NEC 執行役員常務 サプライチェーン統括ユニット担当 大嶽 充弘 氏 × NEC 執行役員 エンタープライズビジネスユニット担当 松下 裕 氏NEC 執行役員常務 サプライチェーン統括ユニット担当 大嶽 充弘 氏 × NEC 執行役員 エンタープライズビジネスユニット担当 松下 裕 氏
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日本の製造業を強くする
グローバル競争を勝ち抜くIoT戦略とは

 製造業のIoT(Internet of Things:モノのインターネット)活用が世界各国においてさらに加速している。第4次産業革命とも呼ばれるこの潮流に対し、影響を受けた新興国も動きを活発化し始め、日本企業にとって脅威となりつつある。製造業においてIoTを実装・活用していくことが今やグローバル競争で勝ち抜くための条件ともいえる。
 日本電気(以下、NEC)は日本の製造業の競争力強化を後押しする次世代ものづくりソリューション「NEC Industrial IoT」を提供しているが、さらにIoTの活用拡大を目的に、NECのグループ企業の工場にIoTを実装し、20%の生産性向上を実現。標準システムとして他の工場にも展開している。
 NECの自社工場、グループ企業工場のIoT化と、ものづくり革新を統括する、NEC 執行役員常務 サプライチェーン統括ユニット担当の大嶽充弘氏、「NEC Industrial IoT」を顧客に提供する執行役員 エンタープライズビジネスユニット担当の松下裕氏の二人に、グローバル競争に勝ち抜くためのIoT化について聞いた。

IoT実装でもたらされた生産革新

── NECも2015年から自社工場のIoT化を進めていますが、以前より、業務プロセスと生産管理システムの標準化を核とする生産革新、グローバルサプライチェーン改革を推進しています。取り組まれた背景や成果などをお聞かせください。

大嶽 充弘 氏

NEC
執行役員常務
サプライチェーン統括ユニット担当
大嶽 充弘(おおだけ のぶひろ)

大嶽充弘(以下、大嶽) 日本の工場が強くなっていかないと、日本が強くならない。高度成長時代の終えんとともに日本国内のハードウェア産業は1990年代をピークに縮小傾向にあり、80年代のような圧倒的な強さは残念ながら維持できておりません。

 ただし、衰退しているわけではなく、大量生産からマス・カスタマイゼーション、さらには「モノからコトへ」といった領域に入ったときに、どういうものづくりに転換すればよいのか悩み、取り組んでいるのが現状だと推測しています。

 NECも自社工場を持つ製造業です。NECおよびNECグループ企業の工場では、過去15年以上にわたって生産革新活動に取り組み、自律的な改善を行ってきましたが、2015年から、さらなる生産性向上を目的にグループ会社の工場のIoT化を始めました。結果、プリント基板実装工程で20%の生産性向上を図ることができました。

 こうして、今までは現場の課題は現場を見ないと分からなかったことが、IoT化してデータとして見られるようになり、現場の課題を解決することが経営課題を解決することにつながりました。

 今、自社のIoT化を推進すべきか悩まれている経営者の方々にお伝えしたいのは、経営者が生産現場に目を向けてさらにQCD(Quality, Cost, Delivery)を改善したいという強い想いが、一番重要だということです。

── NECは製造業でもありICTベンダーでもあります。専業のICTベンダーとの違いについてお聞かせください。

大嶽 私たちも生産改革、現場改善にはすいぶん苦労してきました。この苦労は、専業のICTベンダーには理解できないと思います。

 例えば、装置組み立て工場のMES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)の統合化・標準化が挙げられます。MESとは、製造ラインの進捗状況、品質、在庫管理、設備の状況を統制し、工場を可視化するシステムですが、このMESを統合化・標準化することで、対象となる製造ラインの問題点を把握し、迅速に解決策を講じることができ、製品の質も管理できるようになります。これはグローバルに製造拠点をもつ企業にとって非常に重要なポイントといえます。一方で、従来は工場単位で独自のMESができ上がっており、現場のノウハウもあるため、統合化・標準化することは容易ではありませんでした。

NECネットワークプロダクツ本社工場

NECネットワークプロダクツ本社工場
(福島県福島市)の組立検査工程

 この時に苦労したからこそ、このノウハウや勘所といったことをお客さまに還元し、パートナーとして共にIoT化を推進できる点がNECの強みです。

 日本の製造業は、日々怠ることなく生産改革や現場改善に取り組んでいますが、欠かせないのは互いの交流です。お客さまのものづくりにNECが関わることで新たな価値を見いだしていく、そのような貢献を果たしたいと考えています。

NECネットワークプロダクツ本社工場(福島県福島市)の組立検査工程

NECネットワークプロダクツ本社工場(福島県福島市)の組立検査工程

── NECは門外不出ともいえる生産革新やグローバルサプライチェーン改革推進に必要なノウハウを「ものづくり共創プログラム」として提供していますが、経緯や思いなどお聞かせください。

