提供:日本政策投資銀行

日本の地域工芸イノベーション Vol.2 玉川堂 代表取締役 玉川 基行氏

地域の工芸からなる地域発ものづくりの力を、地方創生につなげる取り組みを紹介する「工芸イノベーション」シリーズの2回目は、新潟県燕市で鎚起(ついき)銅器を製造する玉川堂 代表取締役の玉川基行氏。燕三条の金属加工品に代表される新潟県のものづくりは伝統工芸も盛んで、経済産業大臣指定の伝統的工芸品は京都府に次ぎ2番目に多く指定されている。玉川氏に地域の潜在能力をいかに発揮していくか聞いた。(聞き手は日本政策投資銀行地域企画部次長の中村郁博氏)

玉川堂(ぎょくせんどう)

1816年に創業。地場産業として有名な新潟県燕市の金属加工業の中でも銅板を鎚で叩き起こして銅器を製作する「鎚起銅器」(ついきどうき)の伝統技術を二百年に渡って継承している。世界主要都市において展示会や銅器製作の実演など、鎚起銅器を通じた文化的交流を図り、鎚起銅器産地の発展に尽力している。

日本の地域工芸イノベーション Vol.1 中川政七商店会長 中川 政七氏

「打つ、時を打つ」に込めた伝統工芸という作品

フォト:玉川堂 代表取締役 玉川 基行氏

中村玉川堂は工芸の世界で日本を代表し、海外のファンも増えています。2018年で創業202年を迎え、これまでの歴史の中で大切にしてきたものは何でしょうか。

玉川玉川堂の製品である鎚起銅器は職人が一枚の銅板を叩いて縮めながら製作します。金属は叩くと延びるイメージとは真逆です。「鉄は熱いうちに打て」に倣(なら)えば「銅は冷まして打て」なのです。鉄は熱いうちに打ち伸ばしていきますが、銅は冷ましても柔らかさが持続するからです。また鎚起銅器の特長には様々な着色がありますが、カラフルな着色ができるのは世界でも玉川堂だけだと自負しています。天然の液体(硫化カリウム液など)に付け、銅を酸化して色付けします。

玉川堂の始まりは近くにある弥彦山で銅が産出されたことによります。「命」の漢字を分解しますと、「人」が「一」枚の銅を「叩」く、ともなります。こうして職人が命を込めて銅を叩いて作った当社の製品をお客様にご愛用いただき、時を刻んでもらうことで価値が高まるのだと思っています。この大切なメッセージを「打つ、時を打つ」の当社スローガンに込めています。

フォト:玉川堂 ギャラリー

玉川堂 ギャラリー

大切なのは「伝統」の力による革新力

フォト:玉川堂 職人の仕事

中村「不易流行」という言葉がありますが、玉川堂が顧客から支持され続けるために変えてはいけないものと、変わらなければならないものをどう峻別(しゅんべつ)するのでしょうか。

玉川「伝統」と「伝承」は全く異なると考えています。伝承は前のものを受け継ぐだけのことであるのに対し、伝統とは革新の連続なのです。支持され続けるためには常に伝統を意識しなければなりません。例えば私が玉川堂に入社した1995年に、卸業者を介した販売をやめて百貨店へ直に売り込みを始めました。お客様の声を反映させたものづくりの必要性を感じたからです。そうして生まれた製品がぐい呑みやビールカップ、一輪挿しなどです。売り上げの中身も、従来は全体の8割を占めていた花瓶や額などの企業贈答品から、現在では8割が自家需要品に変わり、お客様と職人の距離が縮まりました。

さらに銅板を金鎚(つち)で職人が10万回ほど叩きながらつくる、継ぎ目なしのやかんや急須などの看板商品も昔のままではありません。お茶を入れるための機能性を高めるには内部の構造をどう改良するか。機能性を高めればデザインも変わる。機能美は必然的な美しさを秘めているのか。それが売れるデザインにもつながっているのか。とことん追求することが、伝統工芸品の本分でもあると考えます。

