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Vol.26未曾有のパンデミックで
見えた新たな危機管理
企業経営にとって
対処すべき課題とリスク

インテグラル株式会社 代表取締役パートナー
スカイマーク株式会社 取締役会長

佐山 展生

経営課題
  • 経営戦略
  • リスク管理
  • 働き方改革
  • 企業再生

 新型コロナウイルスの流行は企業経営者にとって経験したことのない事象であり、さまざまな影響を及ぼしつつある。リスクが常在化する時代に、企業経営はどうあるべきか。インテグラル代表、スカイマーク会長の佐山展生氏に、未曾有の危機を乗り越えるためのヒントを聞いた。

在宅ワークがあぶりだす
企業人材の質

 今回のコロナ禍を「これから先、何が起こるか誰にも分からない。過去の経済危機に比べると、より底知れぬ怖さがある」と表現する投資会社インテグラル代表の佐山展生氏。倒産寸前のスカイマークの支援に乗り出し、3年連続の「定時運航率日本一」を達成した企業再生の達人も、今回ばかりは先が見えない。

 しかし「考えてみれば、日常というのは常にリスクが潜んでいるもの。いつ何時、危機が襲うか分からないからこそ、そのための準備を常日頃からしておかなければならない」ということに気づかされたのも今回のコロナ禍によるところが大きい。

 コロナ禍によって在宅ワークなど働き方改革が急激に進んだことにも注目する。「従業員の数だけ勤務体系があるべきだ」というのは佐山氏の持論だが、そうした勤務体系の導入がコロナ禍によって不可避のものになってきた。「勤務体系・雇用体系の多様化にいち早く適応できた企業こそがこれからは力を持つ」と断言する。

 さらに「在宅ワークではオフィスにいるとき以上に、自分から率先して課題を発見して、アウトプットしていく必要がある。それができる人とできない人の差が見えるようになった」とも言う。今は働き方の多様化を進め、人材の適正配置を進めるチャンスだが、それを可能にするのは、自律して働く従業員の存在だ。

話をする佐山氏の写真

 「自分で考えるというマインドを身に付けている人なら、会社がメニューを用意しなくても、自ら仕事し、学び始めるようになる。会社が今やるべきことは、スキルアップのための教育カリキュラムの充実だけではなく、社員のマインドの切り替えを促すことだ」と言う。

 コロナ禍ではオフィスの在り方も見直されるようになった。

 「出社するのが当たり前の時代は、そのためのスペースが必要。固定デスクを廃して、フリーアドレスにするという傾向はあったが、出社に及ばずということになると、スペースの使い方にも新たな考え方が生まれる。逆に言えば、どこでも働けるということで、住宅地や私鉄沿線の商店街の一角にオフィスを分散してもいい」。“どこでもオフィス化”というワークスタイルの変化が新たな消費需要を生むことにも期待している。

危機の時代だからこそ、
経営者は社員に直接語りかけるべき

 企業の財務面での対応に関しては、あらためて「現金がいかに大切か」を実感したという。航空業界の場合、コストのうちの約6割が、飛行機を運航させなくても出ていく固定費。この出費に耐えるために手持ちの現金や借入余力があればいいが、それが尽きたら経営は危機に瀕する。

 「経営を継続するためには、何カ月分の現金があればいいのか、それをどこからどのようなタイミングで調達できるのか、銀行など融資先との関係はどうなのかなどを、経営者は常に念頭に置いておくべき」。不動産もまた、急場の現金化の重要な手立てになり得る。「今資金的な余裕があれば、売れる不動産を確保しておくことも考えるべきだろう。自社所有がいいのか賃貸がいいのか、それぞれのメリット・デメリットを見極めながらそのバランスを図ることがあらためて重要になる」

話をする佐山氏の写真

 危機の時代だからこそ、経営者が従業員などのステークホルダーに向けて発信するメッセージは、インパクトのあるものでなければならない。

 「たとえ経営トップが20人ほどの社内会議で素晴らしいことを話してもそれは全社員に伝わらない。経営者が末端の社員にまでダイレクトに伝える。いつも何を考えて、何をしているのか。それを現場の社員に伝えることが欠かせない。とりわけ非常時の今だからこそ、現状と危機への対処法を伝える説明責任が経営者にはある」

 スカイマークではコロナ禍が始まって以来、全社員向けの説明会をオンライン会議で4回開催してきた。社員が納得するまで質問と回答が飛び交うという。氏が毎週発行する社員向けの写真入りのニュースレター「さやま便り」も、経営と現場をつなぐ重要なコミュニケーション手段になっている。社員と直接交流する機会は減ったが、むしろオンラインの会議や懇親会が増えたことで、社員一人ひとりの意見に耳を傾けることができるようになった。

 「会社を変えるためにまずは経営者がマインドを変え、そして社員へのダイレクトな発信を増やすべきだ」と佐山氏は語る。

笑みを浮かべる佐山氏の写真
佐山 展生(さやま のぶお)
インテグラル株式会社 代表取締役パートナー
スカイマーク株式会社 取締役会長
 1953年京都府京都市生まれ。洛星高校卒業、京都大学工学部高分子化学科卒業後、帝人に入社。11年にわたる化学技術者経験を経て、1987年に銀行に転じる。ニューヨーク大学大学院ビジネススクールでMBA取得。東京工業大学大学院で経営工学を専攻し、博士号を取得。1999年にPEファンドのユニゾン・キャピタルの創業に参加し、それ以降、投資ビジネスの最前線を走り続けている。2008年よりインテグラル代表取締役。2015年からスカイマーク取締役会長。その他、一橋大学大学院経営管理研究科客員教授、京都大学経営管理大学院 客員教授、京都大学大学院総合生存学館(思修館)特任教授、関西大学経済学部 客員教授なども務める。
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