松下 裕 氏

NEC
執行役員
エンタープライズビジネスユニット担当
松下 裕(まつした ゆたか)

松下裕(以下、松下) NECの目標は日本の製造業全体を強くすることにあります。そのための場として創設したのが「ものづくり共創プログラム」です。様々な生産形態において生産革新を実践してきた、ものづくりを熟知するNECの人材「匠」が、サプライチェーン改革を親身にサポートします。現在は1,169社、3,688人(2017年2月末時点)にご参加いただいております。また、活動のひとつである「Industrial IoT研究会」メンバーの約85%の会員企業さまがIoTの実装を開始しております(2016年12月末時点)。

 この取り組みで重要なのは、NECがお客さまに対して情報提供や支援をするというだけではなく、プログラムに参加していただくお客さま、そしてNEC自身も含めて互いに学び合い、課題解決のための気づきを得られるような場を目指しているという点です。

 先に大嶽が申したとおり、今日、市場のグローバル化が急ピッチで進み、今後さらに多様化するなかで、NECも含めた一企業の力だけでイノベーションを起こすことは困難だと考えています。本プログラムの具体的な活動として、例えば調達物流から販売物流に至る課題を検討するロジスティックス分科会や、グローバル規模で規制が強化されている含有化学物質にかかわる分科会、さらには国内外のものづくり現場での人材育成をテーマとするものづくり人材育成分科会などがあります。これらの分科会をベースに参加各社が議論したり、工場見学会を催したりといった取り組みを行っています。

 どんなに時代が変わり、市場のニーズが多様化したとしても、最前線の現場力をタイムリーに生かし、汎用的な戦力に変えていくことが、NECグループの目指す生産改革の最大のテーマといえます。それを実践するためには門戸を開き、外部の皆さまとの様々な交流を通じて、自分たちのものづくりを研さんしています。

IoT化による実現する革新と究極の目的

── NEC Industrial IoTの実装により、ものづくりの現場にはどのようなベネフィットがあるのでしょうか? また、経営改善にどのように役立つのでしょうか?

松下 「つながる工場」においてNEC Industrial IoTの特長は全部で5点です。

 強固なセキュリティー対策、柔軟なネットワーク構築、最先端AI技術群「NEC the WISE」活用による分析、音声入力などの最新ツールによる現場力向上、そして先に述べた豊富なノウハウを保有する「匠」です。

 例えば、IoT化により、情報系のネットワークと製造系のネットワークがつながるため、外部からのサイバー攻撃対策が重要となります。AIは「KPI管理の高度化」、「異常の早期発見対応」、「徹底的なムダの排除」などで役立ちます。

図1 IoTによるものづくり革新

図1 IoTによるものづくり革新

図1 IoTによるものづくり革新

図1 IoTによるものづくり革新

大嶽 IoT化の最大のメリットは、意思決定の迅速化です。つまり、IoT化することで収集したデータを、それぞれの立場に応じて分析して判断を下すことが可能となります。データを同等に分析するのではなく、例えば現場には現場にあったデータを分析し、経営者には経営者が見るべきデータを分析して意思決定を下す。万が一、非常事態が起きても迅速な対応を取ることもできます。

松下 また「つながる製品」においてもIoTは製品を接続して新たな価値を生み出していくことにも寄与します。例えばNEC Industrial IoTを導入された国内のある大手複合機メーカーさまは、低価格モデルを新興国へ普及させようと考えた場合、従来のハードウェアを販売する「モノ」のビジネスから、運用と保守までをIoT技術の活用によりマネージドサービスとして展開する「コト」のビジネスへと転換しました。それによって収益も拡大しているそうです。こうした「つながる製品」の実現も含めて、IoTはものづくりにおけるイノベーションの創出を支えていくことになります。

── NEC Industrial IoT 活用事例をご紹介ください。

大嶽 「つながる工場」の事例では、製造業の皆さまから好評いただいているのが、耐騒音性に優れたNECの音声認識技術「VoiceDo」の活用による現場作業員のオペレーション支援です。これまで生産ラインの現場作業員は、ある工程が完了するごとに“OK”ないしは“NG”といった結果を所定の書類に記録していました。そこで、これらの完了報告を今後は作業員がマイクを通じて音声で行うのです。システム側にはあらかじめ作業プロセスが定義されており、作業員が音声で入力した、“OK”ないしは“NG”の意味をシステムが理解し、作業履歴が確実にシステム上に残ります。これによって作業者がその日の作業実績を振り返ったり、あるいはラインの管理者、さらには経営層が各ラインの効率性を比較検証し、その改善に役立てたりすることが可能になります。

