Cloud Vision Vol.1 アフターコロナで進む新たなビジネス態勢とDX化 見えてきた4つの課題とクラウド戦略とはCloud Vision Vol.1 アフターコロナで進む新たなビジネス態勢とDX化 見えてきた4つの課題とクラウド戦略とは

提供:日本IBM

新型コロナウイルスはビジネスのあり方を根本的に変えてしまった。リモートワークを実践するなかで、多くの企業がこのことに気づき始めたはずだ。これから先、ビジネスはコロナ前の元の姿に戻るわけではなく、むしろデジタル技術の恩恵をフルに活用して全く新しいビジネスのあり方や働き方を実現する時代がくる。その可能性に気づいたなら、今こそ先手を打つときだろう。アフターコロナのデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略を考えるとき、核となるのがクラウドの活用だ。すでにクラウドを導入している企業も、これから検討する企業も、課題が尽きない。各企業のニーズに合わせたクラウドの最適解はどう構築すればいいのだろうか。ニューノーマル時代のクラウド戦略について、日本アイ・ビー・エムの二上哲也氏と鬼頭巧氏に聞いた。

提供:日本IBM

ニューノーマルで企業が対応すべき4つの変化

――アフターコロナに向けて、企業は新たな社会や秩序を見据えたビジネスを再構築しなければならないといわれています。この“ニューノーマル”の世界に対するIBMの基本的な考え方をお聞かせください。

二上氏 新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言を受けてリモートワークが急速に進みましたが、オフィスに集まらずに働くことを前提としたビジネスや働き方への流れは、今後2~3年は続くと考えられています。

 この潮流は5~10年が経過しても以前の状態に完全に戻ることはないでしょう。できる限りリモートで仕事ができる環境を強化していくという流れが、ますます加速するとみています。

――新しい働き方や商流、商習慣が生まれようとしている中で、これから企業はどのような変化や改革を求められるでしょうか。

二上 哲也 氏

日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業本部 CTO
執行役員
二上 哲也

Profile
1990年代のJavaやWeb、2000年代のSOA、2010年代のAPIやクラウドなど、それぞれの時代におけるオープンな先進テクノロジーの推進をリード。現在はオープンなハイブリッド/マルチクラウドにフォーカスし、コンテナやKubernetesの普及に尽力している。

二上氏 大きく4つのポイントがあります。第1は「コア顧客との関係強化」です。リモートの働き方が中心となる中で、いかにして業務をこなし、お客様のエンゲージメントを高めていくか。従来の“訪問”や“対面”を代替する、顧客接点のデジタル化が、これまで以上に求められます。

 第2は「リスク態勢強化」です。新型コロナウイルスの第2波、第3波の感染が懸念されていますが、別の感染症のパンデミックや自然災害などのリスクもあります。企業はどんな事態が起こったとしても事業やプロジェクトを継続できる態勢を整える必要があるのです。

 第3は「コスト削減」です。新型コロナウイルスの影響下で多くの企業は従来のような収益を得られなくなっているだけに、より切実な課題となっています。

 そして第4が「自動化(省人化)の加速」です。社員がリモートで働けるようにするためには、その前提としてあらゆる業務やITのプロセスがオートマティックに動く状態にしておかなければなりません。

――アフターコロナは、非常に大きなパラダイムシフトが起きるということでしょうか。

二上氏 そうなのです。リモートだからこそ効率的になる、便利になる面もあるのです。例えば、出勤の移動時間が減ることで、お客様とより密に会話できるといったメリットもあります。オンラインの対話だと、それまで発言が控えめだった人がかえって発言しやすくなることもある。IBMは、コロナによる変化をネガティブには捉えていません。

“人の移動が制限される”ことを前提にした業務態勢強化が必要

新たなビジネス態勢で見えた4つの課題、クラウド活用が鍵

――先ほどの4つの課題に対して、IBMが提示している解決アプローチを教えてください。

二上氏 まず「コア顧客との関係強化」で重要なポイントとなるのはコミュニケーションです。IBMではWeb会議の「Webex」やビジネスチャットの「Slack」、コンテンツ管理の「Box」などのコミュニケーションツールを活用することで、スピーディーにかつセキュリティーを保持しながら、お客様のエンゲージメントを高めていきます。

