NEC代表取締役 執行役員社長 兼CEO 新野 隆 氏 × 東京大学 総長 五神 真 氏NEC代表取締役 執行役員社長 兼CEO 新野 隆 氏 × 東京大学 総長 五神 真 氏
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NECと東京大学、「産学協創」で社会課題に挑む、
初の戦略的パートナーシップを聞く

第一弾としてAI分野から着手

図1 NECと東京大学が挑む、日本の競争力強化のための総合的な産学協創

図1 NECと東京大学が挑む、日本の競争力強化のための総合的な産学協創

 日本電気(NEC)と東京大学は、これからの日本や世界が抱える様々な社会課題の解決策の探求とその実践に「産学協創」で挑む、初の戦略的パートナーシップに合意し、本格的な活動を開始した(図1)。本パートナーシップにより、両者で社会の将来ビジョンを描き、密接に協力し、研究開発・人材育成・社会システムの変革に向けた投資を行うことで、継続的な競争力を持った社会を実現する。
 この戦略的パートナーシップは、以下の2つにおいて、従来の産学連携プロジェクトとは次元が異なる協力関係である。一つは、特定技術の研究開発だけではなく、社会課題の解決に向けたビジョンの創出から、研究開発の実施、人材育成、社会実装まで、一貫して協力していくこと。もう一つは、特定の学術分野にとどまらず、問題解決に資する人材・技術・知識を、研究室・学部・文理の違いを超えて集め、多角的な課題解決に取り組むことである。企業と大学が点でつながっていた産学連携を、面でつなげる「産学協創」へと昇華させる、これまでにない取り組みと言える。
 その第一弾のテーマとして、NECと東京大学は、人工知能(AI)を選定した。AIは、様々な社会問題を解決する手段として、その活用に期待が高まっている。効果的な活用には、アルゴリズムやシステム、半導体など要素技術の開発はもとより、いかなるシーンで、どのように活用していくべきか、人間の感覚に合った社会実装の方法を見極めることが極めて重要になる。さらに、労働問題、社会制度や法律面での課題も存在する。こうした社会の要請が高い複雑な課題に、NECと東京大学が、総力を結集して挑む。

図1 NECと東京大学が挑む、日本の競争力強化のための総合的な産学協創

図1 NECと東京大学が挑む、日本の競争力強化のための総合的な産学協創

【対談】NEC 新野 隆 社長 × 東京大学 五神 真 総長
未来を拓く、企業と大学の新しい関係を築く

── なぜ今、企業と大学の協力関係の強化が求められているのでしょうか。

新野 都市人口の増加、人・モノの移動の増加、食糧需要の増加など、現在の社会は、対応すべき課題を数多く抱えています。NECは、保有するデータサイエンスの知見とICTプラットフォームの技術を駆使して、こうした社会課題の解決に貢献したいと考えています。
 ただし、NECだけでは、今、直面している複雑な社会課題を解決することはできません。多様な専門性を持った人材、技術、知識を合わせてこそ、私たちの力が生きます。このためNECでは、大学、お客様、国、パートナー企業といった様々な人たちとのオープンイノベーションを推し進めていきます。
 大学とは、これまでにも特定技術の開発にターゲットを絞って、数多くの共同研究を行ってきました。これから挑む社会課題の解決には、技術開発にとどまらず、社会受容性の検討も同時に進めないと、真のイノベーションは生まれません。そこで、今後3年間で産学連携への投資を倍増させ、なおかつ連携先を絞り込んで、従来よりも1~2ケタ大型の協力関係を築くことを決めました。

五神 真 氏

東京大学 総長
五神 真(ごのかみ まこと)

