昨年(2014年)10月末に日銀の追加緩和策とGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用資産における国内株式、海外株式の組入れ比率引き上げが発表されたことが契機となり、外国人投資家の日本株への資金流入が加速、日経平均株価はこの4月に15年ぶりに2万円を回復した。外国人投資家の日本株に対する見方はどのように変化したのか。また、企業に対する考え方において、外国人投資家と日本の個人投資家に違いはあるのだろうか。30年近く日本株の運用に携わり、現在はスプリングキャピタル社の代表である井上哲男氏と、企業のディスクロージャー・IR支援のトップ企業であるプロネクサスの伊藤直司氏がこれらについて語りあった。
■伊藤 今年に入ってから米国株式が横ばいで推移しているのに対して、日本株は上昇基調をたどり、4月に日経平均は2万円をつけました。この時点での今年の上昇率は15%近いもので、日米の株式市場の上昇率に大きな差が見られたわけですが、この背景にあるのはやはり外国人投資家の動きなのでしょうか。
スプリングキャピタル株式会社
代表 チーフ・アナリスト
井上哲男氏
■井上 そうですね。外国人が買っている理由は、官製相場とも揶揄(やゆ)されている現在のGPIFや日銀による日本株の購入に対して「持たざるリスク」を感じていることと、もうひとつは、好調な企業業績によって指数が上昇しても割高感を感じていないということが挙げられます。
■伊藤 「持たざるリスク」については、GPIFに加えて、国家公務員共済、地方公務員共済、私学共済なども日本株の組入れに動いていますが、まだまだ、他にも名前が取り沙汰されている機関もあります。ファンドには買うだけ(ロング・オンリー)のファンドだけでなく、買いと空売りを組み合わせる、ロング・ショートやマーケット・ニュートラルといったファンドも有りますが、かなり空売りには神経をつかっていると考えてよろしいでしょうか。
■井上 それはとても感じます。中長期的なタームで日本株の相対的なパフォーマンスが良いであろうというコンセンサスは出来上がっていますね。
■伊藤 もう一つの「割高感を感じていない」という部分とは?
株式会社プロネクサス
IR事業部担当部長
伊藤直司氏
■井上 伊藤さんがおっしゃられたように今年に入って米国株は横ばいの動きなのですが、PERは10%ほど上昇しているということは、米国の上場企業の1株当たり利益の見込みが10%も減少したということになるのですが、日本の日経平均構成銘柄の1株当たり利益は逆に10%以上も増加しているのです。
■伊藤 となると、次は実際に買う際に個別銘柄の選定基準とはどのようなものなのかということになりますね。
■井上 この部分では正直に申し上げますと、外国人投資家が必要と思っている情報と日本企業がIRとして示している情報にギャップがあるという印象を受けます。上場企業のうち、アナリストがカバーしているのはおよそ3分の1の企業ですので、定性的に銘柄を選択するボトムアップと呼ばれる手法のファンドマネージャーにとっては企業のIR情報がとても重要ですが、満足はしていないと思います。
■伊藤 一昨年に弊社で、外国人投資家などをパネラーとして招き、コーポレート・ガバナンスについてのディスカッションをしてもらったのですが、要らないものとして、「中期経営計画と株主総会」を挙げられた方がいたのは少しショックでした。
■井上 株主総会については3月決算企業の4割程度が同一日に集中しますからね。中期経営計画については、「なぜ来期の見込みを開示できないのに数年後の計数目標が出ているのか」という疑問があるようです。また、よく言われるのが、「ROE(株主資本利益率)や売上高利益率の目標を出すのは良いが、それを目標とする“理由”の説明がない」ということです。「この数字になれば、同業他社を何ベーシスポイント上回る」とか、相対的な優位性を述べてほしいという意見をよく聞きます。
■伊藤 IRとはつまるところ、「おもてなしの精神」なのだと思うことがありますね。法的に求められたディスクロージャー資料ではないので、投資家がどのようなものを求めているのかという部分を配慮して示すものだと思います。
■井上 その通りですね。飲食店がお客様に来てもらうためのおもてなしと同じです。投資家というお客様に来てもらうわけですから。以前、外国人投資家で、「日本語は分からないが、必ず、企業のホームページを見る」と言っている人がいました。ページを開いて汚い印象を持ったら買わないのだそうです。「玄関の汚い家はお客様を招きいれる準備ができていない」ということでしょう。