 「リスク態勢強化」については、様々なITシステムの構築や運用を止めないように、リモートでのプロジェクト運営や開発を支援します。例えば、クラウド上のデスクトップ環境を各自が使用するDaaS(Desktop as a Service)を活用すれば、どこにいてもセキュリティーの不安を感じることなくリモートで業務を継続できる態勢が作れます。

 そして「コスト削減」については、例えばコンテナと呼ばれるクラウド技術を活用することでITコストの最適化を図り、結果としてハードウェアやソフトウエアのリソースを削減できる場合もあります。システムが大規模になるほどこの効果は大きく、あるお客様では年間数億円規模のコスト削減が見込まれています。

 さらに「自動化(省人化)の加速」については、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を使って業務プロセスを自動化するほか、AIを使ってシステムの運用業務を効率化します。具体的には様々な情報源から収集した履歴(ログ)データや障害データを一元的に分析したり、機械学習したりします。これにより人が介在するよりも格段に速く、ほぼリアルタイムでの異常検知を行うとともに、どんなアクションを取るべきか、IT管理者に対してアドバイスを行います。

――課題に対し柔軟に対応できるテクノロジーやツールが、クラウド上では豊富に取りそろえられているのですね。

鬼頭氏 まさにそこにクラウドを活用するメリットがあります。IBMは、”ビジネス”でクラウドを活用することを考えた製品やサービスを取りそろえています。すでにあるテクノロジーやツールを適材適所で活用し、課題を解決することができるのです。もちろん、クラウドの世界では、一度選んだテクノロジーやツールをずっと使い続けなくてはならないわけではなく、いつでも変えることができます。

鬼頭 巧 氏

日本アイ・ビー・エム株式会社
クラウド&コグニティブSW事業本部 クラウドインテグレーション事業部
事業部長
鬼頭 巧

Profile
ハイブリッド&マルチクラウドに対応したアプリ連携・構築・運用管理基盤であるIBM Cloud Paksの日本市場での立ち上げをリード。メインフレームからクラウド、ソフトウエアまでの幅広い知識と経験を基に、お客様のDX推進を支援。

 クラウドがすべてではないにせよ、クラウドテクノロジーを最大限に活用することで、企業はスピーディーに“ニューノーマル”を見据えたビジネス態勢に移行できます。

オープンなハイブリッド/マルチクラウド基盤

自社データセンターもクラウドもOK 使い勝手のよい環境が一番

――コロナショックの前後で、お客様のクラウドに対するニーズには変化がありますか。

二上氏 多くのお客様はすでに何らかのクラウドサービスを利用していますが、より使い勝手の良いクラウド環境を求める声が急増しています。自社のデータセンターとクラウドを組み合わせたハイブリッドクラウドや、複数のベンダーから提供されるクラウドを組み合わせて使えるマルチクラウドへのニーズが高まっています。

 さらに「どこのクラウド環境でもフレキシブルに運用できる」とか「開発のスピードを重視したい」といったお客様は、先述したコンテナ技術に注目し、お問い合わせをいただくケースが増えています。

――アプリケーションが稼働するために必要なリソースをまとめてパッケージ化するコンテナ技術。そのどのような点に注目されているのでしょうか。

二上氏 IBMが提供しているコンテナ技術を使えば、任意のアプリケーションをIBM Cloudのみならず他社のパブリッククラウドやプライベートクラウドに簡単に移動させることができるため、今回のような予測できない事態に対しても企業の対応力が高まります。

