働く意味とは?会社の存在意義とは?
キーワードは事業を通した社会課題の解決

キリンホールディングス・磯崎 功典社長 × ビズリーチ・南 壮一郎社長

キリンホールディングス・磯崎 功典社長 × ビズリーチ・南 壮一郎社長

キリンホールディングス磯崎功典社長は、新卒でキリンビールに入社したもののスタートアップさながらの異色の経歴を重ねてきた。そんな磯崎社長が、HRテック・ベンチャーであるビズリーチの創業社長・南壮一郎氏と対談。これからの時代に求められる働き方とは、強い組織をつくるために必要なこととは――。20歳以上の年の差を感じさせない、共鳴し合う展開になった。

かつて成功したビジネスモデルは続くか?
答えは「ノー」

バブル経済真っただ中にスタートした平成は、「平成」という言葉とは裏腹にいろいろな危機に襲われた時代でした。金融危機に世界が震撼。阪神・淡路大震災や東日本大震災など大災害は、もはや「百年に一度」とはいえない頻度で発生しています。少子高齢化への対応ものんびりしていられません。GAFAに代表されるデジタル革命では、気づけば日本は周回遅れです。
こうした状況の中、かつて成功してきたビジネスモデルが続くかと問えば、答えは「ノー」。しかし、我々企業は持続的な成長が求められています。では経営者としてどうしたらいいのか――。その答えの鍵は「社会」です。自分たちが長年培ってきた技術力、R&Dといった力を活用し、社会が抱えている課題を解決していくことにこそ、これからの成長機会があると私は考えています。こういう会社を目指さなければ、我々に明日はありません。そうした視点から、私はCSV(Creating Shared Value/共通価値の創造)経営を推進しています。

世の中が急速に変化する中、いろいろな経営スタイルが可能だと思うのですが、CSVという考え方に共感する原体験があったのでしょうか。

磯崎 功典

氷結 震災後、福島産の梨を使用した「氷結」を発売※期間限定商品のため、現在は販売を終了しています

東日本大震災を通して
CSVは経営の根幹そのもの

以前はCSR(Corporate Social Responsibility/企業の社会的責任)という言葉を使っていました。しかし、東日本大震災を通して、これからの企業経営においては、CSRという概念では無理があるということに気づきました。震災では、キリンビール仙台工場も津波で大きな被害を受けましたが、折しも国内のビール市場が縮小する中、復旧か閉鎖か、社内にはさまざまな意見がありました。ただ、近隣には製缶工場や物流の会社もある。キリンが撤退しバリューチェーンがなくなれば雇用など地域への影響があまりに大きいと分かり、工場の復旧を決断しました。また、工場再開後に、風評被害で売れなくなっていた福島の梨や桃を使った缶チューハイ「氷結」を売り出したところ、実に多くの方に購入いただいたんです。この一連の流れはCSRではなく、まさにCSV。CSRがフィランソロピー的な活動なのに対し、CSVは事業そのものを通じ地域や社会に影響を及ぼす展開だと、私は解釈しています。特定の部署だけが行うことではありません。
CSVの提唱者マイケル・ポーター教授は「事業のポートフォリオを変えるのがCSVだ」とおっしゃいました。レッドオーシャンの中でチキンレースのような競争をするのではなく、社会がよろこぶ事業を目指す。そうして企業が成長すれば、新たなビジネスが創出される可能性もあると思っています。

CSVは経営の根幹そのものなのですね。僕は東北楽天ゴールデンイーグルスの立ち上げに、創業メンバーとして携わらせていただきました。楽天イーグルスが日本一になったときは既に同社を離れていましたが、よろこびや感謝の言葉が次々と球団に届く様を目のあたりにしました。そのとき初めて「僕たちはプロ野球チームをつくったのではく、地域の誇り、地域のシンボルになるようなチームをつくったんだ」と実感したのです。CSVという考え方にはその頃から自然に触れていたのかもしれません。

「とにかく売りなさい」ではダメ
定量化できない部分で競争優位に

キリンさんは2月に「よろこびがつなぐ世界へ」という新しいスローガンを発表しました。磯崎社長の「よろこび」って何でしょう?

