提供: 大日本印刷株式会社

「未来のあたりまえをつくる。~DNPがめざすイノベーション~」

「情報銀行」は新たな生活基盤になり得るのか?

DNP富士通が描く
「生活者の将来」に迫る

一世紀半に迫る歴史のなかで培った「印刷」と「情報」の強みを掛け合わせ、各種印刷物からICカードや包装、建材、エレクトロニクスなどへと事業領域を拡げ、社会課題を解決するとともに、人々の期待に応える新しい価値の創出に挑戦し続けている大日本印刷(DNP)。近年、力を入れている事業のひとつが「情報銀行」だ。生活者のパーソナルデータ(個人情報)を適切に管理・運用するこの取り組みは、“データを提供する生活者”と“データを活用する企業”それぞれに、どのような価値をもたらすのか。

「情報銀行」とは、生活者から預かったパーソナルデータを安全に管理し、流通させるための仕組みだ。生活者は情報銀行にパーソナルデータを預け、本人が公開したい範囲のサービス事業者にそのデータを提供する。そうすることで、生活者は自分の望むサービスの情報を効率良く収集することができる。またサービス事業者は、生活者の情報を基にした新たなサービスや商品の開発などが可能となる。昨今、世界各国でも個人情報の保護や活用の取り組みが広がっているが、この情報銀行の分野では、官民が両輪となって推進している日本が世界をリードしているといえる。

DNPは早くから情報銀行の事業に参画し、富士通とともにその基盤となるシステムプラットフォームを構築・提供してきた。情報銀行が今後普及することで、生活がどのように変わるのか、富士通の佐々木泰芳氏とDNPの岡田陽一氏が意見を交わした。

情報銀行はデータ管理・運用の新たな仕組み

写真:大日本印刷株式会社 岡田 陽一 氏

大日本印刷株式会社
ABセンター コミュニケーション開発本部
情報銀行事業推進ユニット
システムプラットフォームビジネス推進部 部長

岡田 陽一

※部署名や役職名などは対談当時のものです。

―― 情報銀行はどのような背景やニーズから登場したものなのでしょうか。

岡田氏 データ活用の重要性については政府をはじめ各方面で言われていることですが、データの中でもパーソナルデータの取り扱いについては課題がありました。データの持ち主である生活者一人ひとりの同意を得たうえで、個人のプライバシーを確実に保護しなければならないということです。このような「データを守りながら活用する」という、一見すると矛盾する課題を解決することは容易でなく、実現を手助けする“何らかの存在”が求められていました。

 そうしたニーズの高まりを受け、生活者に代わってパーソナルデータを安全に管理・運用するための仕組みづくりが官民共同で始まりました。それが、情報銀行という仕組みです。

佐々木氏 付け加えると、デジタル化の進展により、私たちのまわりには個人情報を含めて多種多様なデータがあふれています。多くの企業はそうしたパーソナルデータを有効活用して、新しいビジネスを成功に導きたいと考えています。

 ところが生活者は、どこでどのように自分のデータが使われているのかわからないという不安を抱えています。実際に気づかないうちに自分のデータが利用されていることも多く、生活者は自分の想定していない、望んでいない形でパーソナルデータが使われることに懸念を抱いています。情報銀行はそんな生活者の不安を解消するために、パーソナルデータの管理と開示判断を委ねることのできる仕組みとして登場したのです。

イラスト

 日本政府は2019年に策定したIT新戦略(世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画)において、情報銀行を「Society 5.0(日本が提唱する未来社会のコンセプト)時代にふさわしいデータ流通の核」と位置づけている。パーソナルデータに関する実効的な本人関与(コントローラビリティー)を高めながら、データの流通・活用を促進するという目的を果たすために、本人が同意した一定の範囲においてパーソナルデータの第三者提供を委任する日本独自の仕組みとして生まれたのが、情報銀行なのだ。

DNPと富士通の協業で両社の知見が融合

写真:富士通株式会社 佐々木 泰芳 氏

富士通株式会社
デジタルソリューションサービス事業本部
データ流通利活用サービス事業部 事業部長

佐々木 泰芳

※部署名や役職名などは対談当時のものです。

―― DNPと富士通は、どのような理由から情報銀行ビジネスに参入したのですか。また、どのような経緯から両社が協業することになったのでしょうか。

岡田氏 DNPにはチラシやダイレクトメール、ICカードの製造・発行、電子マネーや決済プラットフォームなどの取り組みを早い段階から行ってきた実績があります。また、データベースマーケティングやCRMなど、パーソナルデータを活用して販促活動を効率化していくビジネスも展開しています。長年にわたりこれらのビジネスを行ってきたことで、パーソナルデータを取り扱うための知見を蓄積してきました。つまり、情報銀行ビジネスに参入する下地が備わっていたと考えています。