五神 企業は、5〜10年先の事業内容を展望することが求められています。学問は本来、過去から未来に向けた長い時間スケールの課題を対象としています。従って、大学は時代を先取りした技術やサービス、社会システムの創造に貢献し、こうした企業を支援できる力を持っているはずです。東京大学では、これまでの産学連携のあり方の見直し、大学が持っている力を生かし、より効果的に研究成果を社会実装していくための仕組み作りに取り組みます。これまでの産学連携では、それぞれの研究室が個別に共同研究を進めてきました。しかし、こうした枠組みでは、企業や大学全体の意思決定者を巻き込んだ共同研究や社会実装にまでたどり着くことが困難でした。今、社会が直面する課題を解決するためには、パートナー企業の将来事業を革新できる技術、企業の価値観を変える影響力、新たな社会価値を生み出す、新たな産学連携が必須になっています。
 そこで東京大学は、パートナー企業と目的を共有し、組織と組織の間で緊密に連携しながら、横断的かつ大型の共同研究に取り組む、「産学協創」を推進していきます。既に、2016年4月に、産学連携本部を改組して、産学協創推進本部を設置しました。同本部を中心に、「産学協創」を効果的かつ円滑に進めるための制度整備を行いました。この体制で本学の研究者が安心して参加でき、また民間企業が信頼してビジネスの根幹にかかわる重要な部分を持ち込めるようになります。こうした活動を通じて、大学を、産学官民の改革を同時に駆動する、改革のプラットフォームとして機能させたいと考えています。

── 社会課題に挑む「産学協創」では、これまでの産学連携をどのように進化させるのでしょうか。

新野 隆 氏

NEC
代表取締役 執行役員社長 兼CEO
新野 隆(にいの たかし)

新野 基礎研究から社会実装に至るまでの将来の進むべき方向性を「ビジョン」として協創・共有し、NECと東京大学の幹部がそれにコミットする必要があります。NECでは、技術の進展と社会の変革を調査・分析し、私たちが進むべきビジョンをまとめて、冊子として公表しています。今後は東京大学とも連携しながら、挑むべき社会課題を明確化し、その解決と新しい社会価値の創造を目指すビジョンを協創していきます。さらに、それを社会に浸透させるために、オープンな場で議論して、活動を積極的に発信していきます。

五神 社会課題を解決できるビジョンを策定し、実践するためには、ICTなどの科学技術に加えて、倫理・精神文化など人文社会の高度な知見も、活用していく必要があります。この点で、総合大学として多彩な学術分野の研究を行う東京大学には、大きなポテンシャルがあります。挑む社会課題を決め、的確な解決法を研究するため、技術面での高度な知見を持った多くの先生方だけではなく、社会的視点を持った先生方の知見を生かすことで、新しい技術を円滑に社会実装できます。こうした「産学協創」によって生み出される成果は、学術的にも、革新的なものになるでしょう。東京大学では、こうした文理を超えた学知を結合させ、それを融合させる研究形態を「産学協創」を通じて確立していきたいと考えています。これは、東京大学にとっても大きなチャレンジです。実現に向けて、複数の研究者・研究室をチームビルディングしていくプロジェクトマネジメントを断行していきます。

── 課題の解決法の探求から、その効果的な社会実装まで、多角的な専門性を融合させた成果が期待できそうです。

新野 今回の「産学協創」は、企業と大学による社会価値創造の方向性を、決定付けるものになるでしょう。NECと東京大学の双方の幹部が責任を持って運営に関わる必要があります。連携の仕組みの改善やビジョンの協創・共有を含め、大きな方向付けを担うステアリング組織を設置しようと考えています。この組織によって、研究成果が社会に受け入れられて産業となるまで、双方が責任を持つことになります。また、リスクの高い大きな革新性を伴う研究や、実用化を担う卓越した人材の継続的育成を、責任を持って推し進めることもできます。

五神 東京大学は、「産学協創」の中で「知のプロフェッショナル」もしっかり育成することを目指しています。日本の理工系教育システムには世界的な優位性があり、そのシステムの下で育った多くの優秀な人材が、産業界で活躍しています。これからの大学は、こうした優秀な社会人が、知見を一層磨いていくことに貢献していくべきです。博士取得プログラムなどで優秀な社会人を受け入れ、専門知識を深化させ、挑むべき社会課題を自ら設定し、その解決に向けて貢献できる人材へと育成すべきなのです。彼らが大学から持ち帰る、深く新しい専門性を各企業の強みと融合することで、世界をリードする新たな事業領域が生まれるはずです。高度な教育を受けた人材は、日本と世界の公共財です。教育のための原資は、学生本人と政府だけに求めるのではなく、産業界も交えた社会全体で負担していくべきものだと考えています。

