東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 警備局長 岩下 剛 氏東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 警備局長 岩下 剛 氏
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オリンピック、パラリンピック史上初!
大会の安全・安心を支えるNECの顔認証

開催まで2年を切った東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会。世界中から多くの人が集まる大イベントにおいて、テロ、犯罪行為、重大事故等をいかに防ぐか。危機管理のあり方が議論される中、注目を集めているのが、オリンピック、パラリンピック史上初めて全ての大会関係者の入場において活用されることになった顔認証。NECがおよそ30年の歳月をかけて開発してきた世界一(※)の精度を誇るテクノロジーだ。顔認証の導入で、オリンピック、パラリンピックの警備のあり方はどう革新されるのか。そして、人々にどのようなメリットをもたらすのだろうか──。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の警備部門トップである岩下剛氏に話を聞いた。

東京2020における警備のポイントとは

── オリンピック、パラリンピックの警備の難しさをお聞かせください。

岩下 剛 氏

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 警備局長
岩下 剛(いわした つよし)

1968年生まれ 東京大学卒業後、警察庁入庁。
1999年7月 内閣総理大臣秘書官付
2002年9月 警視庁中野警察署長
2012年8月 警察庁警護室長を経て、
2015年3月 警視庁オリンピック・パラリンピック競技大会総合対策本部副本部長
2018年5月 東京オリンピック・ パラリンピック競技大会組織委員会 警備局長
現在に至る

岩下剛氏(以下、岩下) オリンピック、パラリンピックは、世界のスポーツ大会の頂点と言うべきイベントです。参加国数、競技数、アスリートの数は群を抜いて多く、大会を安全に運営するための警備は極めて複雑なものとなります。

 そして、観客数も他の大会より圧倒的に多い。ロンドン2012大会では、観客数は2000万人を超えました。この中にはチケットを購入して競技会場に入った人だけでなく、マラソンなどの競技をロードサイドで見た人、競技を生中継・配信するライブサイトで観た人も含みます。

── 「雑踏」がさまざまな場所で発生する点にも、オリンピック、パラリンピックの警備の難しさがあると言われていますね。

岩下 オリンピック、パラリンピックには、世界中から老若男女を問わず多くの人々が訪れます。このため、地理に不慣れであったり、言語の問題などで、主催者側の想定とは異なる動きが突如として、かつ、同時多発的に発生するおそれがあります。状況を適切に把握、管理し、場合によっては規制することにより、事故を防止するという極めて難しい課題に対処していく必要があります。

── とりわけ東京2020特有の警備の難しさがありましたらお聞かせください。

岩下 東京2020では、過去大会と比べて3つの点でより高度な警備が求められます。1つ目は、新国立競技場、東京体育館、国立代々木競技場、日本武道館など、主要な競技会場が東京の中心部にあること、すなわち、一国の首都のど真ん中で開催される大会であることです。2つ目は、暑さがピークとなる8月に多くの競技が開催されることです。猛暑からアスリートや観客をいかに守るか。これも大きな課題です。そして3つ目が、主要な競技会場を一カ所に集めたオリンピックパークがないということです。これもまた警備を難しくする大きな要因となります。

── なぜ、オリンピックパークがないと警備することが難しくなるのでしょうか。

岩下 オリンピックパークがあれば、警備をパークに集中させることができます。また、大会関係者の入場チェックも、パークの入口で一度行えば、パーク内の各競技場でそのつど行う必要はありません。しかし、東京2020では、競技会場が一都一道七県の43カ所に分散することになります。警備対象となる会場数が多く、かつ各会場で個別に入場時のチェックを行わなければならない。それが東京2020の大きな特徴です。

30万人超と予想される大会関係者の本人確認を瞬時にチェックする世界一の顔認証

── なぜ、関係者エリアへの入場チェックはそれほど重要なのでしょうか。

岩下 なぜなら、スポーツイベントの主役は何といってもアスリートだからです。もし、関係者エリアに不審者が侵入して、アスリートに害が及べば、イベント自体の成否にかかわる極めて深刻な事態となるでしょう。関係者エリアのセキュリティを万全にし、安心してベストなコンディションで競技に臨めるようにすることは、警備の最も重要なポイントの一つです。

── 過去の大会では、関係者エリアへの入場チェックはどのように行っていたのでしょうか

岩下 オリンピック、パラリンピックでは、顔写真付きのIDカードが関係者全員に与えられます。過去大会では、その写真と一致しているか、運営スタッフが目視で本人確認をしていました。しかし、目視の場合、常にヒューマンエラーが発生する可能性があります。できる限りエラーを避けるには、写真と本人を何度もじっくり見比べなければなりません。それはすなわち、一人ひとりのチェックに相応の時間を要することを意味します。

 厳しい暑さが予想される東京2020において、本人確認に時間がかかれば、アスリートと運営スタッフ双方に大きなストレスがかかります。それによって競技や大会運営に乱れが生じてしまっては元も子もありません。本人確認を迅速化し、円滑なオペレーションを実現すると共に、強固なセキュリティ環境を築く──。その課題を解決するために、東京2020ではオリンピック、パラリンピック史上初めて、全ての関係者の入場に顔認証を導入することにしました。

── 本人認証の方法には、指紋、虹彩、声などいくつかの種類があります。なぜ、顔認証を選んだでしょうか?

