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先物・オプション投資の魅力

先物・オプション投資の魅力

現物とは異なる収益機会として注目が高まる先物・オプション取引。
個人投資家の参加も拡大する先物・オプション取引の魅力や投資戦略を紹介する。

  • 個人投資家による個人投資家のためのオプション取引講座
    第8回 デビットスプレッド

    守屋 史章
    オプショントレード普及協会 代表理事
     

    相場が崩れるとオプション価格は上がりやすい

    守屋 史章氏 オプショントレード普及協会 代表理事
    守屋 史章氏
    オプショントレード普及協会
    代表理事

    日経225先物、日経225miniはダイレクトに日経平均の上昇下落を利益に変えることが可能です。天井圏で売って予想通り下落すれば、また大底で買って上昇したときに利益を得ることができます。問題は誰にもそこが天井なのか大底なのかがわからないことです。特に大きな下落の後、底を打ったと思うタイミングに買いで入るのは相当な勇気がいります。いわゆる「落ちてくるナイフをつかむ」がごとく、さらなる下げの恐怖におののきながら買うことになります。もちろん、損切り(ロスカット)設定をすればよいのですが、「損切り水準までいったん押して、損切りになってから上昇に転じる」なんてこともよくあることです。また、相場が開いていない時間帯に損切りラインを超えて下落してしまっていれば大きな損失は免れません。そこで、オプション買いです。上昇を狙うのであればコール・オプションを使います。オプションを買う場合は、最初に支払った金額以上に損をすることはありません(損失限定)ので、その損失が投資家のリスク許容範囲内であれば、多少の逆行におびえることはないでしょう。

    図表1 日経225miniチャート~2018年2月の大きな下落
    図表1 日経225miniチャート~2018年2月の大きな下落

    損失限定ですから、もう一押しも臆せず、ここが底だと思ったときに逆張り的に果敢に買いで入ることができそうです。ただ、ここにも問題があります。すなわち相場が大きく崩れたときは、インプライドボラティリティー(IV)が高騰しているために、オプション価格が相対的に高いのです。相場の急変時はプットのIVが高まることはすでにお話ししていますが、オプションの世界では「プット買い+コール売り=先物売り」「コール買い+プット売り=先物買い」という合成関係が成立している(プットコールパリティ)ために、プットのIVが上昇するときは、コールのIVも上昇するのです。

    1週間の動きが数十円の相場と、1日で数百円も動く相場では、今後のボラティリティー(変動幅)がどうなるかの評価も異なってしかるべきです。そうであれば、数日で3,000円も動いた(下落した)相場における今後のボラティリティー評価は、非常に大きくなると考える人も多いことでしょう。これがオプション価格に表れます。つまり、IVが高い状態です。この意味でも、オプション価格は総じて高い状態になるわけです。

    実際、大きく下落した後の2018年2月13日、日経225miniが21,170円の時に、約600円上のC21750(権利行使価格が21,750円のコール・オプション)が320円、800円以上も上のC22000が245円でした。損失限定とはいえ、C21750は日経平均の900円の上昇でようやく損益分岐点到達、C22000にいたっては1,000円の上昇でも利益にはなりません。このように、大きく下げたときに大底を打ったと思うタイミングでコール・オプションを買うのは相対的に高いオプションを買うことになるため、利益になりにくいのです。

    下落後の相場で、コール買いで利益を狙うのは難しい

    実際に2月13日に245円だったC22000が、その後どのように価格が推移したのかを見てみましょう。

    図表2 C22000の損益推移
    図表2 C22000の損益推移
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    翌日相場はほとんど動いていませんが、C22000は190円に値下がりしています。55,000円の含み損です。高かったIVが下落したことが原因です。2日後、ポジション組成から280円上昇したにもかかわらず、C22000の価格は215円と30円の値下がりです。3日後、相場はスタートから570円も上昇しているにもかかわらず、わずか35円の値上がりにとどまっています。35,000円の利益が出ているにすぎません。

    原因は、まずはIVの低下です。24.63から3日後には18.92まで下がっています。IVの1ポイント変動あたりのオプション価格の変化を示すのが「ベガ」という指標です。ポジション組成時のベガは+18.88ですが、これはIVが1ポイント上がればオプション価格が18.88円上がる、1ポイント下がれば18.88円下がるということを意味します。実際3日間で5.7ポイントも下がってしまいました。ベガの値も一定ではなく、相場の変化により動いていますが、当初のベガを用いて計算すると18.88×(-5.7)≒108となりますので、IVの低下だけで100円以上オプション価格が低下したことがわかります。

    また、オプションはタイムディケイにより価格が低下します。1日当たりのその量を示すのが「シータ(=セータ)」です。ポジション組成時のシータは-9.7でしたので、3日で約27円の目減りがあることを示しています。

    せっかく相場の570円もの上昇によりコールの価格はデルタから相当程度上がったはずですが、IVの低下と時の経過の影響でオプション価格はわずか35円の上昇にとどまってしまったのです。

    このように、相場が大きく下落したタイミングで上昇をコール・オプション買いで攻めるのはなかなか難しいのです。そもそもIVが高い=オプション価格が高いのでひるんでしまいます。仮に上昇をピンポイントで当てられたとしても、IVの低下とタイムディケイにより利益になりにくいのです。

    ●そもそも現在の先物価格よりも830円も上のコールが245円(245,000円)もする。SQ勝負で負けたら245,000円全額を失う可能性あり
    ●先物価格が2日間で280円も上昇したのにコールはマイナス! 3日間では570円も上昇したのにコールはわずか+35,000円
    ●3日間のIV低下(24.63→18.92)による累計損=-103,829円
    ●3日間の時の経過による累計損=-27,111円

