【日本IBMのサービス部門のトップが語る「デジタル変革、その先にある世界」】デジタル変革パートナーとしてIBMが描く、最先端技術とビジネスの知見が拓く企業の未来とは ― 日経CNBC瀧口友里奈キャスターが日本IBMのサービス部門のトップ二人に聞く ―【日本IBMのサービス部門のトップが語る「デジタル変革、その先にある世界」】デジタル変革パートナーとしてIBMが描く、最先端技術とビジネスの知見が拓く企業の未来とは ― 日経CNBC瀧口友里奈キャスターが日本IBMのサービス部門のトップ二人に聞く ―

提供:日本IBM

テクノロジーの進化が人々の生活、価値観を変え、ビジネス環境が加速度的に変化している。ITが企業の生産性の向上や、人々の生活を便利にすることがメインだった時代は終わり、いまやITは完全に人々の生活の一部となり、企業にとっては他社と差別化するため、あるいは生き残るために欠かせない、まさに経営そのものになっている。
2018年に発表された『2025年の崖』は多くの経営者に危機感を与え、企業はデジタル・トランスフォーメーション(DX)を模索している。デジタルを活用して新しいビジネスやサービスを創出する企業、社会課題に取り組む企業もある。一方で、多くの日本企業はDXに取り組むうえで多くの課題を抱えている。例えば、既存システムの老朽化・複雑化に伴うリスクの高まり、そしてIT人材の不足。
日本IBMは“デジタル変革パートナー”として「お客様のお客様」の目線で、こうした顧客の課題をインダストリー、テクノロジー、グローバルの知見を融合して一気通貫で解決し、顧客とともに未来を切り拓いていく。デジタル変革第2章、その先へ。日本IBMが導く企業の未来とはどのようなものか。日本IBMのサービス事業を担う二人の事業部長に日経CNBCの瀧口友里奈キャスターが聞いた。

変革はIBMの企業文化。その経験・知見を社会や企業の変革に役立てる

瀧口友里奈さん

日経CNBC
キャスター
瀧口友里奈さん

瀧口 まず、お二人が統括する組織とご自身の役割について教えていただけますか。

加藤 私が担当するのはグローバル・ビジネス・サービス事業部(GBS)という組織で、お客様の将来構想や戦略の立案、それに基づくプロセス改革のコンサルティングから実現に向けたアプリケーションの構築、そしてその後の保守まで、一気通貫でお客様をサポートしています。

パーセル 私が担当しているのはグローバル・テクノロジー・サービス事業部(GTS)という組織で、業務アプリケーションを実装するITインフラの部分を担います。近年はインフラとしてクラウドを活用する事例が多く、あわせてAI(人工知能)やブロックチェーン(分散型台帳)などの先端技術を提供するケースが増えています。アプリケーション領域で力を発揮するGBS、それを支える基盤を担うGTSが一体となり、お客様の多様な課題の解決に取り組んでいます。

加藤 洋氏

日本アイ・ビー・エム株式会社
専務執行役員
グローバル・ビジネス・サービス事業本部長
加藤 洋

瀧口 IBMには長い歴史があり、コンピューターメーカーというイメージがあります。

加藤 IBMは100年以上前に誕生しました。1990年代まではメインフレームなどの大型コンピューターを中心としたハードウェア販売がビジネスの大半を占めていました。しかしその後、システムは小型化、多様化し、インターネットの普及、お客様ニーズの変化を受けてサービス事業にシフトしてきました。いまやIBMの売り上げの多くをサービス事業が担っています。時代の流れを読み、新しいビジネスモデルを創出し、そのために事業や組織の変革に取り組んできたのがIBMです。“Change”は我々のカルチャーです。これからはお客様のデジタル変革を支えるための基盤としてマルチクラウド/ハイブリッドクラウドが必要不可欠になると考えており、私たちは今も変革へのチャレンジを続けています。

ケリー・パーセル氏

日本アイ・ビー・エム株式会社
専務執行役員
グローバル・テクノロジー・サービス事業本部長
ケリー・パーセル

パーセル 変革はIBMの企業文化として根付いています。そして変革を担うのは人ですから、人材育成にはとりわけ注力しています。経営層から現場までが学びのマインドを持ち、新しい知識や技術を吸収しようと励んでいます。“教育に飽和点は無い”、これはIBMの創業者、トーマス・ワトソン Sr.の言葉であり、我々に根付いているもう一つの文化です。

加藤 これまで、IBMは日本初のオンラインバンキング、新聞づくりへのコンピューター導入、コンビニATMなど、新しい社会インフラづくりに貢献してきました。最近の例では、「IBM Watson」が金融や医療など様々な分野で社会に大きなインパクトをもたらし始めています。我々自身も“Change”を続けながら、お客様の変革をサポートし、変化し続ける社会を豊かにする、これがIBMのミッションだと考えています。これは創業当時から変わっていません。

