提供:日本証券アナリスト協会

【特別座談会】財務情報とESG情報を統合し企業と建設的対話の共創を アンケート調査「アナリスト業務におけるESG情報(非財務情報)」浮かび上がる課題

ニッセイアセットマネジメント チーフ・コーポレート・ガバナンス・オフィサー 井口譲二氏と野村アセットマネジメント 責任投資調査部長 今村敏之氏と青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科教授 北川哲雄氏(コーディネーター)

 日本証券アナリスト協会ディスクロージャー研究会が、「アナリスト業務におけるESG情報(非財務情報)」についてアンケートを行い、237人のアナリストから回答を得た。その結果をもとに、ESG情報をどのように活用して企業との建設的な対話を行い、企業価値向上を図ることができるのか、青山学院大学大学院の北川哲雄教授がバイサイド(投資家)のESG投資の責任者二人を迎えて語り合った。

高まるESG情報の重要性
アナリストはガバナンスを最重視

北川

今回のアンケートは非常に示唆に富んだ内容と思います。まずQ13、Q14ですが、アナリストにとってESG情報の重要性が高まっています。特に、バイサイドで非常に高いのですが、その理由として、ショートターミズム(短期主義)からの脱却と中長期の投資分析に欠かせないという声があります。率直な感想をお聞かせください。

Q13

企業価値評価における
ESG情報(非財務情報)の重要性

回答を円グラフに表した図。「重要だ」という回答は79%、「現時点では重要ではない」という回答は19%、「投資ホライゾンが短期のため、重要ではない」という回答は2%だった

Q14

企業価値評価にESG情報(非財務情報)を
考慮するべき事由(複数回答可)

回答を積み上げ棒グラフに表した図。1問目「中長期的に成長する企業の分析には財務情報とESG情報(非財務情報)を統合した分析が欠かせないため」という問いに肯定が90%、否定が10%だった。2問目「投資家の中長期的な投資リターンの拡大を目指す投資行動の要請が高まっているため」という問いに肯定が71%、否定が29%だった。3問目「その他の事由」に肯定したのは19%、否定したのは81%だった。
井口

2014年のスチュワードシップ・コード導入が大きいと思います。バイサイドを中心に200以上の機関が署名し、このコードに従って中長期の投資をしていくうえでESG情報を重視する状況になっています。

今村

従来のESG投資は環境、社会の課題解決に投資を利用する側面が強かったのですが、スチュワードシップ・コード導入以降の議論で大きく変わりました。企業価値向上のためには中長期的な経営課題であるESG要素の考慮が必要不可欠、という方向で大方のコンセンサスが得られたのだと思います。

北川

ESG情報の重要性が高まってきた理由は、お二人ともスチュワードシップ・コード導入が大きな契機になったとの指摘です。次にQ16ですが、Eの環境、Sの社会よりもGのガバナンスを重視する姿勢をどう解釈したらよいのでしょうか。

Q16

企業価値評価における
ESG情報の各情報の重要性

各情報での回答を円グラフに表したもの。環境情報については、非常に重要だ:21%、重要:32%、やや重要:32%、あまり重要ではない:11%、全く重要ではない:4%という回答になった。社会情報については、非常に重要だ:24%、重要:31%、やや重要:34%、あまり重要ではない:8%、全く重要ではない:3%という回答になった。ガバナンス情報については、非常に重要だ:57%、重要:28%、やや重要:12%、あまり重要ではない:2%、全く重要ではない:1%という回答になった。 各情報での回答を円グラフに表したもの。環境情報については、非常に重要だ:21%、重要:32%、やや重要:32%、あまり重要ではない:11%、全く重要ではない:4%という回答になった。社会情報については、非常に重要だ:24%、重要:31%、やや重要:34%、あまり重要ではない:8%、全く重要ではない:3%という回答になった。ガバナンス情報については、非常に重要だ:57%、重要:28%、やや重要:12%、あまり重要ではない:2%、全く重要ではない:1%という回答になった。
今村

投資家にとっての最大の関心事は企業価値であり、それはファイナンス理論で言えば、将来キャッシュフローの現在価値となります。必然的に中長期スパンの情報が重要になり、企業がキャッシュフロー創出のために、現在の非財務資本をどのように活用していくか問われます。その際に注目するのが将来の経営陣に経営のバトンを渡していく会社の仕組みです。指名委員会や報酬委員会を軸としたGのガバナンスの確立は、将来キャッシュフローの創出に直結するため、多くのアナリストがEの環境やSの社会よりもGのガバナンスを優先するのだと思います。もちろん企業の持続性のためにはEの環境とSの社会も重要ですが。

