NEC 取締役 執行役員常務 兼 CTO 江村 克己 氏NEC 取締役 執行役員常務 兼 CTO 江村 克己 氏
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複雑化、深刻化する社会課題をお客さま
・パートナーと共創し、ICTで解決する~社会価値創造を目指すNECのテクノロジー~

社会ソリューション事業を通じて、社会への新しい価値提供に取り組むNEC。同社は強い技術を磨き抜くとともに、パートナーとの連携を強化してさらなる進化を目指している。NECの技術の強みは「見える化→分析→制御・誘導」のプロセスで構成されるAIと、それを支えるICTプラットフォームの両方の領域をカバーしていること。そこには、AI領域での50年以上にもわたる長年の知見も生かされている。NECの技術とソリューションの方向性について、CTOを務める江村克己氏に聞いた。

NECが目指す社会価値創造への取り組み

── 近年、NECのビジネスは大きく変わりつつあるように見えますが、その方向性についてうかがいます。

NECが取り組む7つの社会価値創造テーマと4つの提供価値

NECが取り組む7つの社会価値創造テーマと4つの提供価値

江村 NECはモノを提供する企業から、企業や社会に対して新しい価値を提供する企業へと変革を進めています。お客さまとビジョンを共有し、共に取り組む課題を設定した上で、ソリューションとして価値提供を目指します。NECが提供していく社会価値「安全」「安心」「効率」「公平」に基づき、お客さまの価値創造に向けて7つのテーマに注力しています。

NECが取り組む7つの社会価値創造テーマと4つの提供価値

NECが取り組む7つの社会価値創造テーマと4つの提供価値

── いずれも、社会全体に関わる大きなテーマですね。具体的にどのような観点で取り組まれているのでしょうか?

No.1/Only 1技術でお客さまやパートナーと価値を共創

No.1/Only 1技術でお客さまやパートナーと価値を共創

江村 おっしゃる通り、社会全体に関わるテーマであるうえ、1つ1つのテーマにおける課題は複雑です。したがって、まずはお客さまと議論して、「解くべき課題」を明確にする必要があります。その上で、必要に応じて外部パートナーと協業し、具体的なソリューションをつくりあげていきます。テーマや課題によって、ソリューションに必要とされる要素は異なります。NECの持つリソースだけでは、足りないことも多い。そこで、お客さまやベンチャー企業、大学などを含めた業界を越えたパートナーとの多様なアイデア、知見を融合させて新しい価値を生み出す。そんなオープンイノベーションを、技術とビジネスの両面で推進しています。もちろん、技術的な強み、あるいはビジネス上の優位性を持つパートナーを得るためには、NEC自身がパートナーに選んでもらえるような強みを持っていなければなりません。技術についていえば、ナンバーワン、オンリーワンの技術を磨き抜くことだと思います。それを核に、パートナーシップでソリューションを進化させていきます。ここでいう技術とは、あくまでもお客さまの立場から見て価値のある技術です。私はお客さまの視点を常に意識しながら、CTOという仕事に向き合っています。

No.1/Only 1技術でお客さまやパートナーと価値を共創

No.1/Only 1技術でお客さまやパートナーと価値を共創

社会価値創造に向けNECが取り組む技術領域

── 社会価値創造をしていく上で、NECとして取り組む技術領域は?

江村 NECでは世の中の状態を見える化(データ化)し、そのデータを分析、制御・誘導という形で現実世界にフィードバックする、こうした一連のプロセスを経て社会価値を創造していこうと考えています。「見える化→分析→制御・誘導」による価値創造は、強固なICTプラットフォームによって支えられています。NECはそれぞれの領域において、多くの強い技術を持っています。これらの技術を組み合わせたソリューションで、社会へ貢献していきます。

ICTによる社会価値創造プロセス

ICTによる社会価値創造プロセス

分かりやすい例として、自動運転を考えてみましょう。いくら素晴らしいAIがあったとしても、データ処理の結果がクルマの駆動系に伝えられるまでに時間がかかりすぎれば事故につながりかねません。伝達に1秒、2秒かかるだけで遅すぎることもあります。必要な要件を満たすためには、AI領域だけでなく、「リアルタイム」「ダイナミック」「リモート」「セキュア」という価値を生み出すICTプラットフォームの領域の2層をトータルで最適化する必要があります。その意味で、NECの強みを生かせる分野は多いと考えています。

ICTによる社会価値創造プロセス

ICTによる社会価値創造プロセス

NECが考えるAIとは

── いま、なぜAIがこれほど注目を集めているのでしょうか。

江村 克己 氏

NEC
取締役 執行役員常務 兼 CTO
江村 克己(えむら かつみ)

江村 大きく2つの背景があります。その1つは、ビッグデータの収集と活用です。ソーシャルデータやセンサデータなど、実世界の動きは膨大なデータとして集約されるようになりました。世界のデータ量は2020年までに2000年の約6500倍まで膨らむ見通しです。分析のもとになるデータが少なければ、AIがこれほどの進化を遂げることもなかったでしょう。もう1つは、ICTプラットフォームの高度化です。コンピュータやネットワークの能力拡大が、AI技術の飛躍的な発展を支えています。

── NECは、AIをどのように定義していますか。また、AIに対する期待についてもうかがいます。

江村 私たちはAIを「人間の知的活動をコンピュータ化した技術」ととらえています。人間は対象を見たり聞いたりして認識し、考え、行動します。この一連のプロセスは、サイバー世界の「見える化→分析→制御・誘導」に対応しています。今後、AIは様々な分野に入り込み、人間の能力を補完するようになるでしょう。NECとしても、AIを社会課題の解決や人々の暮らしやビジネスに役立てられるよう、研究開発やソリューション開発に注力していきます。