新野 未来を拓く人材を育成するため、NECでは、博士課程の3年間を学業に専念できる月20万円の給付型奨学金を設立しました。こうした試みが産業界全体に波及するよう、優秀な学生の皆さんに活用していただきたいと思います。また当社の研究所では、優秀な学生の長期インターンシップを受け入れています。3カ月以上の長期間、研究成果を実用化していく現場に身を置くことで、専門分野の技術を社会へ還元する意義や困難さを学んでいただけると思います。逆に、「産学協創」の枠組みの中で、NECの研究者を積極的に大学に派遣・常駐させて、社会課題の解決につながるより大きな成果を追究していきます。多様な人材育成を進めることで、グローバルに活躍するダイバーシティ人材を育成できると信じています。

── 今回の戦略的パートナーシップは、企業と大学が協力して社会価値を創造する、新たな潮流を生み出す契機になりそうですね。

新野 NECと東京大学は、組織として責任を持って、連携のビジョンと仕組みを協創・発信していきます。それに基づいて、文理融合の大型共同研究の実施と、その成果の産業化、および長期を見据えた卓越人材の育成を協力して実行します。今回のような、研究開発と人材育成の両面を内包した総合的な「産学協創」に、いち早く着手することによって、NECと東京大学は、産官学のエコシステムの核となり、新たな社会価値を創造してきます。

AIでの産学協創の概要

NECと東京大学の戦略的パートナーシップ第一弾
AI(人工知能)での革新的な共同研究の概要

9月2日の記者会見(左:新野氏 右:五神氏)

9月2日の記者会見(左:新野氏 右:五神氏)

 9月2日、NECと東京大学は、両者が取り組む戦略的パートナーシップの第一弾テーマとして、社会への影響力が大きい分野であるAI(人工知能)を選定。「NEC・東京大学フューチャーAI研究・教育戦略パートナーシップ協定」を締結し、本格的に開始した。NECが持つ世界トップクラスのAI技術と、東京大学が蓄積してきた多角的な見地からのAI研究の成果を生かす複数の革新的な共同研究を実施していく。同時に、AI研究における優秀な人材育成に向けた取り組みを奨学金・インターンシップにより強化する。東京大学にはAIを研究する博士人材の育成を目的とした奨学金「NEC・東京大学 フューチャーAIスカラーシップ」が新設され、NECは長期インターンシップの受け入れを行う。この取り組みで、両者は若手AI研究者の育成を進める。

9月2日の記者会見(左:新野氏 右:五神氏)

9月2日の記者会見(左:新野氏 右:五神氏)

AI新技術・システムの研究開発と
AIを受け入れる社会のあるべき姿を探究

図2 脳を模倣する「ブレインモルフィックAI技術」の特長

図2 脳を模倣する「ブレインモルフィックAI技術」の特長

 本協定に基づき、東京大学では、生産技術研究所 合原一幸教授を中核にグローバルトップの研究者を集め、社会連携研究部門として「社会課題解決のためのブレインモルフィックAI」を新設。脳や神経の機構を再現・応用することで、AI情報処理を高性能かつ従来の一万倍以上も高効率に実行できるシステムの実現を目指す。「ブレインモルフィックAI技術」は、あらゆる社会課題に対して、AI処理プラットフォームにブレイクスルーをもたらすと考えられている。(図2)。
 さらに、AIが社会に深く浸透する時代の到来を見据え、社会のルールや人間の感覚との整合を図るため、法律、ガイドライン、社会的なコンセンサス、倫理などについても共同で研究。NECは、AIを活用したソリューションの社会展開において、研究成果を活用していく。このように、NECと東京大学は、新たな産学連携の形を具現化する今回の産学協創を通じて、日本の競争力強化に貢献していく。

図2 脳を模倣する「ブレインモルフィックAI技術」の特長

図2 脳を模倣する「ブレインモルフィックAI技術」の特長