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Vol.27コロナ禍は企業に何をもたらすか事業転換を模索し
筋肉質に生まれ変わる

辻・本郷ビジネスコンサルティング株式会社
代表取締役社長

土橋 道章

経営課題
  • 経営戦略
  • 企業不動産戦略
  • リスク管理
  • M&A

新型コロナウイルスの感染拡大は日本経済を下支えしてきた中小企業にも深刻な影響を与えている。長年、中小企業経営者と伴走してきた経営コンサルタントの土橋道章氏に、感染拡大から半年間の中小企業の動きを振り返ってもらい、苦境を脱するためのヒントを聞いた。

コロナ禍の影響で、中小企業同士の
新たなM&Aが進む可能性も

 辻・本郷ビジネスコンサルティングは全国に拠点をもつ辻・本郷グループのコンサルティング会社で、クライアントの多くが中小企業だ。コロナ禍の影響を真っ先に感じ取ったのはインバウンド客を対象にビジネスを展開してきた企業で、なかには3月初めの時点で「影響は1年以上に及ぶ」と見切り、不採算店舗や事業を整理した企業もあるという。4月の緊急事態宣言以降は、インバウンドの有無を問わず、特にアパレル、飲食、観光分野で事態は深刻化。時間差で製造業や他の業種に広がっている。医療分野でもまちのクリニックなど、本音では休業したくてもそれができないジレンマに悩むところもあった。感染者が出た場合のリスクや、感染症対策のための設備導入は、個人規模の医院では想像以上に大きな負担になる。

 公的な給付金や助成金、あるいは政策金融公庫や信用保証協会、銀行などからの融資は、当初は申込みから着金まで2カ月以上の時間がかかったとはいえ、中小企業の当座の運転資金確保という点では一定の効果があった。

 「感染の第2波が訪れた夏場には、手元には十分な資金を確保できたものの、売り上げの回復はいつどの程度までかの見込みが分からない状況が生じた。手元資金や公的助成がある間に、管理部門や業務フローの見直しや、事業転換を試みる企業も増えている」と、土橋氏は現在の状況を捉える。

 転換の方向はさまざまだ。おしなべて事業のスケールダウンを検討する企業が多いが、「コロナ禍の状況で積極的な販売活動をしても大幅な売上増は見込めないと割り切り、粗利率の高い商品に絞る、受注フローを変更、提供時間を制限、これまでの営業活動や広告宣伝を停止や変更をして、コロナ禍を利用して実証実験する経営者も増えた」。秋以降は、こうしたアイデアの勝ち負けが出てくるだろうし、短期間で次の施策を繰り返しチャレンジする時期だと見ている。

話をする土橋氏の写真

 土橋氏が中小企業の経営に及ぼす中長期的な影響で重要だと見ているのは、企業同士の合従連衡や新たな集約化が進むことだ。「日本の中小企業の直面する事業承継の課題に加え、良くも悪くもマーケットが一時的に小さくなり、短時間で今後の事業の在り方について判断を求められている。事業の統廃合や企業のM&A(合併と買収)が進み、新たな業界再編の兆しを感じる」という。

 もしコロナ禍が企業経営に良い影響を与えるとすれば、危機だからこそ、ぜい肉を落とし、筋肉質に生まれ変わろうとする動きだ。日本の中小企業はこうしてたびたびの危機を乗り越えてきたことを忘れるわけにはいかない。

単なるハコではなく、
コンテンツとしての不動産に注目

 ところで、企業の不動産戦略はコロナ禍でどんな影響があったのだろうか。

 「不動産が本業の会社は別として、それ以外の一般の会社にとって不動産を持つことは、本業以外で稼ぐ仕組みをつくるということに他ならない。ヒトが稼いだ利益をモノや仕組みで稼ぐように投資する。これは、昔も今も変わらない企業経営の手法の一つ」としつつ、土橋氏は「コロナ禍の影響で不動産価格が下落したら、そこに投資したいと考える経営者は少なくない」と指摘する。実際には思うほどには不動産価格が下がっていないので、様子を見ているというのが現状のようだ。

 不動産の本質的な価値はパンデミック下でも変わらない。

 「リモートワークの進展で大きなオフィスは要らないという意見もあるが、それはあくまでも勤務場所としての不動産の話。たとえリモートワークが進んでも、本社はブランド価値の高いところに置いている方が、企業価値は高まる」という。

話をする土橋氏の写真

 ただ、どんな不動産に投資すべきかは状況と共に変わるので、「アセットの組み替えは定期的にした方がいい」とアドバイスする。不動産はB/S(貸借対照表)の数値を改善するためにも重要なアイテムだ。不動産は時代を反映するため、早め早めに動かしていくことが重要なのだ。

 保有から貸借へという不動産活用の流れにも大きな変化はない。むしろその流れは今後強まると見ている。

 「誰から物件を借りても同じ質であれば、借り手の側はすぐに安いほうに乗り換えるし、そこに飽きたら別のものに移行してしまう」

 それだけに貸し手は不動産というコンテンツを絶えず魅力のあるものに整備しておく必要がある。「単にハコを貸すのではなく、その中や周りにあるコンテンツも含めて提供するという考え方が重要。借り手のニーズに応じて、コンテンツをたえず見直し、それを魅力的に発信するということが、これからますます求められてくる」

 リモートワークが前提となる時代には、会社と社員の関係性も変わらざるを得ない。評価や給与を時間ではなく、成果で測る動きはますます強まると見られる。

 「それでも企業は人を通じてビジネスをしているのだから、経営者は考え方や環境の異なる社員をつなぎ止める目標や会社の方向を、より明確にしなければならない。そして経営者は社員に対して絶えずメッセージを発信する必要がある。特にオーナー経営者が多い中小企業ではそれが大切だ」と、土橋氏は語る。

笑みを浮かべる土橋氏の写真
土橋 道章(どばし みちあき)
辻・本郷ビジネスコンサルティング株式会社
代表取締役社長
 1981年山梨県生まれ。税理士。青山学院大学経営学部経営学科卒業後、個人会計事務所を経て2009年から辻・本郷税理士法人入所。法人および法人オーナーの会計・税務を中心に中小企業から上場企業まで関与。組織再編実行支援、連結納税導入支援、各種支援機構案件を含む事業再生、ハンズオンを実施。入所中、2016年明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科にてMBA取得。2017年から辻・本郷ビジネスコンサルティングに参画し、事業承継、M&Aを中心に業務従事し、2019年9月から同社代表取締役。その他、複数の顧問先役員に就任し、同世代の会社後継者の事業承継を実行支援。4児の父。
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