産地観光の先駆け「燕三条 工場の祭典」

中村燕三条には、工芸にとどまらず、工業品の製造においても活力のある企業が多くあります。その理由は何でしょうか。

玉川燕市と三条市の両エリアをまたいで、両市と地元企業や農家も一緒に様々な取り組みをしています。その一つとして現在、燕三条では「産地観光」に力を入れています。毎年10月に4日間開催している「燕三条 工場の祭典」です。2018年で6回目となります。このエリアの刃物やカトラリー(食卓用のナイフやフォークなどの総称)や農場など、100カ所以上の工場を一般のお客様に開放し、見学してもらうイベントです。ここでの工場は、「工場」「耕場」「購場」の3つを指します。初回の来訪者は1万人でしたが、2017年は5万人に増えています。

来場者の内訳は男女比が半々で、20~30代が割強を占めています。新潟県外からも4割と多く、「自分たちのまちでもオープンファクトリーをしたい」と視察も兼ねているようです。この工場の催しをきっかけに、新潟県内でも十日町の織物や五泉のニットでも同様の祭典が開かれるようになりました。地域の工芸を含んだ地場産業が工場を開放することで、地域住民が地元の価値を再認識したり、若者が域外から就職に来たり、国内外への発信力を高めたりできます。産地観光は今後、地域活性化の切り札として、発展する可能性が高いと思います。

玉川堂では普段から本店(燕市)での工場見学を実施しています。現在21人の職人がいますが、7人は女性です。平均年齢は39歳と、伝統工芸の分野ではかなり若い。毎年数十人の応募があり、2017年は約60人、18年は40人でした。採用は毎年1~2人の狭き門ですが、最近は応募者の9割が女性です。実際、「工場の祭典をきっかけに玉川堂に就職したいと思うようになった」と志望動機を挙げる東京の若者もいました。工場を開放することは採用面でもプラスになっていると感じています。

フォト:玉川堂 本店(燕市)での工場見学

玉川堂 本店(燕市)での工場見学

匠ルートで10年後は産地がショップに

中村玉川堂は2014年の東京・青山に続き、17年には銀座に直営店を開きました。また、外国の方の購入も増えています。ものづくりである地域工芸と海外市場の開拓では、どんなビジョンを描いていますか。

玉川先日、私も驚いたのですが、新潟空港にプライベートジェットで飛んで来て、そこからタクシーで本店に来られた香港のお客様がいらっしゃいました。このように、玉川堂の知名度が海外でもあがったことは、直営店を持ったことと、燕市・三条市のサポートで海外の有名な国際展示会に出ていたためと思います。そして、日本の伝統工芸を評価していただける市場は海外にも広がっています。実は私が産地観光に注目したきっかけもフランスのシャンパーニュメーカー、クリュッグ社とのコラボレーションでした。クリュッグの6代目社長が玉川堂の工場見学に訪れた際、涙ながらに感動されていました。その半年後、今度は私がパリ郊外のクリュッグを訪問した時、なぜか私も涙を流すほど感動したのです。その経験から、ものづくりに真剣に取り組んでいる姿を見せていくことが、これからの地場産業の方向性だと確信したのです。

最近よく言われる、モノ消費から体験型のコト消費のように、観光分野でもインバウンドを中心に、大都市での買い物から地方での自然豊かな風景を見て楽しむ旅へとシフトしているのではないでしょうか。私は10年後には、ゴールデンルート(東京~富士山~京都)でもない、サムライルート(名古屋~高山)でもない、ダイヤモンドルート(茨城~栃木~福島)でもない、究極のコト消費である、匠ルートによる産業観光の時代が来ると思っています。地場産業、農家、ワイナリー、酒蔵の生産者に会いに産地に行く。大都市のショップではなく、そこで生産者から直接商品を購入する時代の到来を予測しています。