私のよろこびは、とにかくお客さまによろこんでいただくことです。人には何らかのよろこびがありますから、私たちはそれを想像して商品やサービスを提供したい。でもそれだけでは一方通行です。お客さまが、私たちの考え方、企業方針や姿勢に共感してくれて、初めて企業価値や企業の存在意義が伝わるのだと思います。これが私のよろこびです。
新しいスローガンに込めた思いも、まさにそこにあります。ビールを飲んで皆で盛り上がること自体もよろこびですが、商品やサービスを通して「この会社の、この商品が本当にいいんだ」と共感し、企業の価値も認めてくださる。そのことで私たちは「この商品を、このサービスを提供してよかった」と感じる。そういう世界を築いていきたいですね。
例えばサッカーを観戦している人は、試合を見ているだけではなくその時間を楽しんでいます。私たちの商品がその時間をより豊かなものにできれば、サッカーを応援しているキリンの企業姿勢にも共感いただき、企業としての存在意義につながっていきます。

ビールは一つの商品ですが、体験も提供しているんですね。人生のいろいろな場面にキリンブランドが登場することも、会社としての価値になる。社員は、それを感じながら仕事をすることで、社会とつながる――。

そのとおりです。ミレニアル世代やZ世代とよばれる若い人たちは、「何のために自分は働いているのだろう」「会社の存在意義はどこにあるのだろう」と、社会との関係性を意識している人が多い。ビールや飲料や医薬品を売ることは仕事としてやらなければなりませんが、「とにかく売りなさい」ではダメ。自分の仕事が世の中にどう影響しているのか、社会の課題解決につながっているのか、そういう意義を感じないとモチベーションが続かないんですね。

人生百年時代といわれ、働く期間は延びていきます。このような時代には、一人ひとりがどういう働き方を選んでいくかが非常に重要になると思います。個人にも企業にも選択肢と可能性が広がる時代に、どういう企業が選ばれ続けるのか、個人はどういう働き方を選ぶのか――。僕は、これが今後、働き方を考えるうえで重要なテーマになると考えビズリーチという会社を始めました。

私自身ホテル事業に携わっていたとき、お客さまがチェックアウト時に「快適だった。ありがとう。また来るよ」とかけてくださる言葉で、また頑張ろうという気持ちになりました。たまにはお叱りの言葉もありますが、励ましの言葉が社員を元気にするんです。スローガンの「よろこび」には、そんな思いも込めています。

会社の資産として、人を定量化することはできますが、できない部分も必ずありますよね。これからの時代は、やりがいや働く意味など定量化できない部分が経営での競争優位性になりそうです。

南 壮一郎

多様な個性を認め合う社会の実現を目指した「東京レインボープライド2019」へ協賛

「Why? Why? Why?」と迫られることが、
イノベーションの原動力になる

磯崎社長のプロフィルを拝見すると、ホテル事業を立ち上げたり、アメリカやフィリピンに駐在したり多様な経歴をお持ちです。こうした経験は経営者としての仕事にどのような影響を与えていますか。

世界のいろいろな企業をみてきましたが、同じ会社にずっといる人は少ないんですよ。半分弱くらいは、転職やほかの経験をしてきた人たち。その人たちが即戦力になると同時に多様性を生む。その方が強い組織ができると思うんです。
終身雇用・年功序列では同じような考え方の人ばかりになってしまいます。さらには以心伝心などといいながら、本当は分かっていないのに、分かった気になってしまう。もっといけないのは忖度文化。人は誰しも「分からない」とは言いにくいですよね。ところが、「昨日、入社したばかりなので知りません」という人たちに「Why? Why? Why?」と迫られると、本質的な議論をしていないことに気づくんです。それがイノベーションの原動力になり、企業は強くなる。私はこういう会社にしたい。

