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先物・オプション投資の魅力

先物・オプション投資の魅力

現物とは異なる収益機会として注目が高まる先物・オプション取引。
個人投資家の参加も拡大する先物・オプション取引の魅力や投資戦略を紹介する。

  • 先物取引ABC
    第4回

    先物取引の実際(2)

    田渕 直也
    ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング 代表
     

    今回も引き続き先物取引の詳細を見ていきましょう。まずは、「サーキットブレーカー」という制度からです。

    東証マザーズ指数の値動きの大きさと「サーキットブレーカー」

    田渕 直也氏 ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング 代表
    田渕 直也氏
    ミリタス・フィナンシャル・
    コンサルティング 代表

    市場はしばしば急変に見舞われます。ここで過去10年間の日経平均株価の1日当たりの変動率の大きさを示すいくつかの数字を見てみましょう(図表1)。価格変動率が大きければ、それだけ大きな利益を狙える半面、損失を被るリスクも大きくなっていきます。ちなみに、過去10年で最大の下落率(-10.6%)となったのは2011年3月15日、東日本大震災の翌週火曜日、福島原発事故の深刻化が懸念されたときのことでした。

    さて、先物取引では、あまりにも大きな価格変動があったときに取引を一時的に停止する「サーキットブレーカー」と呼ばれる制度があります。たとえば価格が大きく下落すると、投資家の中にはパニックに陥って成行の売り注文を慌てて出す人もいます。最近では、コンピュータープログラムによるいわゆる「アルゴリズム取引」が増えていますが、価格が下落すると売り注文を増やすアルゴリズムも多くあり、それによって売り注文が急増して価格下落を加速させてしまうこともあります。そうした動きが重なることによって、市場の混乱に拍車がかかり、ときに暴落を招いてしまうことになるのです。サーキットブレーカーはそういうときに取引を一時的に停止して、パニックの連鎖が広がらないようにする制度です。

    図表1 日経平均株価の1日当たりの値動きの大きさ(過去10年)
    図表1 日経平均株価の1日当たりの値動きの大きさ(過去10年)

    取引の流れと「値洗い」

    先物取引を行ううえで、証拠金の拠出が必要となることは何度か触れてきました。この証拠金は、先物取引で生じた損失分の支払を確実に行えるようにする目的があり、取引金額に対してかなり小さい金額になるということでした。

    実際の取引を行うための必要証拠金額は、価格の水準や直近の価格変動率などから、取引所が定期的に計算しなおしています。また、一般投資家はまず証券会社に口座を開設してから取引を行うことになりますが、証券会社が顧客に求める証拠金額は取引所が求める証拠金よりも大きな金額となる場合があります。いずれにしても、取引をする際には事前に必ず確認することが大切です。

    さて、証拠金を拠出し、注文を出し、それが約定すると、「何枚買った」とか、「何枚売った」という状態になります。これを「建玉(たてぎょく)」といいます。もし当日中に反対売買をすると、建玉は解消して、

    取引枚数 × (売った時の値段-買った時の値段) × 1,000
     (日経225miniの場合)

    が損益として確定し、その損益分が証拠金の増減に反映されて取引は完了になります。

    し反対売買をせずに当日を終えたとすると、まだ最終的な損益は確定していないわけですが、当日分の評価上の損益が、証拠金残高を通じて日々清算されることになります。具体的には、取引所が算出する当日の清算値(日経225miniの場合、原則として日経225先物の終値・おわりね)をもとに評価損益が算出され、それが証拠金の増減に反映されます。これが「値洗い(ねあらい)」と呼ばれる制度です。(図表2)

    図表2 値洗いと清算の流れ
    図表2 値洗いと清算の流れ

    「追証」の発生

    ここで、たとえば必要証拠金が69,000円だとして、きっちり同額を拠出して日経225miniを1枚、21,300円で買ったとしましょう(レバレッジは30.9倍となります)。ところが、その後相場は下落してしまい、反対売買もしないまま当日を終えたとします。当日の清算値が21,200円になったとすると、証拠金残高は△100円×100=△10,000円分減ってしまい、必要証拠金額を下回ってしまいます。

    このように証拠金が不足してしまうと、追加で証拠金を拠出することを求められることになります。追加証拠金、略して「追証(おいしょう)」と呼ばれるものですね。取引を継続したければ必要証拠金を回復できるように追加で証拠金を拠出するか、そうでなければ反対売買によって建玉を解消する必要があります。つまり、拠出した証拠金を目いっぱい使って取引してしまうと、ほんの少し値段が不利に動いただけで追証が発生してしまうことになるわけです。ですから、多少の価格下落では証拠金が不足しないように余裕をもって取引をすることが望ましいと思います。

    ここで、もう一度、日経平均株価の1日あたり騰落率をみておきましょう。前にも説明をしましたが、先物価格の変動率にレバレッジをかけたものが、自己資金(証拠金)の増減率になります。この関係をよく理解して、自己資金が簡単に吹き飛ばないようにすることはもちろんですが、追証もできるだけ発生しないように取引をしていくことが大切です。

    SQによる清算

    さて、建玉を反対売買しないまま取引最終日を過ぎると、これまで触れたとおり、その翌日にSQ値による最終清算が行われます。SQとはスペシャル・クォーテーションの略で、特別表示価格というような意味合いでしょうか。日本語では特別清算指数といわれています。

    株価指数先物では、限月の月の第二金曜日の前営業日が先物取引の最終取引日です。自分で反対売買ができるのはこの日までで、この日の日中取引終了までに反対売買されなかったものが最終清算の対象となります。

    最終清算の基準価格となるSQ値は、最終取引日の翌営業日(つまり第二金曜日)の朝、指数を構成する各銘柄の「初値(はつね)」と呼ばれる最初の取引価格から計算されます。そして、最終清算の対象となった建玉はすべて、このSQ値による反対売買を行ったものとみなして差額清算されることになります。

    でも、このSQ日よりももっと先まで先物の建玉を継続したい場合はどうすればいいのでしょうか。

    例として2019年6月限の買い建玉を持っているとします。この建玉は6月7日には最終清算をしなければなりません。建玉はそこで消えてしまい、そのあとで自分の思い通りに相場が上昇する展開になったとしても、利益は得られなくなってしまいます。それを回避するためには、SQによる清算より前に、もっと先の限月に乗り換えておく必要があります。これを「ロールオーバー」と呼んでいます。

    6月限の買い建玉を継続したい場合には、6月限を売って次の9月限を買う取引を同時に行うわけですね。そうすると、6月限は反対売買によって建玉がなくなり、新たに9月限の買い建玉が生まれます。

    このロールオーバーは、6月限が取引できる取引最終日(6月6日)までの間に行う必要があります。異なる限月の間で買いと売りを同時に実行する注文方法として「カレンダースプレッド」という取引が可能なので、ロールオーバーにはこれを利用すればよいでしょう。

    田渕 直也
    ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング 代表
    日本長期信用銀行(現在の新生銀行)で、デリバティブのトレーダー/ポートフォリオマネジャーを約10年にわたり務める。以後、国内大手運用会社ファンドマネジャー、不動産ファンド運営会社社長、生命保険会社執行役員を経て現職。『図解でわかるランダムウォーク&行動ファイナンス理論のすべて』『確率論的思考』『入門実践金融デリバティブのすべて』(いずれも日本実業出版社)、『投資と金融にまつわる12の致命的な誤解について』(ダイヤモンド社)など多数の著書がある。