質の高い提案型営業へ
事業構造を転換する
「AIが発達すると人間がやる仕事がなくなってしまう」というAI脅威論が流布されている。たしかに単純なオペレーション業務やデータ入力作業はAIやロボットに置き換わるだろう。しかし、「潜在的な顧客ニーズを把握し適切に提案する業務は人でなければ難しい。重要なのは量から質への事業構造の転換であり、そこにこそ差別化の源泉がある」と見立てるのは、事業構造改革や経営管理制度に詳しいコンサルティングファーム「アットストリーム」の大工舎宏氏だ。
一人ひとりの顧客の懐に入り込む質の高い提案営業や、顧客企業と課題を共有するためのサービス、あるいはそれらまとめる高度なマネジメントにこそ、いま企業は人材投資を向けるべきだと説明する。
こうした量から質への転換は、すぐに効果が表れるものではない。ROA(総資産利益率)やROE(自己資本利益率)といった目先の指標だけでは、投資効果を判断できない場合もある。「それでも、ビジネス改革の効果をKPI(重要業績評価指標)として可視化する役目が経営者にはある。例えば提案営業の強化を進めるときには、KPIは単純な提案機会の増加ではない。提案機会獲得件数の中でも、こちらからお客様の潜在的なニーズを発見して提案した結果、獲得できた新規案件の数を見るべき。その会社のオリジナル製品がどれだけ売れたのかも重要。その部分を増やすことが、結果的にその会社の競争力を高めることになる」と言う。
大工舎氏は『事業計画を実現するKPIマネジメントの実務』などの著書をもつ経営管理指標づくりの専門家でもあるが、「最近は単なる財務目標だけでなくSDGsやESGといった社会的指標や、中小企業庁が進めるグッドカンパニー表彰をKPIに含める企業も増えている」と指摘する。量から質への転換の時代にマネジメント指標も多様化しているのだ。
ローカル企業の
新たな成長戦略とは
今回のインタビューでは、地域に根ざすローカル企業にとって、これからは何が成長戦略になりうるのかという問いもしている。これに対して大工舎氏は、「地域を一つのまとまりとして考え、地域の特色を明確にしてインバウンド需要を呼び寄せること」と同時に、「豊かな人との触れあいがあって、高齢者も安心して暮らせるなど、その地域にしかないような世界を自己完結的に実現すること」の2つを挙げている。
「こうした街づくりを誰が担うべきか。行政かもしれないし、地域の老舗企業かもしれない。理想的には、官民一体のスキームの中に、地場の産業が関わっていくべきだが、これができるとローカル企業の新たな成長戦略が描かれるようになる」と言う。
ローカル企業の成長戦略を考える上で重要な視点は、地域のハブになるということだ。「これまでこうした地場産業の育成支援に関わってきた地方銀行などの金融機関も、近年は異業種との連携を武器に、企業の多様なニーズをワンストップ的に解決するハブの役割を担うようになってきた。資金需要の話を聞きに行ったら、物流拠点増設や幹部人材育成の相談をされる。これらは本来、金融機関の仕事ではないが、不動産企業や人材育成コンサルティングとネットワークを組んで提携すれば、支援可能だ」
このネットワーク型の地方ハブという考え方は、不動産企業にも当てはまる。不動産を一つの企業と相対で仲介・売買するだけでなく、狭い土地であれば、他の地主を巻き込んで高度な土地活用を促すといった提案ができるはずだ。最初は不動産ニーズから相談に乗るものの、真のニーズを捉えれば、ジョイントビジネスやM&Aなど、より高度な経営課題克服の支援ができるかもしれない。
「ハブ機能を自社の事業のコアに取り入れ、継続的に企画・実行し続けることが重要。単にハコモノの観光名所を作ってそれで終わりということではいけない」と、大工舎氏は地方企業の課題を指摘している。
「スペシャリストの智」ではこの模様をさらに詳しくご紹介しています。
- 大工舎 宏(だいくや ひろし)
- 株式会社アットストリーム 代表取締役
- 1991年アーサーアンダーセン入社後、1995年から経営コンサルティング業務に従事。2001年に株式会社アットストリームを共同設立。現在、同社代表取締役。公認会計士。主な専門分野は、事業構造改革の企画・実行支援、KPIマネジメントなど各種経営管理制度の設計・導入支援。著書:「事業計画を実現するKPIマネジメントの実務」他、多数。