テクノロジーと知見でフードロス、少子高齢化などの社会課題を解決

瀧口友里奈さん

瀧口 IBMはテクノロジーカンパニーという印象もあります。テクノロジーは企業のビジネスやサービスとどのような関係にあるのでしょうか。

パーセル テクノロジーはあくまでもツールです。「こんなビジネス課題を解決したい」、「こういう新サービスをつくりたい」といったお客様の目的を実現するために、私たちはあらゆる技術やノウハウを最適な形で組み合わせて提供します。テクノロジーが進化すれば、実現可能な選択肢も増えるでしょう。そこでIBMは、テクノロジーの視点から5年先を見据えた『5 in 5』という未来予測を毎年公表しています。

(図)5 in 5

瀧口 具体的にはどのような予測ですか。

パーセル 2019年に取り上げたテーマは「食の世界のイノベーション」です。AIやあらゆるものがネットにつながるIoT、ブロックチェーンなどを活用することで、5年後の食品サプライチェーンは大きく変わるでしょう。最新のテクノロジーをうまく使うことで、農業の生産性を高め食糧問題の解決に役立てることができます。また、食の安全性を高めることも重要であり、フードロス(食品の廃棄)を大幅に減らすための手段にもなるはずです。

瀧口 持続可能な社会づくりに向けた重要な取り組みですね。現在の社会課題、それに向き合う企業の取り組みとしてはどのような動きに注目していますか。

加藤 食や温暖化による環境問題など地球規模の課題は多岐にわたります。こうした大きな課題を一気に解決することは難しいでしょう。政府だけでなく、IBMを含めた各企業の地道な努力が求められます。DXは、そのための1つの突破口です。

ケリー・パーセル氏

パーセル 具体的な事例で説明しましょう。例えば、日本航空はこれまで紙ベースで行っていた整備業務にモバイル端末を持ち込み、業務プロセスを再設計、年間300万枚以上の紙を減らすとともに、整備士の働き方そのものを変革しました。整備士はより多くの時間を本来の業務である整備に費やし、航空機の安全と品質を一層高めることができました。もう一つは、世界的な海運企業であるA.P. モラー・マースク(本社:デンマーク)の例です。貿易にかかるプロセスは実は50年以上も昔から変わっておらず、例えば、アフリカで生産された花を欧州までコンテナに積んで輸送するのに約200もの手続きがあり、そのほとんど全てが紙ベースで行われていました。そのコストは輸送する花そのものの価格を上回るほどで、これが世界中で年間数百万個のコンテナ輸送を支えていました。同社はこのプロセスにブロックチェーンを導入し、貿易にかかる全ての手続きを電子化、改ざん不可能な分散型の台帳を使って可視化することで時間短縮や品質向上を実現しました(※1)。また、米国小売大手のウォルマートは、ブロックチェーンなどの先端技術を活用して食品トレーサビリティーの仕組みを構築しました。食品のサプライチェーンを可視化して安全性を高めるとともに、フードロスを減らす試みを進めています(※2)

「2025年の崖」が示す日本企業の課題とIBMの解決策

瀧口友里奈さん

瀧口 DXによって企業の競争力を高めるだけでなく、社会課題の解決を目指す。3つの事例はいずれも、社会全体を視野に入れた取り組みですね。日本企業のDXをサポートするための仕掛けのようなものはありますか。

加藤 1つが、「IBMガレージ」です。IBMのコンサルタントやエンジニア、デザイナーなどが「ガレージ」に集まり、お客様とのセッションを通じて短期間で新サービスなどを形にします。また、スタートアップ企業からも人を招いて参加してもらい、お客様とスタートアップ企業の共創の場としても活用して頂いています。いわば、DXのためのコ・クリエーションの場です。ポイントは、ただコ・クリエーションの場を提供するだけではなく、短時間で試作品を作り、実現イメージを確認することができる点です。多彩な人材と必要な環境が整っているからこそ実現できるアプローチです。

(図)IBMガレージ・サービス
瀧口友里奈さん

パーセル 幅広い専門性を持つ人材の厚みがこうしたサービスを可能にしています。例えば、IBMでは研究開発のメンバーや IoT、Analyticsなどの専門家がワンチームになるからこそ、アイデアでとどめずに試作、市場投入、スケールが可能になります。多様な人材による共創は、スピードが求められるデジタル時代においてさらに重要性を増しています。

瀧口 とはいえ、日本企業が実際にDXに取り組むうえでは課題もあると思います。克服すべき課題として何が重要だと考えていますか。

加藤 昨年、経済産業省が発表した『DXレポート』は示唆に富んでいます。このレポートは「2025年の崖」という言葉で日本企業のデジタル化の遅れに危機感を示しつつ、具体的な課題を指摘しています。それぞれの課題が重要ですが、私たちが特に注目しているのが既存システムの老朽化・複雑化に伴うリスクの高まりと人材不足です。

