コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の導入などにより、上場企業にとっては、株主や投資家との対話を進める重要性が一層高まっている。そんな中、株主総会への個人株主への参加を促すため、スマートフォンを活用する動きが広がり始めている。その先駆けとなったのは、スマートフォンによる招集通知の閲覧や議決権行使サイトへの誘導の仕組みを導入したイオンだ。同社の佐々木真理子氏と、共同開発したプロネクサスの伊藤直司氏に話を聞いた。
――上場企業のIRへの取り組みには、昨今どのような特徴や変化が見られますか。
■伊藤 私は20年ほど前からIRの業務に従事していますが、この2、3年ほど変化の大きな時期はないと思います。その理由は大きく2つあります。まず、2015年6月に「コーポレートガバナンス・コード」が導入されたこと。これは、上場企業が守るべき行動規範となるものですが、それ以前は各社が独自の判断で進めていました。そこに共通の方向性が示されたことで、IRに関しても対応を迫られる結果となりました。
もう1つは、Webの利用が活発化したことです。これまでIRのツールといえば印刷物が中心でした。最近はそれに加えてWebをいかに有効活用するかという方向に変わっています。会社紹介などのコンテンツでは以前からWebが活用されていましたが、会社説明会などをオンラインで行う試みも始まっています。さらに経済産業省は株主総会の招集通知を電子化することを検討しています。それに先立って招集通知を発送日よりも前にWeb上で配信していく動きも出始めています。
――こうした流れの中でイオンは積極的に電子化を進めていますが、WebをどうIR活動に生かされていますか。
イオン株式会社
コーポレート・コミュニケーション部 部長
佐々木真理子氏
■佐々木 電子化という意味では、当社は03年にパソコンから議決権行使ができる仕組みを導入し、06年からはWeb上で招集通知や関連情報が閲覧できるようにしました。また、株主総会や決算発表の状況をいつでもご確認いただけるように当社のWeb上で動画閲覧サービスを提供しています。さらに、今回、プロネクサスさんと共同開発して、スマートフォンで招集通知を閲覧できる「スマート招集」サービスを開始しました。これは国内では初の試みです。
――電子化以外にも株主への情報提供を積極的に進めていますね。
■佐々木 当社では、「開かれた株主総会の実現」と「株主コミュニケーションの絶えざる進化」という方針のもと、経営のパートナーである株主の皆さまとの対話機会の充実を図り、ご意見を経営に適切に反映させることにより革新的で健全な経営を実現するように、さまざまな取組みを進めてきました。一例として、株主総会以外にも株主懇談会を毎年開催しており、昨年は、札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・広島・福岡の全国7カ所で開催しました。株主懇談会では、全国の株主の皆さまに経営陣が経営方針を説明するとともに、ご意見を直接承っています。
また、新たに株主になっていただけそうな方を対象にした個人投資家向け会社説明会を、イオンのショッピングセンター内で開催しています。日頃イオンを利用するお客さまに気軽にご参加いただき、新たに株主になっていただく取り組みで、株主および投資家の皆さまと直接対話できる機会の拡充に努めています。
■伊藤 イオンさんほどの大企業で、株主に対しこうした地道な取り組みをしている企業は多くありません。すでに十分な知名度をお持ちにもかかわらず、もっと自社のことを知ってもらおうとする姿勢は素晴らしいと思います。
株式会社プロネクサス
執行役員IR事業部長
伊藤直司氏
■佐々木 日常的な買い物でイオンをご利用いただいている方は全国に大勢いらっしゃいますが、さらにお客さまに、株主としてかかわっていただきたいと考えています。当社はさまざまな事業を展開していますし、環境やCSRへも積極的に取り組んでいます。それらを一人でも多くの方に知っていただきたく、全国で会社説明会などを開催しているのです。
一般的な個人投資家向けのセミナーで、参加者のうち実際に株式を購入してくれるのは、ほんの数%だと聞きます。当社の場合は会社説明会の後、多いときには20%程度の方が実際に株主になってくださるケースもあります。こうした経験から、会社のことを知っていただくのがいかに重要であるかということを実感しています。