事業承継において、後継者の選択肢としてはおもに、子やその他の親族、会社の役員・従業員、社外の第三者の3つが考えられる。中堅・中小会社では現在でも、子などの親族内承継が主流だが、後継者を育てるには時間がかかる。役員・従業員が引き継ぐ場合も、経営のノウハウを学ぶための時間が必要だ。
だが、経済や社会の変化のスピードが非常に速くなっている昨今、後継者を育てるのに時間がかかりすぎると、世の中の変わり方に追いつけず、後継者が事業を引き継いでもビジネスが順調に伸びていかなくなることが考えられる。
その点、後継者が社外の場合は引き継ぎまでの期間が比較的短く、スピード感のある事業承継が行えるのが特徴だ。
社外への事業承継は、ビジネスを事業会社へ譲渡するM&Aと、プライベート・エクイティファンド(PEファンド)への株式売却に分けることができる。
M&Aは、中堅・中小会社でもすでに数多く行われており、件数も年々増えている。ただし当然のことながら、会社を買ってくれる相手を探さなければならない。
事業承継の形態別、後継者決定後、実際に引き継ぐまでの期間
出典:経済産業省・中小企業庁「2019年版中小企業白書」を基に作成
みずほ情報総研(株)「中小企業・小規模事業者の次世代への承継及び経営者の引退に関する調査」(2018年12月)
また、事業を買い取ってもらうに当たって、売り手会社は買い手会社によるデューデリジェンス(買収監査)を受けるため、財務、法務、事業、労務などに問題があれば、事前に解決しておく必要があり、事業を譲渡するまでに時間がかかるケースもある。
一方、PEファンドは投資家から集めた資金で非上場企業のオーナー経営者が保有する株式を買い取り、経営を支援して企業価値を高める。そして数年後に株式を売却して投資家に還元する。経営者だけでなく各部門で必要となる人材を派遣したり、新規事業への進出、新たな販路の開拓など、事業を成長させるノウハウを提供したりする。経営不振の会社や赤字会社をファンドが再生するケースもある。
PEファンドへの株式譲渡なら、後継者の育成や会社の買い手探しに費やす時間が不要で、経営に問題があるような場合でも、事業承継が可能になる。
“ファンド”というと、“ハゲタカ”的なイメージを持つ人もいるかもしれないが、それは過去の話。実績のあるファンドの力を借りることによって、事業を承継するだけでなく、企業価値をより高めることが可能になっている。ただし、ファンドが入ることによって、経営体制が大きく変わったり企業の風土・カルチャーが失われたりすることは避けたい。特殊な技術や独自のノウハウを持つ会社の場合は、それを正しく評価して、承継後のビジネスに生かすことができるファンドをパートナーにしなければならない。
したがって、ファンドを活用した事業承継では、ファンドのこれまでの実績を確認し、自社の事業分野に強みを持つファンドや自社に不足する経営資源を補ってくれるファンドを選びたい。事前に十分に話し合ってファンドと会社の相性をチェックし、ビジネスの将来像をファンドと共有しておくことも欠かせない。
後継者難で中堅・中小企業が廃業してしまうと、雇用が失われ、地域経済にも打撃を与える。事業を承継するための手段として、PEファンドの利用も選択肢に加えてみてはどうだろう。