新型コロナウイルスの影響

隈 研吾氏 建築家
横田新型コロナウイルスによって様々な影響があった。生活が一変し、働き方が大きく変化した。現状をどう捉えているかお伺いしたい。
隈今は歴史の折り返し点だ。いままでの歴史は都市へすべてのものが集中する一方通行の流れで、結果として超高層ビルが建つ都市になった。しかし今回この状態が人間にとっていかに不自然だったかを気付かせてくれた。ここで、どのように折り返すことができるかが、これからの社会を決めていく。
横田地方はどのような影響を受けているか。
林﨑地域産業、雇用などの点で大きなダメージを受けた。かたや、いままでどれだけ旗を振っても難しかったテレワークは進んだ。東京圏で約半数、地方も含めた全国では3割超の方が経験した。新型コロナウイルスの影響がなければこのようなことは起きなかっただろう。テレワーク経験者の中には、東京に住まなくても良いという価値観をもつ人が現れ、地方移住に興味のある人が増えた。
横田東川町での影響はどうか。
松岡東川町は農業、観光、木工クラフト業の町。観光、木工クラフト業は大きな影響を受けた。かたやテレワークが注目された。旭川空港から車で10分の場所にあり、過疎でも過密でもない「適疎」な場所である東川は、テレワークをするには最高の地ではないか。
新しい形の地方創生
横田東川町において新しいプロジェクトを実施するとのことだが、そのきっかけは何か。
隈街歩きのできる「適疎」の町が空港のすぐそばにあり、大雪山から湧き出る水資源や大自然などこれ以上未来を感じる場所はないと思っていたが、新型コロナウイルスの影響において更に最適だとの想いを強めた。
東川町にまず自分たちの事務所をつくり、他社の方のニーズもありそうなのでサテライトオフィスビレッジを検討している。また、木工家具の産地として有名だが、人材やデザインなどすばらしいリソースがある。これを活用して発信していきたい。

林﨑 理氏
内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局地方創生総括官
松岡隈氏の作品や世界の木工作品などを展示するデザインミュージアムを構想している。この取り組みに企業版ふるさと納税を活用できればと考えて期待している。デザインミュージアムは北海道、そして日本の最高の魅力になり、情報を世界に発信していきたい。
横田企業版ふるさと納税の趣旨と活用への期待をお願いしたい。
林﨑企業版ふるさと納税は、志のある企業が地方創生を応援する税制として平成28年度にスタートした。制度をより活用してもらうために、令和2年度の税制改正において、税制上のメリットを最大約9割まで拡大し、手続きを簡素化した。加えて昨年10月には企業版ふるさと納税(人材派遣型)をつくり、企業から寄付に加えて人材を派遣してもらう取り組みを進めようとしている。企業にとっては人材育成、自治体にとってはお金とノウハウをもった人材を派遣してもらうというお互いにメリットのある制度だ。是非活用していただきたい。
テレワークの未来
横田テレワークの未来はどうか。
隈箱の中に人を詰め込めば効率的に働けるということが今までの常識だった。しかし詰め込まれることによるストレスや通勤など負の要因が大きかったことに今回気付かされた。
東川町での事務所の件を社内で話をした時に反響が大きく、希望する社員が思ったより多かった。家からではなく、思い切って北海道でテレワークをすることは、まったくいままでと違う生活だ。家族にとってもよい。実は皆が求めていたことかもしれない。
林﨑現在地方が注目されているが、地方移住の課題は仕事だ。やりたい仕事、東京で得られるレベルの収入がある仕事がないということが問題だった。しかしテレワークは東京の仕事をしながら、地方に移住できる。このような環境が整えば、地方移住の可能性は大きい。地方創生テレワーク交付金など様々な支援策で地方移住などを推進していきたい。

松岡 市郎氏 北海道東川町長
松岡テレワークは地方にとってチャンスだ。大自然が見えるオフィスにおいて、自分の気に入った最高の椅子に座って仕事をする。新たな働き方における需要は、家具などの地元産業にもメリットが大きい。
隈新しいワーキングスペースは、東京のオフィスをもっていっただけではつまらない。東川の場所に合った、木の椅子やテーブルで働きたい。現状のものは家庭用で、働くという目的にあったデザインはなかった。そこで新しいテレワーク時代にあった椅子や机のデザインのKAGUコンペをやったらどうかと考えた。若い人を応援し、若い人に東川町に関心をもってもらう。需要は世界中であるはずだ。
松岡KAGUコンペにも多数の若者が国内外から応募してほしい。地方の未来は都市や企業、世界の人々と連携し、お互いに繁栄できる「共に」のまちづくりにある。企業版ふるさと納税は大きな役割を果たすものと期待し、多くの企業の皆様へ呼びかけていきたい。
ポストコロナに向けて

横田 浩一氏
横田アソシエイツ代表取締役、慶應義塾大学特任教授
横田ポストコロナにおいて地方はどうなるか。
隈働き方が変わると共に住み方も変わる。東川町で新しい住み方を提案してみたい。働き方は大きく変わるが、その影響を受けて個人の住宅も変わってくるはずだ。各地域においてその場所に合った生き方、住み方、働き方を日本中で競いあう時代になる。今後日本の地方は面白い時代がくる。日本の地方は日本人が思うほどだめではない。新しい存在感を世界に打ち出せる可能性が大いにある。
林﨑地方創生は単なる町おこしではなく、日本全体に関わる話だ。東京一極集中を是正して地方に活力を持たせる。脱炭素社会、DXの流れを受けた形での地方創生を企業や自治体と協力して推進したい。東川町にはそのトップランナーとして大変期待をしている。
松岡「青い風がそよぎ渡り、若い緑が躍る」ような「適疎」なところで私だけの椅子に座り、時間を過ごす姿は美しく、写真になるもので、これが東川スタイルの一つである。「写真の町」東川町から、ポストコロナにおける暮らし文化の提言を皆様と共に連携できればと考えている。
横田本日はありがとうございました。