岩下 大会関係者に事前登録が義務付けられている顔写真データをそのまま使えること、つまり、新しいシステムの導入に当たって追加のデータ登録が必要ないこと。したがって、関係者に追加的負荷をかけずに済むこと。それが顔認証を採用した大きな理由です。

── 顔認証は具体的にどのように活用されるのでしょうか。

岩下 43の競技会場、3つの選手村、国際放送センター、メインプレスセンター、そしてIOC(国際オリンピック委員会)の関係者などが宿泊するオリンピックファミリーホテル。そのすべての入口に顔認証のレーンを設置します。関係者がレーンを通る際にカメラで顔を撮影し、あらかじめ登録してある顔写真との同一性をシステムが自動的に判断します。

 顔認証によるチェックの対象となるのは、アスリート、運営スタッフ、メディア関係者、ボランティアなどです。その総数はまだわかりませんが、リオ2016大会では、関係者の数はおよそ30万人に及びました。東京2020では、その数を上回る関係者が施設に出入りすると予想されています。

── 30万人以上もの人達が使うと、認証待ちの行列になりませんか?

岩下 昨年9月に実施した実証実験では、従来の目視によるチェックに比べて、顔認証は2倍以上のスピードで本人確認ができることもわかりました。

 さらに、今年の9月に行った実証実験では、顔認証レーンとセキュリティチェックレーンを本番の想定どおりに設定して実際の流れを検証しましたが、迅速化、省スペース化の両面で効果があることが改めてわかりました。

30秒動画)目視と顔認証の検証スピードを比較した2017年8月スクリーニング実証実験動画(東京2020大会組織委員会警備局提供)

── 入場時のストレスだけでなく、事前登録時のストレスもない。それが顔認証の大きなメリットということですね。

スクリーニング実証実験の様子

図)2018年9月、本番さながらに行われた、東京2020大会組織委員会主催スクリーニング実証実験の様子

岩下 その通りです。関係者にできるだけストレスをかけることなくセキュリティレベルを上げ、大会における安全・安心を守ることが私たちの役割です。それによってアスリートは競技に集中することができるし、運営スタッフはその他のさまざまなオペレーションに集中することができる。その結果として、大会全体のクオリテイーが向上する。そう私たちは考えています。

── 警備に新たなテクノロジーを使うことは必要性の産物だったということですね。

岩下 そうですね。「オリンピック、パラリンピック史上、最もイノベーティブな大会にする」──。それが東京2020のスローガンの一つです。しかし警備は、万に一つの失敗も許されません。その警備の分野においてパブリックセーフティの領域で、数多くの実績を持つNECの顔認証は欠かせないと考えました。

警備のレガシーをいかに引き継いでいくか

── 東京2020の警備部門トップとしての意気込みをぜひお聞かせください。

岩下 剛 氏
岩下 剛 氏

岩下 警察庁で20年ほど前から警備の仕事に携わり、政府のさまざまな要人の警護も担当してきました。国際的なイベントや会議の警備に携わる機会も多く、公務で訪れた国の数は54カ国に上ります。その経験を生かすことができる機会を与えていただいたことをたいへん光栄に感じています。

 警備の最大の成功とは「何も起こらないこと」です。工夫を凝らし、最新のテクノロジーの力を活用しながら、必要十分な警備体制をつくって、結果的に「何事もなかった」という状態をつくり上げること。それが私たちの役割です。大会開催までの2年弱の間、全力を傾けて万全な警備体制を構築したいと考えています。

── 東京2020における「警備のレガシー」をどう引き継いでいきたいとお考えですか。

岩下 ハード面で見れば、顔認証による本人確認はおそらく今後のオリンピック、パラリンピックのスタンダードとなっていくでしょう。それが一つのレガシーとなると考えられます。

 仕組みの面で見れば、東京2020はサイバーセキュリティをテクノロジー部門だけではなく警備部門も担う初の大会となります。物理的な脅威とサイバー空間における脅威。その両方に警備が目を光らせる仕組みもまた、今後の大会の標準的なあり方になっていくでしょう。

 さらに東京2020では、警察と消防と海上保安庁、東京と地方、官と民など、立場を異にする機関や人々の連携が実現することになります。この大会で安全・安心を守るためのコラボレーションの形を示すことができれば、2020年以降の日本社会のセキュリティレベル向上にも寄与するはずです。それもまた極めて重要なレガシーとなる。そう私は考えています。

注釈※ 米国国立標準技術研究所(NIST)主催のベンチマークテストにおいて、NECの顔認証は認証性能、検索性能、検索速度において4回連続で世界第一位評価を獲得。99%を超える照合精度があること、照合にかかる時間がわずか0.3秒程度であることなどが評価された。