するNECの研究開発体制

図)NECの研究所が生み出した技術領域例

図)NECの研究所が生み出した技術領域例

図)グローバルに拡大するNECの研究開発体制

図)グローバルに拡大するNECの研究開発体制

図)NECの研究所が生み出した技術領域例

図)NECの研究所が生み出した技術領域例

── 社名の「X」は何を意味しているのですか。

藤川 3つの意味があります。この新会社のモデルでは、事業化を加速させる「アクセラレート」の機能が非常に重要になります。シリコンバレーでは、しばしばアクセラレートをXの一文字で表します。それを社名に入れたのが1つ目の意味です。2つ目は、「クロスボーダー」です。この会社がつくり出す事業は、最初からグローバル市場をターゲットにしています。国境を超えてビジネスを創出し、国境を超えてビジネスを展開する。そのモデルをXで表しています。3つ目は、デジタルトランスフォーメーションが叫ばれる時代の中、X-Techに表現される異業種間の組み合わせが新しい価値の源泉となっており、その多様な「掛け合わせ」を意味する記号としてのXを意味しています。異なる知識、テクノロジー、経験、ノウハウ。それらを掛け合わせて新しい価値を生み出す。そんな意味が込められています。

NEC自身がトランスフォームしていくチャンス

── 具体的なアクセラレーターとのパートナーシップは決定しているのでしょうか。

マドハヴァン シンギュラリティ大学とのパートナーシップが決まっています。シリコンバレーに拠点を置くシンギュラリティ大学は、エクスポネンシャル(指数関数的)に進化するテクノロジーを活用して、地球規模の難題の解決を目指している機関で、教育、エネルギー、食糧など様々な領域で素晴らしいアクセラレータープログラムを提供している米国でも屈指のアクセラレーターの1つです。すでに共同の第一弾プログラムがスタートしており、5月初頭に6チームがノミネートしました。うち3チームがそのプログラムに参加することが決定していて、今、シンギュラリティ大学と事業開発作業を進めているところです。

藤川 NECはシンギュラリティ大学と2017年夏から一緒にプログラムを進めてきました。NEC X設立に当たっても、ディスカッションに参加してもらい、どのようにすればシリコンバレーの中で成功できるかなど、アイデアを寄せてもらっています。私たちのテクノロジーを正当に評価し、確実にビジネスにつなげていく力強いパートナーとなってくれるはずです。

図)アクセラレーターとして参画が決まった「シンギュラリティ大学」

図)アクセラレーターとして参画が決まった「シンギュラリティ大学」

図)アクセラレーターとして参画が決まった「シンギュラリティ大学」

図)アクセラレーターとして参画が決まった「シンギュラリティ大学」

── 「人」や「技術」を外へ出すというリスクに対する懸念はいかがでしょう?

藤川 日本の大企業は、人材や技術の流出を恐れて、それらを外に出すことを極力避けてきました。しかし、そのやり方では、シリコンバレーのエコシステムに入り込むことはできません。私たちの持っている人材、技術、そして経験やネットワークを先に提供しますから、ぜひ一緒にやりましょう──。そのようなオープンなスタンスでなければ、これからは新しいものを生み出すことは難しい時代だと思います。

西原 このやり方では、テクノロジーを独占することはできませんが、テクノロジーが実用化すれば、NECが最も早く自分たちのビジネスに使うことができるし、保有する知的財産をライセンス化することも可能です。また、第一線の研究者が現場に出て、一緒にアイデアを練り、最新のテクノロジーに磨きをかける、ということはこれまでのシリコンバレーのアクセラレータープログラムでも前例がないと聞いています。そのNECの本気度は現地では高く評価されており、研究者の意欲向上とともに手応えを感じています。新たなチャレンジが生み出す成果は大きいと私たちは考えています。

藤川 私は、NEC Xの活動はNEC自身がトランスフォームしていくチャンスであると捉えています。シリコンバレーでの活動を通じて、今のNECに欠けているものが見えてくるでしょう。それによって、NECがオールドタイプの企業から、新時代を創るニュータイプの企業に変化していくことができると私は信じています。

図)エコシステムを活用したNECのR&Dの変革

図)エコシステムを活用したNECのR&Dの変革

図)エコシステムを活用したNECのR&Dの変革

図)エコシステムを活用したNECのR&Dの変革

── 求められる成果はどのようなものですか。

藤川 2年以内にいくつかの最先端のテクノロジーを事業化させることが当面の目標です。さらに、2022年度までに開発案件の事業価値の総額を1000億円にするという目標を掲げています。

西原 研究という視点で見れば、NECの次の事業の柱になりうるものをいくつ生み出せるか、もしくは事業差異化への貢献がどれだけできるかが、勝負になります。「すでにあるものの性能を10%上げる」というレベルの開発ではなく、「これまで誰も見たことがなかったもの、10倍の成果」を生み出していきたいと考えています。

NECの新たな姿を世の中に示す

── 最後に、NEC Xにかけるそれぞれの思いをお聞かせください。

マドハヴァン 今回のオファーをいただいて、とても興奮しています。NEC Xは一種の「坩堝(るつぼ)」であるというのが私の見方です。ぐつぐつと沸き立つ坩堝の中に、研究所の人とテクノロジーという財産、ビジネス感覚、アクセラレーターの知見といった様々な成分を混ぜ合わせることで、強靭でユニークな事業ができる。そんなイメージです。しかも、私のこれまでの3つのキャリア「大学教授」「大企業に勤めた経験」「経営者」を集約し、活用できる機会というのは非常に稀(まれ)です。そのNEC Xに参画できることに心からワクワクしています。日本語で言う「I・KI・GA・I(生きがい)」を感じられる仕事であると私は確信しています。

西原 世の中にインパクトを与えたい、と考えている研究者が、その思いを実現することができる。私のNEC Xへの期待は、そのような場所です。テクノロジーを確かな社会価値につなげていくことができる人たちとぜひ一緒に仕事をしていきたいですね。

 将来的には、NEC Xのオープンモデルを、中央研究所を含むNECの研究機関すべてに適用していきたい。さらには研究者のマインドもトランスフォームしていきたい。NECに来れば価値のある仕事ができる、と思われるようになりたい。そんなビジョンを描いています。

藤川 シリコンバレーで最も評価されるのは、スキルや経験がある人ではありません。新しいものを生み出そうとする熱意がある人、失敗しても決してくじけることのない意志の強さをもった人です。私たちもまた、熱意と実行力を何よりも大切にしたいと考えています。これまで、NECには技術力はあっても実行力が欠けていると言われてきました。それを何としてでも変えていかなければなりません。私たちはリスクがあることを承知の上でチャレンジすることを決めました。新しい試みですから、問題はたくさん出てくるでしょう。しかし、それをともに乗り切っていける人がシリコンバレーにはたくさんいるはずです。またNECもチャレンジした上での失敗を評価するような土壌を作り、彼らに応えたい。そして、そのような人たちと手を取り合って、新しいものを創り出していきたい。このような活動を通じて、NECの新たな姿、そのスピードと実行力を世の中に示していきたいと考えています。

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