    ●IVが高い=オプション価格が高いと、大きな資金が必要、失うのも怖くひるんでしまう
    ●方向性が当たっても利益になりにくい=IV下落による減価と時間経過による減価(タイムディケイ)

    オプションの「買い+売り」で利益と損失を限定させる

    そこで「デビットスプレッド」です。デビットスプレッドとは、同種のオプションの買いと売りを組み合わせる戦略です。コールの場合は、オプション単体の買いに、それよりも高い(外の)権利行使価格のオプション売りを組み合わせます。コール買い+コール売りのポジションです。

    図表3 日経225miniチャート C21625(買い)+C21875(売り)デビットスプレッドエントリー
    図表3 日経225miniチャート C21625(買い)+C21875(売り)デビットスプレッドエントリー

    日経225miniが21,000円を越えてきたタイミングで、C21625を買うと同時に、それよりも250円上(外)の権利行使価格のC21875を売るということを考えます。「C21625買い(160円)+C21875売り(80円)」です。160円を支払って、80円を受け取ることになります。よって実質80円の支払い(=デビット)です。支払いのことをデビットというので、このポジションはデビットスプレッドと呼ばれます。最大損失額はこの80円。最大損失額はC21625単体買いならば160円のところ、C21875を売ることで80円に低減できました。

    C21625買い(160円支払い)+C21875売り(80円受け取り)
    ∴支払い(デビット)=80円 

    しかし、C21625単体買いであれば上昇益はすべてもらえるはずが、C21875を売りましたので、21875円以上の上昇益はC21875の売りからの損失で相殺される関係になります。したがってこのポジションは日経225miniの21,875円までの上昇で良しとしよう、という気持ちを反映したものでもあるのです。相場がいくら上昇しても21,875円までの上昇益ということになります。デビットスプレッドの最大利益はそれぞれの権利行使価格の幅から当初の支払額を引いた額になります。

    最大利益 = 権利行使価格の差 - 当初の支払額
    最大損失 = 当初の支払額 = 買い支払額-売り受取額

    今回の例では次のように計算できます。

    権利行使価格の差:21875 - 21625 = 250 ……①
    当初の支払額:160 - 80 = 80 ……②
    最大利益:① - ②= 250 - 80 = 170 ∴受け渡しベースで170,000円
    最大損失:② = 80 ∴受け渡しベースで80,000円

    図表4 C21625(買い)+C21875(売り) デビットスプレッドの姿
    図表4 C21625(買い)+C21875(売り) デビットスプレッドの姿

    IVが高いときはオプション総じて高いのであって、買うC21675のIVが高いときは売るC21875のIVも高いことになります。IVが相殺されますからIVの高いことがネックになりません。また、IV変動のオプション価格への影響量を示すベガの値も、タイムディケイの量を示すシータの値もいずれも単体買いに比べて4分の1~5分の1にまで低下しています。しかも相場の読みが当たって大底から反転して上昇に転じ、21,875円以上で着地した場合の最大利益17万円に対し、読みが外れた場合の最大損失8万円、つまり勝つとき17万円、負けるとき8万円という損小利大ポジションとなっています。

    損失が限定されていますので、多少の逆行もそれほどナーバスになる必要はありません。相場変動に一喜一憂することもありません。損切りも必要ありません。

    もし、もう少し上昇が強いだろうと思うのであれば、C21875ではなくそれよりも遠いC22000を売るというように、相場観を反映させることも可能です。

    このようにオプション単体買いのデメリットを相当にカバーしてくれるデビットスプレッドは、個人投資家がオプションを手掛ける上で必須の戦略になっています。

    図表5 C21625(買い)+C21875(売り)デビットスプレッド結果
    図表5 C21625(買い)+C21875(売り)デビットスプレッド結果

    最終損益+148,000円 / 投下資金80,000円(最大損失額)

    【ポイントまとめ】

    【ポイント①】
    相場の下落時などIVが高いときでも入れる!
    IVが高く買う方のオプションの値段が高くても、同様に売る方のオプションの値段も高い
    つまりIVが相殺されるから、IVの高いことがネックにならない

    【ポイント②】
    IVの低下やタイムディケイを気にしなくてよい!
    ベガ=+2.73(1枚買いの1/5程度) シータ=-3.53(1枚買いの1/3~1/4程度)

    【ポイント③】
    損小利大ポジション!
    支払いは80,000円(最大損失額) 最大利益170,000円(SQ値=21875円以上)

    【ポイント④】
    相場変動に一喜一憂する必要がない!
    損失限定なので、予想が外れても怖くない。一時的な逆行でろうばいすることがない

    【ポイント⑤】
    損切り不要!

    【ポイント⑥】
    相場観を反映させることができる!
    もっと行くと思えば売りのオプションを遠くに離すなど、柔軟にポジションを選択できる

    守屋 史章
    オプショントレード普及協会 代表理事
    宮崎県出身。慶應義塾大学法学部法律学科卒、同法学研究科修士課程修了。個人投資家として企業数社に投資し、ビジネスオーナーを務める傍ら、証券などへの投資をも手掛ける。投資におけるオプション取引を普及させることを目的に、金守遼太氏と共同でオプショントレード普及協会を設立。短期トレーディングから長期運用まで幅広い投資ニーズをかなえる資産運用を研究している。「オプションについて話せる仲間が見つからない」という孤独になりがちな投資の研究と意見交換を行える会員制のメンバーシップを中心に、個人投資家目線だからこその目からウロコの独創的アイデアと分かりやすい解説で、「わかる」「できる」をサポートする。