 ただしパーソナルデータを有効に活用して、情報銀行という仕組みそのものを広めていくためには、DNP独自の強みに加えて、パートナーとの協業が不可欠です。とはいえ、実際に情報銀行の事業や、個人が自分の意思でパーソナルデータを蓄積・管理する「パーソナルデータストア(PDS)」のビジネスを展開している事業者は限られています。そこで、早くからPDSの研究開発に取り組み、豊富な技術力と実績を備えている富士通と手を結ぶことにしました。

佐々木氏 富士通はあらゆるITプラットフォームビジネスを展開しており、いまから5年ほど前にPDSの研究に着手して、この仕組みを構築するクラウドサービスの提供を2017年に開始しました。そうしたなか、PDSなどのシステムを利用し、パーソナルデータの管理を代行して第三者に提供する情報銀行が注目されるようになり、富士通はPDSを含めた情報銀行ビジネスへとシフトしました。

 DNPとはその当時から会話を重ねてきましたが、パーソナルデータを取り扱うビジネスを展開するDNPと、プラットフォームビジネスを推進する富士通の両社の思惑が一致したことから協業関係に発展しました。

 2016年12月の官民データ活用推進基本法施行により情報銀行の研究が本格化した当初から、DNPと富士通はそれぞれ独自に情報銀行の実用化に向けた取り組みを始動させている。当時は情報銀行ビジネスに参入する企業は少なく、両社はおのずと顔を合わせる機会が増えていったという。そうした中、富士通が提供するPDSの優れた機能に注目したDNPは、富士通へ正式にアプローチ。両社が協業して2019年1月に開発が始まったのが、DNPの「情報銀行システムプラットフォーム」だ。

 このプラットフォームは、生活者が自身のデータを安全に管理・追跡するための機能と、情報銀行の事業に参画する企業が必要とする各種機能(パーソナルデータストア機能、同意機能、証跡管理機能など)の両方の役割を担っており、新しいデータ活用ビジネスを目指す、さまざまな業界から注目されている。

パーソナルデータを価値あるものに変える

写真:大日本印刷株式会社 岡田氏

――情報銀行はパーソナルデータを提供する生活者に、あるいはデータを活用したビジネスを展開するサービス事業者に、どのようなメリットをもたらしますか。

岡田氏 生活者の多くは、実は自分のパーソナルデータに価値があると感じていません。しかし、データは活用の仕方次第で大きな価値になります。わかりやすい例では、プロスポーツ選手は報酬の交渉の際に代理人と契約し、その代理人は主な成績だけではなく、あらゆるデータを活用してその選手の貢献度を示し、交渉の材料とします。データを有効活用することは、自分でも気づかないような個人の強みなどを可視化することにもつながるのです。この代理人の役割と同じように、情報銀行は生活者のパーソナルデータを、価値あるものに変えるというメリットをもたらします。

佐々木氏 サービス事業者にとっての一番のメリットは、パーソナルデータの収集といった難しい課題を情報銀行が肩代わりしてくれることでしょう。情報銀行は、パーソナルデータの提供先のサービス事業者における個人情報の取り扱いも監督し、万が一の場合の対応も情報銀行が行います。

 プライバシーマークなどを取得していない中堅・中小企業などは、個人情報の取り扱いが不慣れであったり、情報セキュリティーに関する設備投資の負担が非常に大きかったりする場合がありますので、情報銀行の機能は大きなメリットといえるでしょう。

 情報銀行を利用すれば、生活者は自身のデータが安全に管理・運用され、さらにデータ提供の対価として、サービス事業者からさまざまな便益も受けられるようになる。情報銀行事業を展開するサービス事業者も、安心してデータを活用できるようになり、新しいビジネスを創出する絶好の機会となる。今後、情報銀行を通じたデータ活用社会が構築されることにより、生活者のパーソナルデータの健全な活用と社会のさらなる発展が期待されるのだ。

多くの実証実験を経て本番サービスへ移行

――情報銀行システムプラットフォームの運用が始まり、すでにいくつかの実証実験が行われています。その内容について紹介してください。

岡田氏 DNPは情報銀行システムプラットフォームの提供を開始する前から、情報銀行の実証実験を行ってきました。2017年12月~2018年2月には総務省の「情報信託機能の社会実装に向けた調査研究」に参加し、国内観光をターゲットとした「京都まちぐるみコンシェルジュサービス実証」をJTBと共同で行いました。これは、自身の属性情報や旅行に対する意識・価値観などにもとづいて、サービス事業者が利用者一人ひとりに最適な旅行プランなどを提供するものでした。また2018年12月~2019年2月には、中部電力と共同で地域内の情報流通で生活支援を行う「地域型情報銀行」の実証実験を行いました。モニターを募集してアンケートを行うとともに、自宅の電力使用量などの情報も活用して、モニター個人に合わせたサービスを提供しました。