例えば玉川堂の商品を購入される海外のお客様は現在、青山や銀座のお店で買われています。産業観光が本格的になれば、東京ではなく燕市にある本店で工場を見学し、職人から商品の説明を聞いた上で、その物が持つ真の価値に納得して買っていただくケースが増えてくると思うのです。それに向けて玉川堂は、産地観光に対応した街づくりに取り組んでいきます。

フォト:中村 郁博氏と玉川 基行氏

DMOとも連携 地場産業を街をもっと盛り上げる

中村地域工芸の会社が、産地観光、そして街づくりにも挑戦されていくと聞いて驚きました。具体的には、どのようなことをお考えなのでしょうか。

玉川まず玉川堂の取り組みとして、本店の周辺に、歴代の玉川堂の作品を展示するミュージアムを建設したいと思っています。また、燕三条とその周辺は、おいしい食材も多く、言わずと知れたカトラリーの産地でもありますので、地場のものを地場の食器で食べられるオーベルジュも考えていきたいです。これらの取り組みは、玉川堂だけでは実現できないので、新潟県下他地域の有力なDMO(観光地経営組織)とも連携しながら進めようと、既に話し始めています。

地域全体においても、工場の祭典により、燕三条のファンの方がたくさん生まれました。その方たちとのリレーションマネジメントを、より日常的に行っていく必要もあると考えています。2018年8月、それを担当する株式会社つくるを新たに立ち上げました。この会社はスピードを重視して、まずは玉川堂にて設立しましたが、ゆくゆくは志をともにできる複数の地域工芸の会社などによる増資を受けて、より機能を高度化・拡大していきます。今のオープンファクトリーの形態を、より通年型、そして組織化対応させることで、燕三条の地場産業をもっと盛り上げていきたいと考えています。

中村ありがとうございます。私ども日本政策投資銀行は、長期的な外部環境の変化の中で、産業やインフラそして地域のお客様が直面する課題に対し、創造的なソリューションを提供することで持続可能な経済社会の実現を目指しています。本日のお話しにより、工芸におけるイノベーションが地域の潜在力の発揮に大きな役割を果たすことが、改めて認識できました。引き続き、「工芸大国日本」を目指して、ご協働をいただければ幸いです。

フォト:燕三条 磨き屋一番館(燕市)

磨き屋一番館(燕市)

フォト:燕三条 日野浦刃物(三条市)

日野浦刃物工房(三条市)

PROFILE

フォト:玉川 基行 氏

玉川 基行 (たまがわ もとゆき)

株式会社玉川堂 代表取締役

1970年、新潟県燕市出身。2003年に七代目・代表取締役に就任。200年にわたる鎚起銅器の技術を継承し、世界主要都市において展示会や銅器製作の実演など、鎚起銅器を通じた文化的交流を図り、地場産業として国内唯一の鎚起銅器産地の発展に尽力している。14年8月、東京青山に直営店第1号の玉川堂青山店を開業し、17年には直営2号店である銀座店をGINZA SIX内にオープン。近年は「燕三条 工場の祭典」をはじめ、地域観光資源の掘り起こしとその魅力発信の仕組み作りをけん引、燕三条地域の産業観光都市化に取り組む。

フォト:中村 郁博 氏

中村 郁博 (なかむら ふみひろ)

株式会社日本政策投資銀行 地域企画部次長

1994年 日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)入行
東北支店東北復興支援室課長、アセットファイナンスグループ課長、都市開発部課長、日本経済研究所地域振興部長などを経て2017年4月から現職。
経済同友会「地方創生に向けた実態調査ワーキンググループメンバー」、国土交通省「国土審議会稼げる国土専門委員会委員」、日本観光振興協会「観光立国推進協議会DMO専門部会委員」などを務める。

日本の地域工芸イノベーション Vol.2
玉川堂 工場イメージ

玉川堂 工場イメージ

日本の地域工芸イノベーション Vol.1 中川政七商店会長 中川 政七氏
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