── NECのAIの取り組みは、半世紀に及ぶと聞いています。

江村 NECは1960年代には既に「郵便宛名読み取り区分機」という製品で、デジタル化されていなかったアナログの情報を見える化する技術を開発していました。ここには、OCR(Optical Character Recognition/Reader)と呼ばれる文字認識技術が用いられています。ここで、実世界の情報をコンピュータが認識するというNECのAI技術の基礎が形作られていると言えますね。この技術は、その後、指紋認証や顔認証などの技術へと発展していきます。顔認証の分野においては、第三者機関である米国国立標準技術研究所のベンチマークテストで3回連続で世界NO.1を獲得しています。その後、分析と制御・誘導の分野でも研究開発をスタートさせています。NECは、最新技術や製品・システム・ソリューションを紹介する「NEC技報」を発行していますが、実は30年前の1986年と92年に既にAI特集を掲載しています。このように半世紀に及ぶAIへの取り組みが、現在の強みにつながっています。

── NECは見える化と分析、制御・誘導というそれぞれの分野で、多様な技術を保有していますね。

NECの最先端AI技術群

NECの最先端AI技術群
※米国政府機関主催のコンテストの結果

江村 単体で何でも解決できる万能なAIは存在しないと、私たちは考えています。NECのアプローチは、様々な技術を組み合わせて人間の知的活動をコンピュータ化するというものです。先日、私たちは長年の研究開発をベースに、人の知的創造活動を最大化するための最先端AI技術群を体系化しました。これが、「NEC the WISE(エヌイーシー ザ ワイズ)」です。英語で“the WISE”は「賢者たち」を意味し、”the WISE”が複数形として使われるということが重要なポイントです。NECの保有する多くの技術が一丸となって、社会価値創造やお客さまの課題に対応していくことを意味しています。また、マークの鋭角的な三角錐は将来の礎として揺るぎないくさびを打つというメッセージを、中央にたたずむ立方体は集積させた叡智の核を表しています。人と人、人と社会、人とAIによる協調によってよりよい社会づくりに貢献していきたい、ロゴマークには、そんな思いが込められています。

NECの最先端AI技術群

NECの最先端AI技術群
※米国政府機関主催のコンテストの結果

AI技術による社会ソリューション展開と価値増幅

── これらのAI技術で具体的にどのようなソリューションを実現できるのでしょうか?

NECの最先端AI技術群と展開中の社会ソリューション事業

NECの最先端AI技術群と展開中の社会ソリューション事業

江村 実世界の課題を解く社会ソリューション領域でAI技術を活用することを狙っています。例えば、街中映像監視ソリューションに顔認証技術を活用し、ネットワークカメラの映像と写真データベースをリアルタイムに照合することで犯罪者や行方不明者の捜査を大幅に効率化させています。また、プラントに設置した大量のセンサーからの情報をインバリアント分析技術で分析することで、人には察知できない微かな変化から故障予兆を検知するソリューションを実現しており、専門家よりも早期発見、早期対処を可能にしています。さらに、複雑な要因が絡む電力需要を予測するソリューションに異種混合学習技術を活用しています。異種混合学習技術は予測結果を提示するだけではなく、予測した理由も示すことができるため、対策の立案が容易となります。

NECの最先端AI技術群と展開中の社会ソリューション事業

NECの最先端AI技術群と展開中の社会ソリューション事業

── AI技術によりソリューションの価値が上がっていますね。

AIによるソリューションの価値増幅

AIによるソリューションの価値増幅

江村 AI技術は進化を続けます。その方向性の一つが解のレベルを上げていくことです。例えば工場や発電所をイメージした時に、その動作を監視するところから、故障の予兆をとらえる、今後の変化を予測する、安定動作のための処方の提案をする、といったステップで進化していくというのがその例です。現状を理解して迅速に対応するソリューションから、予測し処方まで提示することでコトが起きる前に未然に防止するソリューションへと価値を増幅させることを目指しています。

AIによるソリューションの価値増幅

AIによるソリューションの価値増幅

人と協調するAIで新たな価値創造へ

── AIの進化には目覚ましいものがありますが、今後のチャレンジはどこにあるのでしょうか。

NECの社会価値創造とAI技術の方向性

NECの社会価値創造とAI技術の方向性

江村 品質管理や安全な街づくりといったゴールの定まった問題について、AIは多くのことができるようになりました。しかし、世の中にはゴールの定まっていない問題のほうが多いと思います。経営判断や新商品開発などでは、一概に「ここがゴール」とはいえません。これからのチャレンジは、このような分野にあると考えています。

NECの社会価値創造とAI技術の方向性

NECの社会価値創造とAI技術の方向性

── そのチャレンジの先に、どのような未来を描いていますか。

江村 日本と世界が抱える課題は複雑かつ高度化しています。たとえば、日本をはじめ先進諸国が直面している労働人口の減少。適切な手を打たなければ、労働人口減少に伴い経済規模は縮小し、社会の活力は減退していくでしょう。社会の豊かさを維持・向上させるためには、生産性の向上が欠かせません。対人ケアの部分でAIを活用すれば、人は、人の力が最も必要とされる部分に集中できるでしょう。私たちはAIやICTプラットフォームなどの技術を磨いて課題解決力を高めつつ、新たな価値創造を通じて社会への貢献度を高めていきたいと考えています。