佐々木氏 その後、情報銀行システムプラットフォームを利用した実証実験プロジェクトの第一弾として実施したのが、2020年2月~3月に行った丸の内データコンソーシアムの「副業マッチングサービス」です。このサービスはDNPと富士通、人材サービス会社のパーソルキャリアの3社が共同検証を進めたもので、多様化する働き方の一つである「副業」の支援に向けて、丸の内エリアの副業希望者と新たな労働力を求める企業とのマッチングを情報銀行を通じて実証し、その有用性とビジネスモデルの実現性を検証しました。

写真:佐々木氏 岡田氏

 「京都まちぐるみコンシェルジュサービス実証」では、旅行者の体験価値の向上、観光地の回遊・消費の促進を目指し、情報銀行を通じたサービス提供を実施した。スマートフォンアプリを使って、旅行者のパーソナルデータにもとづいて最適な体験サービスを提案するなど、情報流通の促進が旅行者の回遊に影響を与える効果が実証できたという。

 また、愛知県豊田市で行われた「地域型情報銀行」の実証実験では、地域の住民とスーパーなどの小売店の間でデータ流通・活用を促進し、日常の買い物の不便の解消と新たな“買い物体験”の創出を目指した。生活者のデータを地域の企業などへ流通させることで、データ活用に対する実感や満足感を生活者と企業の双方にもたらすという結果が得られた。

プラットフォームのさらなる機能強化を継続的に実行

――情報銀行システムプラットフォームのビジネスは始まったばかりですが、将来的にはどのようなゴールを見据えていますか。

岡田氏 新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けて、テレワークをはじめ、デジタルネットワークの活用が急速に進んでいます。そのような中でも、情報銀行は生活者が利用する重要な情報インフラのひとつとなっていくでしょう。

 DNPとしては、まずは情報銀行システムプラットフォームがインフラとして浸透していくことを目指しています。道のりは決して平坦ではありませんが、当面は生活者やサービス事業者の信頼をいただき、利便性を感じてもらうことを優先させながらビジネスを推進していきます。そのためには、情報銀行システムプラットフォームに必要な機能を順次加えていくことが重要であり、プラットフォームの機能強化を継続的に実行していく予定です。

 また次のステージとして、このプラットフォームを中心としたビジネスエコシステム(生態系)を形成するための動きを加速させたいと考えています。その一環として、情報銀行に関連する各種情報やサービス開発プログラムの提供などを行う企業間コミュニティー「情報銀行ラボ」の設立を予定しています。

 さらにプラットフォームの提供だけではなく、その基盤の上で運用するサービスも同時に開発しています。これらの取り組みを通じて、一人ひとりの生活を少しでも豊かにできたら良いなと思っています。

佐々木氏 プラットフォームというものは、万能ではありません。一定の機能を実装することは可能ですが、本当に必要とされる機能やアイデアは、その基盤の上でサービスを展開する企業との協業から生み出されていくものです。情報銀行という仕組みは、生活者にとって今後さらに利便性の高いものとなり、将来の日本社会を支えていくインフラとなるに違いありません。富士通は今後もDNPと協力し合いながら、情報銀行システムプラットフォームの機能強化を推進していく予定です。

 パーソナルデータの活用に関する経験と実績を積み重ねてきたDNPのノウハウと、富士通の技術力の融合によって生まれた情報銀行システムプラットフォームは、データを提供する生活者、データを活用する企業の双方にとって、安全・安心かつ有効な情報銀行の土台となるものだ。近い将来に本格化する安全なデータ活用時代に向け、今後は情報銀行事業を展開する企業のビジネスを支えるためのサービス提供基盤へと発展していくことだろう。

 これまでもアナログとデジタル、リアルとバーチャルの両方に関わってきた強みを生かしてビジネス領域を拡げてきたDNPにとって、今回の情報銀行システムプラットフォームは、ビジネスの変革をさらに加速させる可能性を十分に秘めている。そして、それが世の中に浸透し、新しい価値として受け入れられることで「未来のあたりまえ」になっていく。DNPは「未来のあたりまえ」をつくっていくため、社会課題を解決するとともに、人々の期待に応える事業に、これからも挑戦し続けていく。

写真:岡田氏と佐々木氏

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