図2 工場内のサプライチェーンに変革をもたらす「物体指紋認証技術」

図2 工場内のサプライチェーンに変革をもたらす「物体指紋認証技術」

 もうひとつ、事例としてご紹介したいのが某組立加工業のお客さまで高い改善効果を挙げている最先端AI技術群「NEC the WISE」の1つ、「物体指紋認証技術」です。2次元バーコードやRFIDタグなどの識別情報を付けられない部品について、その外観上の微細な紋様を撮影した画像の照合で個別管理を行い、製造ライン別に部品の僅かな特徴を検知し、最適な部品の組み合わせを実現します。部品1つ1つの製造履歴の厳密な管理が可能になるので、工場内のサプライチェーンに変革をもたらすものとしてお客さまから注目いただいております。

図2 工場内のサプライチェーンに変革をもたらす「物体指紋認証技術」

図2 工場内のサプライチェーンに変革をもたらす「物体指紋認証技術」

松下 「つながる製品」としての事例ですと、某電機メーカーのお客さまは、レーザ加工機の遠隔監視にIoTを活用することで、生産状況のリアルタイムの見える化、遠隔からのセキュアなメンテナンス、短納期・変種変量生産ニーズに応える稼働率・生産性向上など新たな付加価値を提供するビジネスモデルを実現しています。

IoTによるものづくり革新

── 一方でIoT実装における留意点があればお聞かせください。

松下 私から強く申し上げたいのは、IoTの活用は実証実験から始めたのではだめで、最初から実際のものづくりの現場に“実装”すべきという点です。また今後のIoTには、AIをはじめ多様な技術が融合してきます。その効果は1~2カ月といった短期間の実証実験で判定できるものではなく、“実装をした上での”腰を据えた取り組みが必要です。

大嶽 実装するには目標設定が重要です。NEC Industrial IoTを発表したのは2015年ですが、NECグループ自身も同時にそのソリューションの実装を開始し、生産性を30%向上させるという目標を定めました。

 繰り返しになりますが、例えばNECネットワークプロダクツの本社工場(福島県)では、IoTによって現場で発生する問題への対応スピードを改善いたしました。オペレーションと設備稼働の効率化・最適化を行うことで、すでにプリント基板実装工程で20%の生産性向上を達成しています。

── とはいえ、いきなり実装から始めるとなると、経営者にとっては投資に踏み切るハードルが高くなってしまうのではないでしょうか。

松下 目標設定が重要と申しましたが、達成できなければ意味がありません。従っていきなり高望みするのではなく、現実的な目標からスタートすることをおすすめします。これにより投資リスクを低く抑えることができます。

 「つながる製品」であれ「つながる工場」であれ、NECは従量課金ですぐに使える基盤をクラウドから提供しています。特別なカスタマイズにこだわりさえしなければ、必要最小限のコストでものづくりの現場に適用することができますし、効果が出ないと判断した場合にはやめることが可能です。

── 「次世代のものづくり」実現のためのIoTの展望を考えたとき、NECの強みはどんなところに発揮されますか。

松下 今後のIoTの鍵を握るのは「エコシステム」です。その拡大に向けてNECグループのアドバンテージを生かしていきます。

 1つが先に申し上げた「ものづくり共創プログラム」で、昨年「つながる工場IoTインフラ分科会」を新たに立ち上げました。工場には定常管理や異常管理、あるいはムダの排除といった従来からの課題があります。この分科会では、実世界の事象をデジタル化して見える化を行うIoTの技術をいかに活用するか、多くのお客さまと共に知恵を出し合い、エコシステム拡大の道筋を探ってまいります。

 そしてエコシステム拡大を見据えたもう1つのテーマが、アライアンスの強化です。NECでは、強みとする画像認識やAIによるビッグデータ分析、SDN(Software Defined Network)などの技術を活用したIoTソリューションをNEC Industrial IoTとして体系化するとともに、ものづくり現場を支える工作ロボットや各種製造機械、あるいはPLCなどのシステムを提供しているパートナーの皆さまとも密接に連携しております。お客さまに最適なIoTの活用環境を提供すべく、体制整備を進めています。

図3 パートナーと密に連携しIoTソリューションを「NEC Industrial IoT」として体系化

図3 パートナーと密に連携しIoTソリューションを「NEC Industrial IoT」として体系化

 例えば2016年10月にNECは、米国のGEデジタルとの間で、お客さま企業のデジタル・トランスフォーメーションの促進に向けて、IoT分野において包括的なアライアンスを締結しました。GEデジタルの産業向けプラットフォームである「PREDIX」とNECのIoT関連技術を組み合わせて、IoTソリューションの開発から実装、保守に至るライフサイクルを一貫したサポート体制をエコシステムとして確立します。

 ものづくりの現場におけるIoT活用は、すでに実装フェーズに突入しています。その中でNECはお客さまにパートナーとして選んでいただけるようにしていきたいと考えています。

図3 パートナーと密に連携しIoTソリューションを「NEC Industrial IoT」として体系化

図3 パートナーと密に連携しIoTソリューションを「NEC Industrial IoT」として体系化