企画や商品開発、プレゼンテーションの準備時など、ビジネスでは「アイデア」を求められる場面が少なくない。だが斬新なアイデアがなかなか思いつかない、そもそも「発想」自体が苦手だという人もいるのではないだろうか。
そんな人にとって良いヒントとなるのが本書『だから僕は、ググらない。』。作家・広告制作企画者として多くのアイデアを生み出してきた浅生 鴨氏が、自身の発想法を惜しげもなく披露している。発想法といっても、浅生氏がメインに行っているのは「妄想」だ。いかに「変なこと」を考え続けているのかという視点で、日ごろ行っている自身の思考プロセスを明かしている。
なお著者はNHK在籍時に「中の人」として同放送局の広報局Twitterを担当。現在では小説、エッセイなどの執筆活動を行っている。
浅生氏はアイデアを生むプロセスを「植物の栽培」に例えている。アイデアの種を撒き、育て、有望なものを最終的に形にしていく。花となって実現するかどうかは分からなくても、できるだけ多くの種を集める作業が大切だ。この、種を集めるプロセスに相当するのが「妄想」なのである。
妄想は誰もが行っていることだが、浅生氏の妄想は濃い。例えば、「台風一過」というニュースを見聞きしたら、「台風一家」と脳内変換する。このあたりまでは普通に思いつく。だがここから、台風一家の家族構成や会話、一家ならではの悩みなども妄想していくのが浅生流だ。台風吾郎に妻の台風沙知絵、高校生の娘・台風雅子と台風翔子の四人家族。台風一家は平均的な生活を送っているが、台風の時期は違う。「台風一家」というダジャレを思いついた人の元に、家族総出で駆けつけなくてはならないのだ……。
このように妄想は「やりすぎ」なくらい深めていくことが重要なのだという。日ごろからこんな妄想を積み重ねていくと、集めたアイデアの種がある日、急に役立つそうだ。
浅生氏が「妄想」にこだわるのはどうしてなのか。それは妄想することで、広がりや奥行きのある情報が手に入るからだ。
何かを考えるときに、インターネットで検索すれば、欲しい答えがダイレクトに見つかりやすい。しかし頭の中で妄想をすると「必要な答え」になかなかたどり着かないと同時に、「必要でない」情報も手に入る。こうした予想外の情報にたくさん出会っておくことが、新しい発見や発想につながるのだという。本書のタイトル「ググらない」の意図もここにある。「無駄」「無関係」に見える情報が、アイデアの肝なのだ。
本書では具体的な手法として、モノを擬人化する方法や、「だから」という順接と「しかし」という逆接を交互に使って発想する方法など、数多くのコツを紹介している。妄想はいつでも、どこでも、誰にでもできる。すぐにググる癖があるならば、本書の妄想法にトライしてみてほしい。思わぬアイデアに出会えるかもしれない。