井口

私も企業価値を評価するESGという観点からGのガバナンスを重視します。北川先生もよく言われていますが、重要度の順では「ESG」ではなく「GSE」になると思います。ただ、ESGは個々に分割できるものではなく、ガバナンスが最上位にあってEの環境やSの社会を取りまとめているということだと思います。

また、Sの社会も企業をみる際に重要な要素となりますが、多くの投資家にはとっては評価するにはハードルが高いという面があると思います。Eの環境は、現状の環境報告書の開示情報では投資家の心に響かないということがあります。ただ今後はTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の流れの中で企業価値に結びつけた情報が出てくるので、Eの環境の重要度も高まると思います。

今村氏:投資家と企業の間に大きな期待ギャップも

野村アセットマネジメント
責任投資調査部長

今村 敏之

ESG情報の活用に向け
企業、アナリストの両者に課題

北川

Q17ですが、ESG情報がより活用されるための条件として、投資家、企業の双方に課題があると私は読みました。

Q17

ESG情報(非財務情報)が
今より多く用いられる条件等(複数回答可)

回答を積み上げ棒グラフに表したもの。1つ目「投資家からのESG情報(非財務情報)に対するニーズがより一層高まること」に肯定が88%、否定が12%だった。2つ目「企業においては、ESG情報(非財務情報)を「統合報告書」というツールで情報発信することが不可欠」に肯定が68%、否定が32%だった。3つ目「投資家サイドにおいては、財務情報とESG情報(非財務情報)を横断的・統合的に分析し、企業との建設的対話に結び付けることが不可欠」に肯定が87%、否定が13%だった。4つ目「企業において、ESG情報(非財務情報)を記載した「統合報告書」の開示内容を価値創造のプロセスに結び付けた内容に充実させること」に肯定が82%、否定が18%だった。5つ目「その他の条件等」に肯定が14%、否定が86%だった。
井口

我々にとって重要な課題が指摘されていると思います。つまり、投資家が開示されたESG情報をそしゃくできる能力を高めていくことの重要性です。その能力がなければ的確な開示情報を吸収し、企業価値分析に落とし込んでいくことができません。

今村

私も非常に興味深く感じたのですが、明らかに期待ギャップが生じています。投資家には企業にESG情報の開示を充実させてほしいという期待があり、企業には努力して情報開示しているのだからもっと活用してほしいという期待があるのではないでしょうか。まさに鶏と卵のような関係ですが、情報の使われ方というのはAIの登場も含め非常に多様化してきていますので、この期待ギャップというのは部分的に解消されても、また新たな形で生まれてくるのではないかと思います。

井口氏:投資家にESG情報をそしゃくする能力が必要

ニッセイアセットマネジメント
チーフ・コーポレート・ガバナンス・オフィサー

井口 譲二

北川

最後のQ18ですが、ESG情報に関わる調査や運用の態勢について、現状は様々なスタイルがあるようです。お二人の会社それぞれの取り組みをお聞かせください。

Q18

投資家等のあるべき具体的な態勢

回答を円グラフに表したもの。「同一のアナリストが企業の財務情報に加え、その企業のESG情報も担当する」が39%、「アナリストが所属する部署(企業調査)とESG情報(非財務情報)を担当する部署(新設を含む)が連携を取って対応する」が43%、「外部の第三者機関によるESG情報(非財務情報)を活用する」が10%「その他の態勢」が8%
今村

当社の場合、企業調査部隊が日本株で20数人おり、それ以外に責任投資を担当するESGスペシャリストがいるという分業態勢です。いまESG課題はテーマがグローバルで多岐に広がり、専門性の高い分野も多いため、ある程度分業しながら連携していくというやり方をとっています。

井口

当社は、10年以上にわたり、アナリストが企業との対話、開示情報の精査を通じてESG課題を見つけ、それを業績判断に落とし込んでいくことにしています。ただ、ESGの動きが激しくなる中、最近、社内にESG推進室を作りました。グローバルのESG調査などを行い、アナリストにフィードバックする仕組みを動かし始めています。主役はアナリストですが、それを補強する仕組みを作っているということです。

北川

回答結果が示す通り、外部の第三者機関によるESG情報を活用するという方法もあります。もちろんアナリストが専門分野を深耕し、同時にESG情報を含めて判断していくというケースも増えてくるかもしれません。それがアナリストの付加価値を高め、ひいてはスーパーアナリストへのステップアップにつながるのを期待したいと思います。

北川氏:ESG情報の活用でアナリストに付加価値

青山学院大学大学院
国際マネジメント研究科教授

北川 哲雄

コーディネーター