鬼頭氏 IBM独自の強みとして、アプリケーション開発、データ活用、マルチクラウド管理、セキュリティー対策などアプリケーションやシステムが共通で必要となる機能をコンテナ化した基盤製品を提供しています。世の中の潮流としてオープンソースの利用が好まれていますが、利用は煩雑となりその運用負担は大きいといわれています。従来、ソフトウエアで提供していた機能に加え、オープンソースのものもIBMが検証、サポート付きで提供しているので、お客様はソフトウエア間の組み合わせやサポートなどの不安が軽減されます。これを使用することで、お客様のニーズに合わせてアプリケーションの改修をクラウド上でもオンプレミスでも行うことができ、変化への対応スピードも上がるといったメリットがあります。

 共通の基盤製品を使うことによりお客様は、在宅を含めた遠隔地でアプリケーションを開発し、目的に合わせた最適なクラウドに展開して運用し、なおかつ全社的なガバナンスを効かせることができます。

――これらのクラウド技術の活用には、どのような業界のお客様が特に前向きに検討されていますか。

二上氏 金融機関のお客様からの商談が増えています。これまで金融機関のお客様はセキュリティーに対する配慮もあり、各ベンダーのプロジェクトメンバーを社内に呼び集めて基盤構築やアプリケーション開発を行ってきました。

 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、メンバーが集まることは困難となり、在宅でのリモート開発を進めざるを得ない状況となりました。

鬼頭氏 製造業のお客様も大きく動き始めています。「モノからコトヘ」というスローガンに象徴されるように、日本の製造業も従来、以前からの製品を作って売るだけの事業から、サービスを主体とした事業へのビジネスモデルへの転換が急がれています。

 そこでの新たな競争力の源泉となるアプリケーションをスピーディーに開発していく取り組みを、コロナの影響下といえどもストップするわけにはいきません。

クラウド・ジャーニーのすべてのフェーズに寄り添い、アフターコロナのDX化を推進

――今後、本格化していく企業のハイブリッド/マルチクラウド環境構築に対し、IBMはどのように支援していくのでしょうか。

鬼頭氏 IBMは、今後5~10年といった期間をかけてハイブリッド/マルチクラウド環境の整備に取り組もうとするお客様のクラウド・ジャーニー(クラウドへの道筋)に寄り添っていきたいと考えています。

 クラウド・ジャーニーには、クラウドの構想策定や戦略立案を行う「Advise」、既存システムをクラウドに移行して近代化(モダナイゼーション)する「Move」、クラウドの特性を最大限に生かしたクラウドネイティブのアプリケーションを開発する「Build」、ハイブリッド/マルチクラウドを全体管理する「Manage」といったフェーズがあり、そのすべてのフェーズを一気通貫で支援します。

 IBMは長年にわたり、企業のITシステムをお客様と一緒に作ってきました。またグローバルに事業を展開していますから、世界中のお客様のあらゆるニーズに寄り添ってきた歴史があります。目の前のお客様の企業にはどんなソリューションが必要なのかを考える知見は、クラウドの分野にも生かされています。

IBMが考えるクラウドジャーニー

二上氏 中長期的には、業界ごとに特化されたパブリッククラウドも提供していきたいと考えています。すでに米国ではBank of America社と協業し、金融サービス向けのパブリッククラウドを構築している事例もあります。堅牢(けんろう)な金融業界向けのポリシー・フレームワーク、IBMの世界最高水準の鍵暗号技術、金融サービスの規制遵守に関するコンサルティングを提供しているPromontory社のリスク分析やセキュリティー規制に関する知見などを実装したものです。

 このプラットフォームを利用する金融機関は、戦略的なアプリケーションやサービスを迅速に開発し、利用を開始することが可能となります。

 こうしたソリューションを提供できるのは、グローバルなビジネスを行ってきたなかで様々な業界のお客様の悩みを熟知しているIBMならではの強みと自負しています。また、デザイン思考でお客様のイノベーション創出を支援する「IBM Garage」というコンサルティング・サービスも提供しています。製品とサービスの両面からお客様に必要なものをご提案し、共にアフターコロナ時代に向けたDXを推進し、持続的成長を遂げていくための取り組みを後押しします。

  • 二上 哲也 氏
  • 鬼頭 巧 氏

取材は5月にリモートで実施しました