加藤 洋氏

瀧口 では、まず既存システムの課題からお聞きします。

加藤 同レポートは「技術的負債(Technical debt―システム開発などにおける未解決課題の蓄積)」に懸念を示しています。既存システムの維持管理費が膨れ、このままではIT予算の9割以上を占める可能性もあります。これでは、イノベーションに向けたチャレンジも難しくなるでしょう。では、デジタル時代に勝つためのIT構造はどうあるべきか、私たちは昨年、10のインダストリー(業界)ごとに「あるべき姿」を示したフレームワーク「次世代アーキテクチャー」を発表しました。お客様のデジタル変革をご支援させていただく際に、「次世代アーキテクチャー」を参考に、将来像に向けたお客様の現在地を知り、向かうべき方向性を明確にイメージしていただきます。

パーセル 企業を取り巻く環境変化は加速しています。こうした中で、デジタル時代に対応するためには、全てのシステムを一からつくっていたのでは間に合いません。そして異業種間のコラボレーションも大変重要です。自動車メーカと保険会社、スーパーマーケットと家電メーカーのような業界の枠を超えた異業種間でエコシステムを形成することで、シナジーを生みだし、これまでになかった新しい価値を生む時代です。次世代アーキテクチャーは信頼性と効率性と共に、エコシステムの形成を促進する柔軟性も兼ね備える必要があります。

ケリー・パーセル氏

「多様な人材による共創は、スピードが求められるデジタル時代においてさらに重要性を増していると思います」

瀧口 ビジネスとテクノロジーにまたがる豊富な知見やノウハウがあるから、それらを融合して各業界に適したフレームワークを提示できるのですね。

パーセル その通りです。また、このフレームワークにおいては、クラウドが非常に大きな位置づけを与えられています。お客様の中でも、クラウドの重要度はますます高まっています。最近はミッションクリティカルな基幹システムをクラウド化したいという相談を受ける機会も増えています。基幹システムとの連携により新しいビジネスやサービスを創出する、あるいは部門単位の変革から企業全体の変革へと進もうとしている企業も多くいます。こうした状況を踏まえて、私たちはDXの「第2章」が始まったと考えています。

IBMが開発中の塩粒大のコンピューター

IBMが開発中の塩粒大のコンピューター

加藤 第2章以降のDX実現に向けたクラウドの活用を考えるうえで、今年買収を完了したRed Hatの役割は重要です。いまや、多くの企業が複数の種類のクラウドを活用しています。現状では、それぞれのクラウドのフレームワークを用いてアプリケーションを開発しているため、他のクラウドに載せ替えたいと思っても容易ではありません。結果として、特定クラウドにロックインしてしまうことにお客様の多くが不安を感じています。Red Hatのミドルウェアを使えば、アプリケーションの可搬性が確保され、IT資産を長く活用することができます。また、IT環境を最適化するスピードを速めることもできます。

 既存システムの変革は切実な課題です。既存システムの維持管理費を圧縮して、デジタル施策に注力する、それがデジタル時代を勝ち抜くための大きな方向性です。私たちは日本企業のそのような取り組みを支援するとともに、社会課題の解決に向けて貢献したいと考えています。そのためにも、テクノロジーの研究開発は重要です。例えば、きょうお持ちした塩粒大のコンピューターもその1つです。

加藤 洋氏

 1平方ミリのチップの中に小さなコンピューターが4つ入っています。この小さなコンピューター1つには10年前のパソコンとほぼ同じ能力があります。IoTがさらに普及する将来に向けて、こうした技術開発は欠かせません。AIや量子コンピューターなども含め、先端技術の研究開発には一層注力するつもりです。我々サービス事業は、このようなテクノロジーを組み合わせ、お客様の課題に対する解決方法をご提供し、新しい価値を共創していきたいと考えています。

「お客様のお客様」の目線でDXをサポートし、顧客とともに未来を切り開く

瀧口 もう1つの課題である人材不足についてはいかがでしょうか。

パーセル IBMの取り組みの一例として、科学や工学、コンピューターについて無償で学べる学校「P-TECH (Pathways in Technology Early College High School)」についてお話ししましょう。IBMが政府機関やパートナー企業などに働きかけてP-TECHは設立されました。2011年に米国で1校目が開設され、今では4カ国100校を超えるまでになっています。日本では2022年4月に本格的なスタートを切る予定です。5年間のプログラムを通じて、今後不足するIT人材を育成します。

瀧口 最後に、今後の展望をうかがいます。IBMはどのようにして顧客企業の未来に伴走するお考えでしょうか。

瀧口友里奈さん

パーセル 以前、私たちが議論する相手は主としてお客様のIT部門の方々でした。今では経営層や事業部門との接点が増えています。つまり、ビジネスパートナーとしての役割を期待されているということだと捉えています。期待に応えるためには、私たちも「お客様のお客様」の目線で考えなければなりません。そんな姿勢を心掛けながら、DXの第2章、さらにその先の時代をお客様とともに切り拓いていきたいと考えています。

瀧口 ビジネスとテクノロジーを広くカバーし、厚みのある人材を擁するIBMの強みがよく分かりました。これまで以上に日本企業のDX、さらには社会課題解決をサポートしていただきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。