僕にも似たような原体験があるんですよ。父の仕事の関係で、幼稚園から中学一年までカナダで過ごしました。もちろんそこではマイノリティー。その後日本に戻ったときも、米国の大学に進学した際もずっとマイノリティーだったんです。当時は順応することに必死でしたが、違いを理解し自分自身でその違いを埋めていきました。その中で一番重要なのは、伝える力より受け入れる力。コミュニケーション能力は「伝える力」と思われがちですが、一生懸命伝えようとしても、受け入れる側の意識がないと通じ合えないものです。
たまたま僕は、日本という心地よい環境「コンフォートゾーン」から出され、異文化と交流する機会が多かったからこそ、今まで「当たり前」とされてきたことに非効率や違和感を覚えた。だからこそ、それを埋めるための新しいアイデアやサービスが生み出せたのかもしれません。

日本にいれば快適なんです。しかしそれでは、国も企業も弱くなってしまうと私は思います。海外に出て、つらい思いや修羅場を経験してこそたくましく育つのです。そういう人たちがいることが企業の強みになる。海外を含め、いろいろな経験をしてきた人たちがいること、つまりダイバーシティーが本当に大事だと思います。日本はいま、この点で世界から何周も遅れています。でもこういう変革を起こせば、国も企業も遅れを取り戻す可能性が十分にあるのです。

「変わり続けるには、学び続けなくてはならない」
「熱い情熱を持ち、失敗を恐れず挑戦し続ける」

これまでの当たり前が通用しなくなる時代に会社が生き残っていくためには、変わり続けなければなりません。そして、変わり続けるためには学び続けなければなりません。新しい時代の考え方や価値観をきちんと観察し学べば、変わらねばと思うようになる。分からないことがあれば素直に認めることも大事です。一生、学び続けるつもりで自分自身を変え続けることが、これからの時代の働き方のキーワードになるでしょう。

私は、従業員には挑戦し続けてほしいと思っています。熱い情熱を持ち失敗を恐れず、苦労しながら――。挑戦すれば失敗することもいっぱいあるでしょう。でもそこから学べばいい。私自身も、ホテル事業を担当したり、アメリカへ飛んでいったり、会社はけっこう勝手なこともさせてくれました。この会社には、それだけの度量がありますし、私はこれからもそれを後押しします。過去の成功体験のまま続けていると、どうしても思考停止に陥り、社会の変化についていけなくなりますから。

そのとおりですね。僕も、100年続く会社を目指すより、100回変わる会社をつくりたいと考えています。

それから、皆さんにはもっと世界に目を向けてほしい。日本にはいいところがたくさんあります。でもその心地よさにつかってばかりでは、やはりダメです。世界に出て自分を厳しい環境に追い込み、「日本人は自分だけ、しんどいな」という経験をしてください。そうすればきっと、周りの景色が変わるはずです。

磯崎 功典

磯崎 功典(いそざき・よしのり)

1953年神奈川県生まれ。77年慶應義塾大学経済学部卒業、キリンビール入社。広報部、経営企画部などの経歴のほか、ロスアンゼルス駐在、キリンホテル開発、フィリピンのサンミゲル社などキリン本社以外でも多様な経験を積む。2010年キリンホールディングス常務、12年キリンビール社長、15年から現職。

南 壮一郎

南 壮一郎(みなみ・そういちろう)

1976年に生まれ、静岡県とカナダで育つ。99年米・タフツ大学数量経済学部・国際関係学部の両学部を卒業、モルガン・スタンレー証券入社。2004年東北楽天ゴールデンイーグルスの立ち上げに参画。09年ビズリーチを創業し社長に。14年世界経済フォーラム「ヤング・グローバル・リーダーズ」選出。

よろこびがつなぐ世界へ KIRIN

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